(読み)つわもの

精選版 日本国語大辞典 「兵」の意味・読み・例文・類語

つわ‐もの つは‥【兵】

〘名〙
① 戦いに用いる道具。武器。武具。広義には、兵糧(ひょうろう)などをも含む。また、それを用いるわざ。武芸。武術
※宇津保(970‐999頃)祭の使「つはものを業として、悪を旨として」
② 戦場などで、武器を使用する人。いくさびと。兵。兵士。軍人。
※書紀(720)景行一二年一〇月(北野本訓)「今(いま)(さは)に兵衆(ツハモノ)を動(うこか)して」
③ 勇ましく強い武人。勇敢な軍人。勇士。猛者(もさ)
源氏(1001‐14頃)浮舟「国にも、いみじきあたらつはもの失ひつ」
④ (③から転じて) 日常生活の態度が堂々としてものに動じない人。信頼できる人。また、自分の所信をまげない人。強情な人。
※浮世草子・好色五人女(1686)二「おせん殿にはこなたといふ兵(ツハモノ)あり」
⑤ ある方面で、よくも悪くも普通以上の働きをする人。
※彼女とゴミ箱(1931)〈一瀬直行〉橋下ルンペン「その前田といふ奴は斯ういふことにかけては渡り歩いたつはものです。わるさを積んできてゐる」
[語誌](1)古くは兵よりも武器そのものを指す①の場合が多かった。兵を指す場合は、類義語「もののふ」が「もののけ」に通う霊的な存在感を持つのに対して、物的な力としての兵を意味していたらしい。
(2)俳句では漢語武士」「武者」などとともに使用されるが、和歌ではもっぱら「もののふ」が使われている。

へい【兵】

〘名〙
① いくさの道具。武器。兵器。武具。
② いくさびと。つわもの。戦士。兵士。軍人。また、軍勢軍隊。〔続日本紀‐延暦二年(783)〕
※将門記(940頃か)「兵を調へ陣を張り」 〔史記‐孫子伝〕
③ いくさ。戦争。軍事
※続日本紀‐天平宝字八年(764)九月乙巳「太師正一位藤原恵美朝臣押勝并子孫。起兵作逆」 〔孫子‐始計〕
④ 旧軍隊で、下士官の下、最下位の階級。陸軍では、兵長上等兵一等兵二等兵を、海軍では、兵長と一等兵から四等兵までを総称した。兵卒。
酒中日記(1902)〈国木田独歩〉五月九日「下宿して居る方は曹長様ばかり〈略〉でもね、日曜は兵(ヘイ)が遊びに来るし」

ひょう ヒャウ【兵】

〘名〙 (「ひょう」は「兵」の呉音) 将棋(しょうぎ)の駒の一つ。歩兵(ふひょう)の異称。
※雑俳・千代見ぐさ(1866)「灯へ来る虫・風で付木の歩兵(ヒャウ)迯る」

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デジタル大辞泉 「兵」の意味・読み・例文・類語

へい【兵】

戦闘に従事する者。軍人。兵士。「を集める」
軍人の最下位の階級。旧陸海軍では、兵長以下の軍人。「二等
戦うこと。戦争。いくさ。「敗軍の将はを語らず」「を起こす」
武器。兵器。
[類語](1)(2軍人兵士兵隊兵卒つわもの戦士闘士戦闘員従卒士卒将卒精兵弱兵雑兵ぞうひょう新兵初年兵古兵ふるつわもの老兵敵兵・敗残兵・伏兵番兵歩哨斥候歩兵騎兵砲兵工兵水兵海兵セーラー憲兵/(3有事戦時非常時乱世事変革命戦争非常いくさたたか戦役せんえきえき兵馬へいば兵戈へいか干戈かんか会戦合戦かっせん交戦戦火兵火戦乱兵乱戦雲戦塵せんじん戦禍せんか大戦戦闘

つわ‐もの〔つは‐〕【兵】

武器をとって戦う人。兵士。軍人。また特に、非常に強い武人。「歴戦の」「ふる
「夏草や―どもが夢の跡」〈奥の細道
勇気のある強い人。また、その方面で腕を振るう人。猛者もさ。「若いのになかなかのだ」「その道の
戦いに用いる道具。武器。武具。
「―を業として、悪を旨として」〈宇津保・祭の使〉
[類語](1軍人兵士兵隊兵卒戦士闘士戦闘員従卒士卒将卒精兵弱兵雑兵ぞうひょう新兵初年兵古兵ふるつわもの老兵敵兵・敗残兵・伏兵番兵歩哨斥候歩兵騎兵砲兵工兵水兵海兵セーラー憲兵/(2勇者勇士強者豪傑猛者もさ剛の者強豪古豪

へい【兵】[漢字項目]

[音]ヘイ(漢) ヒョウ(ヒャウ)(呉) [訓]つわもの いくさ
学習漢字]4年
〈ヘイ〉
戦士。軍人。つわもの。軍隊。「兵員兵士兵隊兵長衛兵閲兵騎兵挙兵私兵将兵新兵水兵尖兵せんぺい僧兵徴兵撤兵派兵伏兵歩兵民兵用兵
戦争。軍事。「兵器兵端兵法兵乱
武器。「短兵急白兵戦
〈ヒョウ〉
軍人。つわもの。「兵糧ひょうろう軍兵小兵こひょう精兵せいびょう雑兵ぞうひょう大兵だいひょう
軍事。「生兵法なまびょうほう
武器。「兵具
[名のり]たけ・ひと・むね
[難読]兵児帯へこおび

ひょう〔ヒヤウ〕【兵】

将棋の駒の、の異称。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「兵」の意味・わかりやすい解説


へい

軍人の階級で将校、下士官の下の地位にある者。旧日本軍では海軍が1920年(大正9)、陸軍が31年(昭和6)から兵の呼称を採用したが、それ以前は陸海軍とも卒と称していた。陸軍は兵を兵長、上等兵、一等兵、二等兵に、海軍は一等兵、二等兵、三等兵、四等兵に区分していた。兵は所定の課題・任務を果たせば昇進でき、さらに下士官、将校への道も開かれていた。現在自衛隊は兵にあたる者を士と称し、士と士長に区分している。

[纐纈 厚]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【桓武平氏】より

…これらが桓武平氏に系譜をもつ東国豪族層の武士化の初期的現象であるといえよう。当時このような武力の担い手を一般に兵(つわもの)と呼称したが,将門やこれを討滅した貞盛(国香の子)をはじめ,村岡五郎良文・忠常あるいは貞盛の弟繁盛,その子の余五将軍維茂などはこの時代の名だたる兵であった。 こうして東国では主として桓武平氏一族に系流をもつ在地の豪族的武士の成長が見られるが,忠常の乱を平定した源頼信の活躍,そしてそののち奥州におこった前九年・後三年の役に際して源頼義・義家が東国武士を積極的に組織していったことなどを機会に,東国の桓武平氏の一族の多くは清和源氏を棟梁としてその武的組織の下に結集されていった。…

【家人】より

…さまざまな職能(芸能)を主人に提供し,主人からは恩給を与えられて,両者の間には双務的な主従関係が形成された。なかでも武芸によって主人に仕えた家人は兵(つわもの)とか侍(さぶらい)とか呼ばれ,主人の武力を構成し,主人とその一族・家の警固等にあたった。その家人は主人との従属関係から二つのタイプに分けられる。…

【武士】より

…12世紀半ば以後,武士の政治的勢力が増大し,鎌倉幕府の創設から江戸幕府の終末まで670余年の間,武家政治を展開させた。
[武士の発生]
 武士は10~11世紀の農村を母体として生まれたが,その発生要因の一つとしては国家の兵制の変化のもとで8世紀末に生まれた健児(こんでい)制(健児)をあげねばならない。これは地方の郡司や富裕農民の子弟を武芸に専従させたものであるが,そこから地方有力者が武技を練り武士化する要件が生まれた。…

【兵法】より

…軍学,兵学のこと。〈用兵の法〉の略語で,兵はもと武器の意から転じて軍隊の意。…

※「兵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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