公害対策の基本となる事項を定めるため1967年に制定された法律で、環境基本法が公布、施行された1993年(平成5)11月19日まで施行され、廃止された。昭和42年法律第132号。同法は、国民の健康で文化的な生活を確保するうえにおいて公害の防止がきわめて重要であることにかんがみ、事業者、国および地方公共団体の公害の防止に関する責務を明らかにし、ならびに公害の防止に関する施策の基本となる事項を定めることにより、公害対策の総合的推進を図り、もって国民の健康を保護するとともに、生活環境を保全することを目的とし(1条)、各種の施策を定めている。
すなわち、まず公害を、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、および悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生じることをいうと定義し(2条)、ついで、環境基準の設定(9条)、国および地方公共団体の施策(10条以下および18条以下)、公害防止計画の策定(19条以下)、公害紛争の処理および被害の救済(21条)、費用負担(22条)などの施策の基本ないし理念を規定し、最後に、公害対策会議および公害対策審議会について定めを置いている(25条以下および27条以下)。これらの施策の多くは、それらを実施するために個別の法律がつくられており、本法を直接の根拠とする施策は、環境基準の設定と公害防止計画の策定の二つである。
[淡路剛久]
日本における公害対策に関する最も基本的な法律(1967公布)であったが,環境基本法の制定(93年)に伴い,廃止された。日本における公害問題は,1887年ごろからの足尾銅山の鉱毒事件,97年ごろからの別子銅山の煙害事件など,その歴史は日本における資本主義の発達と軌を一にする。すなわち,資本主義国家形成の段階では,公害の規制より工業の発展が重視されていたが,第2次大戦後は事情が変わり,公害が社会問題として重視されはじめた。この結果,まず地方公共団体が公害防止条例の制定に着手し,国も江戸川の本州製紙工場の排水問題を契機として水質保全に関する法を制定した。さらに,熊本県における水俣病,新潟県阿賀野川流域における水銀中毒事件などが発生した。また,所得倍増計画を中心に急速な経済発展が図られ,臨海コンビナートの建設,エネルギーの転換など,大気汚染問題も重要な社会問題となりはじめた。
このような公害の続出とその対策を迫る声の高まりを背景として,本法が制定された。本法は公害対策の体系を整備し,その総合的推進を図り,国民の健康の保護と生活環境を保全することを目的としていた(1条)。本法は,事業者,国,地方公共団体の責務,環境基準,国,地方公共団体の施策などの公害防止に関する基本的施策,費用負担および財政措置,公害対策会議および公害対策審議会などについて規定した。
本法のうち,最も問題となったのは,経済調和条項である。すなわち,公害対策基本法は,はじめ〈生活環境の保全については,経済の健全な発展との調和が図られるようにするものとする〉と定めていたが,1970年のいわゆる〈公害国会〉においてこの条項は削除された。これは,四日市における大気汚染,東京における光化学スモッグの発生,瀬戸内海における赤潮の発生など,公害が深刻化し,複雑化したのに対応し,原因者責任を明確にしようとしたものである。第2に,本法は公害概念を拡大し,従前の大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,地盤沈下,悪臭の6典型公害に,土壌汚染が加えられた。本法では,公害とは,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気汚染,水質汚濁等によって人の健康,生活環境に被害が生ずる場合であり,それぞれについて,規制法が定められていた。したがって,公害対策基本法にいう公害は,一般にいわれている環境汚染より狭く,法律上限定されたものであった。
公害対策基本法における国の施策の中心は,現に公害が著しく,公害防止の総合的施策を必要とする地域等につき,内閣総理大臣が関係都道府県知事に対し,公害防止計画の作成を指示することであった(19条1項)。千葉県市原地区等にこの計画が策定された。
→公害
執筆者:木村 実
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国民の健康と生活環境を守るために公害防止の基本事項を定めた法律。高度経済成長下の公害の激化を背景に,1967年(昭和42)8月公布。経済調和条項が公害対策を妨げているとの批判が高まり,70年のいわゆる公害国会で全面改正され,調和条項を削除。大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭の典型7公害に対する施策および公害防止事業の費用負担原則,中央公害対策審議会の設置などを規定し,具体的な環境基準は個別規制法で定めている。ただし対象範囲が公害問題に限られているため,地球環境問題には十分対応できないとして,93年(平成5)11月に廃止され,新たに環境基本法が制定された。
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… 欧米では公害とまったく同じ概念はないが,air pollution(大気汚染),water pollution(水質汚濁)などを総称して,environmental pollution(環境汚染)またはenvironmental disruption(環境破壊)ということばを使っている。 日本の〈公害対策基本法〉では,その第2条において,次のように定義している。〈公害とは事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。…
※「公害対策基本法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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