民法上は,意思表示ないし法律行為が当初からなんら効力を生じない場合をいう。法律行為は私人間に私法的法律関係を形成するための最も重要な法的手段であり,法律行為に付与される法律効果は,法律行為の構成要素たる意思表示の内容に従って定まるのが原則である。ところが法律行為の内容あるいはその意図するところが公序良俗に違反し(民法90条),または強行法規に違反するなど,その法律行為が強度の違法性を帯びる場合,または,意思表示が意思能力を欠く状態(たとえば泥酔中)でなされた場合や,表意者がその真意でない意思表示をなし,かつ相手方もそれを知りまたは知りうべかりしとき(心裡留保。93条),あるいは,表意者が相手方と通謀してなした虚偽の意思表示(虚偽表示。94条),表意者が重大な錯誤におちいってなした意思表示(95条)などは,はじめから効力を有しないものとして扱われる。無効の場合は取消しの場合とは異なり,事後の追認によってもこれを有効にすることができない(119条)。また,原則として何ぴとからでも,いつになっても無効を主張することができる。
なお,無効の観念は,民法以外の分野でも認められ,たとえば行政法上は,行政行為が重大かつ明白な瑕疵(かし)をもつ場合に,その行政行為は無効とされ,はじめから効力を有しないものと扱われる。
→取消し
執筆者:奥田 昌道
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私法上、法律行為(契約、遺言など)が有効要件を欠き法律効果(権利義務の変動)を生じないこと。公序良俗違反の契約は無効(民法90条)、届出のない婚姻は無効(同法742条)などである。「効力を生じない」と規定する場合もある(同法113条―無権代理行為)。また、無効と同様に有効要件を欠くが、「取り消すことができる」と規定する場合がある。たとえば民法第5条は、未成年者が親権者の同意を得ないでした契約などの法律行為は、取り消すことができると規定する。無効な行為は初めから効力を生ぜず、いつでもだれでも無効を主張できるが、取り消しうる行為は、取消しがあるまでは有効で、取消しにより遡及(そきゅう)的に無効となる(同法121条)。取消権者も定まっており、取消権行使の期間制限もある(同法120条・126条)。また無効な行為は追認によっても有効とならないが、取り消しうる行為は追認により有効性が確定する(同法119条以下)。以上の原則に対し例外も多く規定されている。たとえば会社の設立無効は、会社の設立の日から2年以内に訴えをもってのみ主張することができ、訴えができる者も、株主などに限定されている(会社法828条)。なお行政行為も重大かつ明白な瑕疵(かし)があるときは無効とされる。
[伊藤高義]
『内田貴著『民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論』(2008・東京大学出版会)』
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…ある法律行為が外形上存在していながら,その内容や成立過程に欠陥がある場合に,その行為の効力を無条件に認めることは,正義・公平の法の理念からみて適当ではない。そこで,このような場合に法律行為の効力を否定する法的手段として,民法上,〈無効〉と〈取消し〉とがある。 無効が,法律行為のなされた当初から法上当然に,すなわち何ぴとの主張をも要せずして,なんら法律効果を生じない場合をいうのに対して,取消しは,いったんは有効に法律行為としての効力を生じたのち,取消しの意思表示により原則として行為のときにさかのぼって効力を失うものとされる場合である。…
※「無効」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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