幼児自閉症infantile autismまたは小児自閉症childhood autismともいう発達障害で、広範かつ重篤な全人格的発達障害pervasive developmental disorderの中核的存在とされる障害。出生からほとんど例外なく30か月以内にみいだされる症候群で、現時点ではまだ原因不明であるが、おそらくは生来性のハンディキャップによるものらしいというのが、現在国際的にほとんど一致した見解である。したがって、どのような意味でも生後に発病するものではない。
聴覚ならびに視覚刺激に対する反応は異常であり、通常、話されたことばの理解に重篤な困難がある。言語の発達はほとんど認められない場合もあれば、通常の場合より遅れることが多く、発達する場合でも反響言語(おうむ返し)やそれに基づく代名詞の反転(あなたと私が逆になったりする)、未熟な文法的構文および抽象語を用いることの稚拙(ときに不能)などによって特徴づけられる。ほかの障害児では、たとえば、ことばによるコミュニケーションが障害されている場合にはなにか他の方法(身ぶりなど)でコミュニケートしようとする努力が認められるが、自閉症児の場合にはそういうことを行おうとするところに大きな障害があって、できないわけである。こうした人間関係の障害は5歳以下の場合もっとも重篤であり、それには、まなざしをあわせること、社会的な触れ合い、および他児(他人)との共同の遊びなどを行う発達が妨げられることも含まれる。また奇妙な儀式的なふるまいがよくみられ、それには異常な一定のパターン、変化に対する抵抗、奇妙な物体や生物などに対する愛情、恐れや遊びの常同的パターンなどが含まれる。
抽象的または象徴的思考や想像的遊びの能力は低い。知能は著しい低格から正常またはそれ以上の限られた面の優秀さを示すことがあるが、平均すると水準以下に機能している。また行動は通常、単純記憶や視覚空間的技能を要するもののほうが、象徴的ないし言語的技能を要するものよりも優れているし、この傾向は前述の知能についてもいえる。
原因はまだ不明であるが、おそらくは脳に器質的ななにかがあるに違いないという考え方に変わってきている。頻度はだいたい児童人口1万に対して3人か4人といわれていたが、自閉症概念の変化とともに若干大きい数字になっていると考えてよい。男女比は4対1、場合によっては10対1で断然男に多い。
治療としては、行動療法を軸とした治療教育が現在ではもっとも効率の高い治療と考えられている。従来の精神分析学的方向づけをもつ精神療法は、少なくとも第一の選択ではなくなった。薬物療法は現在研究段階であり、なにかが発見されたとしても、それが原因療法になるか、便宜的な対症療法であるかについては、臨床的にも慎重な検討を必要とする。
将来への見通しについては、約15%内外の子がほとんど独立の生産的生活をすることができるようになるが、25%くらいはだれか保護者の介助を得てわずかながらでも半独立の方向に向かえばよしとしなければならないであろう。残りの60%内外は精神科病院児童病棟、または特殊な施設の長期患者としてとどまることになろう。だいたい5歳までに周囲の人とコミュニケーションの役を果たせることばが出た子や、知能水準の平均が高い子は、見通しが明るい、すなわち予後はよいといわれている。
[牧田清志]
カナー症候群ともいい、前述の幼児自閉症の今日的概念の源になった症候群である。1943年アメリカの児童精神医学の祖ともいわれるカナーLeo Kanner(1894―1981)によって初めて記載され、命名された。診断基準になる症候は、表現が違っても本質的には幼児自閉症とほとんど同じである。ただし、その前提条件で著しく異なるのは、早期幼児自閉症と診断されるためには、身体的な病歴、所見、検査成績がすべて否定される(正常である)場合に限られるのに対し、現在の自閉症ではその半数内外に脳波異常が認められ、前述のように身体的に正常であることにかかわらないという点と、カナーはこれを精神分裂病(統合失調症)のもっとも早い発現型式と考えたのに比して、現在の自閉症は精神分裂病とはなんの関係もないとしているところである。
[牧田清志]
精神医学で扱う自閉症には二つの場合が含まれる。すなわち,(1)統合失調症に多く現れる症状,(2)幼児・学童にみられる重篤な対人関係障害と特異な行動異常を主徴とする症候群,の二つである。
E.ブロイラーは,従来早発痴呆と呼ばれていた精神病を観念の流れの連合の弛緩と感情における両価性(アンビバレンス)が基本症状であるとしてschizophrenia(統合失調症)と命名したのであるが,そのさい彼は,頭からすっぽりシーツをかぶり,人を避けるように壁に向かって頭を下げ,目をつぶっている重症の統合失調症患者をモデルに〈内的生活の比較的あるいは絶対的優位を伴う現実離脱〉を自閉(症)と名づけた。彼は,これを他の人間やその世界との接触において自己内界への指向が優勢なものにまで拡大し,正常人でもさまざまな割合で現実思考と自閉思考(非現実思考)が存在するとしたが,一方では自閉の概念は多くの学者によって統合失調症の基本障害としてとり上げられるようになった。とりわけE.ミンコフスキーは自閉についての考えを発展させ,自閉を〈現実との生きた接触の喪失〉と規定し,内的生活の豊富な〈豊かな自閉autisme riche〉とそれの乏しい〈貧しい自閉autisme pauvre〉に分けた。
一方,児童精神医学の領域でも,著しい行動異常や情緒的混乱を示す子どもが自閉性ないし自閉思考を中心症状として児童統合失調症childhood schizophreniaの名称のもとに記述,報告されるようになった。なかでもL.カナーは1943年に,それまで知的障害の枠内で扱われていたであろう子どもで,生後間もなくから著しい自閉を示す11例の児童を,感情的接触における自閉的障害autistic disturbances of affective contactとして報告し,翌年2例を追加して早期幼児自閉症early infantile autismの病名を与えた。これが今日,自閉症として広く知られている広範性発達障害である。小児自閉症は,(1)生後30ヵ月以前に症状が現れること,(2)言語発達の遅れ,および尋ねられたときにオウム返しの言葉がみられるなどの言語発達の異常,(3)相手と目が合わないとか,幼稚園や学校で集団行動に参加しないなどの人間関係成立の遅れ,(4)特定の事物への強い執着や物事の変化に強い抵抗を示したり,手かざし,物を目に近づけて見るなどの常同行動,その他の物とのかかわりの異常,の4項目によって診断される。これらの症状は年齢が大きくなるとともに軽減する傾向がある。全体の数%にあたるごく少数の子どもは一般の子どもに伍して学業に就くことができるが,将来にわたって社会的に自立が困難で,知能の発達が停滞し,長期にわたって行動上の問題が残される。約70%は知能指数が知的障害の水準にある。以前は心因性の障害や幼児の統合失調症と考えられていたが現在は否定され,中枢神経系の部分的成熟と関連した発達障害と考えられている。治療としては心理療法ないしそれに類する試みは原則として無効で,生活指導に重点をおくことから始めて,言語訓練や体育・運動を含む課題学習を一つずつ教えることによって社会適応困難を軽減させながら,集団の中で指導していく。なお,マーラーM.S.Mahlerのいう幼児共生精神病やアスペルガーH.Aspergerのいう自閉的精神病質の多くも自閉症の中で扱われるようになっている。
→統合失調症
執筆者:中根 晃 現在はDSM-Ⅳにより,広汎性発達障害のなかに分類されており,一般に“自閉症”という場合は,このカテゴリーのなかの自閉性障害,アスペルガー障害,特定反応の広範性発達障害が含まれることが多い。
執筆者:編集部
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…全体としては知能の発達がおくれているが,ある特定の面についてだけはすぐれた才能をもつ精神遅滞者をいう。地名,駅名,番号,カレンダー,時刻表などの機械的記憶にたくみな場合が多く,そのため近年では小児自閉症との異同が問題にされるが,音楽や絵画に秀でることもある。フランスで発見され研究されたのでこの語が世界的に通用するが,日本語では〈聡明な白痴〉〈白痴の天才〉などと訳される。…
※「自閉症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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