最新 心理学事典 「共同注意」の解説
きょうどうちゅうい
共同注意
joint attention
共同注意には,相手が視線を向けたり指さしする対象に自分が注意を向ける追跡的共同注意と,相手の注意を自分の見ている対象に向けさせる誘導的共同注意がある。追跡的共同注意は,おとなの視線の方向を見始める生態学的メカニズム(生後6ヵ月以後)から,自分の背後以外ではおとなの視線と対象を線で結んだように正確に対象を特定できる幾何学的メカニズム(生後12ヵ月以後)を経て,自分の背後の対象も追跡できる表象的メカニズム(生後18ヵ月以後)へと発達する(Butterworth,G., & Jarrett,N.,1991)。誘導的共同注意は,その典型例が指さしpointingの産出である。指さしの機能は多様で,たとえば相手に対象に関する注意や関心を伝えるための叙述機能declarative functionや,相手に要求を伝える要求機能imperative functionがある。しかしいずれも,相手に対するコミュニケーション機能をもつ点では共通している。これは,対象に手を伸ばしつかもうとする行動であるリーチングreachingが,対象志向的ではあるがコミュニケーション機能はもたないのと対照的である。そして指さしの産出は,生後9ヵ月ころから出現し1歳前後でほとんどの子どもに見られるようになる。
しかし,相手の注意の追跡や誘導だけでなく,子ども自身が相手と共有していることの気づきを有していることが,共同注意には必要となる。これは,共同注意が,自分-対象-相手の間で注意や意図,情動を共有しやりとりする三項関係(やまだようこ,1987)の現われと把捉するためである。この点に関してトマセロTomasello,M.(1995)は,生後9ヵ月の子どもはおとなと同じ対象に注意を向ける同時注視simultaneous lookingだけだが,生後12ヵ月になると対象を指さした後,おとなの注意対象を確認する行動を起こすことを指摘した。これは,生後12ヵ月ころより子どもが相手との注意共有を確認するための行動であり,伝達意図を有する他者として相手を理解することを示すものである。このように注意共有の気づきを伴う共同注意は,生後12ヵ月ころに可能となると考えられる。また,子どもは叙述の指さしを行なう際にポジティブな情動を示すことが多い。これは共同注意行動が,注意だけではなく対象への情動や興味・関心といった評価も共有しようとする行動であることも示している。
このように共同注意は,三項関係や他者の伝達意図の理解を伴って成立する。三項関係は,相手と対象についての注意や情動,評価をコミュニケーションするという意味で,話しことばと同じメカニズムを有する。そのため,共同注意は言語発達と密接に関連しており,自閉症児の言語発達を予測する指標であると考えられている。また他者の伝達意図理解は,他者の心の理解の一つである意味で,共同注意は生後4~5歳で見られる心の理論theory of mindの発達的前兆とも考えられ,自閉症の心の理論の障害を共同注意の障害からとらえることもされてきている(Baron-Cohen,S.,1995)。 →心の理論 →乳児期
〔別府 哲〕
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報