公益通報者保護法(読み)こうえきつうほうしゃほごほう

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

公益通報者保護法
こうえきつうほうしゃほごほう

内部告発(公益通報)した従業員らを解雇などの不当な扱いから保護する法律。平成16年法律第122号。内部告発で三菱(みつびし)自動車のリコール隠しや雪印(ゆきじるし)乳業の牛肉偽装が表面化したのを機に、2004年(平成16)に制定、2006年4月1日に施行された。公務員や非正規雇用者を含む従業員、役員、退職者(退職後1年以内)らの公益通報者に対し、解雇、派遣契約の解除、派遣労働者の交代、降格、異動、減給、嫌がらせなどの不利益な扱いをすることを禁じている。通報者を保護することで、企業のリスク管理能力を高め、不正を未然に防ぎ、雇用者や消費者が不利益を被らないようにするねらいがある。通報対象となるのは、国民の生命・身体・財産、消費者の利益、環境保全、公正競争などを損なう刑法、食品衛生法、金融商品取引法、JAS(ジャス)法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法という7法律と、470(2019年7月時点)の政令で定めた法律(独占禁止法、道路運送車両法など)に規定された犯罪行為や法令違反行為。公益通報者は勤務先の企業、学校法人、医療法人などの事業所のほか、監督官庁や警察などの行政機関、報道機関や消費者団体などの外部機関へ通報できる。勤務先への通報には、恐喝など不正目的でない必要があり、行政機関への通報には、不正目的でないことに加え、通報内容が真実であることを証明する証拠などが必要となる。外部機関へ通報するためには、さらに、内部通報をすると証拠隠滅のおそれがあることなどのほか、書面によって内部通報をした後、20日以内に調査を行う旨の通知がないなどの条件を満たす必要がある。

 同法施行後も、内部告発の放置や不適切調査などずさんな実態が全国で表面化したため、2020年(令和2)に初の抜本法改正(2022年6月までに施行)がなされた。従業員300人超の企業に対し、通報を受けつける体制整備(窓口設置、調査、是正措置など)を義務化した(300人以下の企業は努力義務)。違反企業には行政が助言・指導・勧告し、勧告に従わない場合、企業名を公表する。通報を受けた担当者や役員には、通報者を特定できないよう情報の守秘義務を課し、違反者に30万円以下の罰金を科す。ただ労働・消費者団体などが求めていた、内部告発者に不当な扱いをした企業を指導・勧告する制度は導入が見送られ、改正法施行後3年をめどに再検討することになった。海外ではアメリカで連邦政府職員を保護する内部告発者保護法(1989年)や民間労働者を保護する企業改革法(SOX(ソックス)法、2002年)、イギリスで公益開示法(1998年)などが整備されている。

[矢野 武 2020年11月13日]

『阿部泰隆著『内部告発(ホイッスルブロウワァー)の法的設計――社会浄化のための内部告発者保護と褒賞金制度の設計』(2003・信山社出版、大学図書発売)』『浜辺陽一郎著『内部通報制度――仕組み作りと問題処理』(2004・東洋経済新報社)』『奥山俊宏著『内部告発の力――公益通報者保護法は何を守るのか』(2004・現代人文社、大学図書発売)』『中原健夫・結城大輔著『公益通報者保護法が企業を変える――内部通報システムの戦略的構築と専門家の活用』(2005・金融財政事情研究会、きんざい発売)』『日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編『通報者のための公益通報ハンドブック』(2005・民事法研究会)』『日野勝吾著『企業不祥事と公益通報者保護』(2020・有信堂高文社)』

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デジタル大辞泉の解説

こうえきつうほうしゃほご‐ほう〔‐ハフ〕【公益通報者保護法】

団体、企業などの不正を内部から告発しやすい環境を整え、かつ告発を解雇・降格などから保護するための法律。平成16年(2004)公布、平成18年(2006)施行

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ASCII.jpデジタル用語辞典の解説

公益通報者保護法

公益通報者の保護を図る法律。公益通報を行なおうと考えている者が、会社からの報復人事を恐れて公益通報できないのではないか、という危惧から作られた。「公益通報をしたことを理由による公益通報者の解雇の無効」と、「公益通報に関する、事業者と行政の対応措置」の規定から構成されている。保護されうる公益通報者には、労働者、派遣労働者、さらに、請負契約に基づいて事業を行なう労働者がある。また、保護の内容として、公益通報したことを理由とする「解雇」「労働者派遣契約の解除」の無効や、その他の不利益な扱い(降格、減給など)の禁止があげられている。2004年に国会を通過し、06年から施行されている。

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百科事典マイペディアの解説

公益通報者保護法【こうえきつうほうしゃほごほう】

自動車のリコール隠しや食品の偽装表示など,企業の不祥事が内部告発により相次いで明らかになったことに鑑み,内部告発をした〈公益通報者〉が職場で不利益な取扱いを受けることを防ぐ目的で公益通報者保護法(2004年6月)が制定された。同法により公益通報者の解雇の無効や,公益通報に監視事業者や行政機関がとるべき措置が規定された。通報対象となる法令は刑法,食品衛生法,証券取引法,JAS法(農林物資規格法),大気汚染防止法,廃棄物処理法,個人情報保護法など。2006年4月施行。施行後5年を目処に見直しが行われる。
→関連項目コンプライアンス

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