内科学 第10版 「内分泌疾患の診断」の解説
内分泌疾患の診断(内分泌系の疾患の総論)
内分泌疾患は,それぞれのホルモン作用を十分理解したうえで,注意深い診察(問診および身体所見)により,まず「疾患を疑う」ことができるかが重要なポイントである.ホルモンは全身的な作用を及ぼすものが多く,患者の訴えのみにとらわれることなく,全身の診察が大切である.血液検査では,電解質異常,糖代謝,脂質代謝異常,血清浸透圧異常などが認められる場合,特に内分泌疾患が疑われる.確定診断にはホルモン濃度測定が必要となるが,健康診断で行う一般的な末梢血や生化学検査のわずかな異常値から疑うことが診断の契機となる.
(2)ホルモン濃度測定
内分泌疾患の診断では,ホルモン濃度の測定が機能亢進や機能低下の診断に重要である.従来は,ホルモンの生物学的作用をin vitro(生体外)で再現するバイオアッセイ(bioassay)や,副腎ステロイドの尿中排泄量測定の比色法などがあったが,測定方法の煩雑さや感度,特異度に問題が多く,尿中17-OHCS測定などは行われなくなった.それに代わり,ホルモンに対する高親和性の特異的抗体を用いた抗原抗体反応を利用した測定法が確立され,ピコモルオーダー(10−12M)の微量ホルモンの測定が可能となった.現在,一定量の放射性同位元素で標識したホルモンと抗体をいれた測定系に測定する患者検体を加え,そのなかのホルモンとの間で抗原抗体反応を競合的に行わせるラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay:RIA)がよく用いられている(図12-1-5).また,抗原と十分量の抗体を用いて,競合的な抗原抗体反応を起こさず抗原となるホルモンを直接測定するものがイムノラジオメトリックアッセイ(immunoradiometric assay:IRMA)である(図12-1-5).最近では,放射性同位元素を用いずに,酵素反応で行うエンザイムイムノアッセイ(enzyme immunoassay:EIA)が多く行われるようになった.しかし,測定キットによる誤差が大きく,液体クロマトグラフィや質量分析法(LC-MS/MS)を用いた,より正確な測定も行われる.
ホルモンは,体位,食事,運動,ストレスなどにより変動し,日内リズムも影響する場合が多いので(ACTH,コルチゾールなど),ホルモンの基礎血中レベルの測定には注意が必要である.また,性や年齢の影響を受けるホルモンもある(IGF-Ⅰ,デヒドロエピアンドロステロンサルフェイトなど).
(3)負荷試験
内分泌疾患が疑われるが,臨床症状が乏しく血中ホルモンの基礎レベル値の判断が難しい場合,種々の負荷試験を行い確定診断を行う.検査によっては危険を伴う場合もあり,患者への十分な説明の後,安全を重視して選択すべきである.①刺激試験:機能低下症が疑われる場合,下垂体ホルモン投与などの標的内分泌腺のホルモン分泌刺激物質を投与して,標的内分泌腺の分泌予備能を評価する.たとえば,ACTH負荷試験ではACTHによる直接的な副腎皮質の反応性をみるが,メチラポン試験では副腎皮質のコルチゾール産生を阻害してネガティブフィードバック機構を解除してACTH分泌を高めて,その副腎皮質刺激能をみるものもある.②抑制試験:機能亢進症が疑われる場合,ホルモンの分泌抑制刺激を加え,ホルモン濃度の低下が認められるかを検査する.たとえば,デキサメタゾン抑制試験では,デキサメタゾンを投与し,ACTH分泌を抑制した際,コルチゾール分泌が抑制されるかをみる.
(4)画像診断
単純X線撮影は,骨年齢,骨病変,石灰化,結石などの検出に有用である.CT,MRI,エコー検査の進歩により,大きさが小さい内分泌腺腫瘍の検出が可能となった.エコー検査は,甲状腺,卵巣,精巣,膵臓などの病変の検出に有用であり,CT,MRI検査は視床下部・下垂体疾患,副腎などの病変の描出にすぐれている.放射性同位元素を用いたシンチグラフィは内分泌腺の機能的イメージングが可能であり,甲状腺,副甲状腺,副腎では有用である.
(5)静脈血サンプリング
ACTH産生下垂体腺腫では,下錐体静脈洞サンプリング,アルドステロン産生腺腫では,副腎静脈サンプリング,インスリノーマやガストリノーマでは,選択的動脈内カルシウム注入試験によるサンプリングなどにより,腫瘍を還流する静脈からカテーテルを用いて採血することにより,ホルモン濃度の高値を証明して病巣の局在を明らかにすることができる.
(6)免疫学的検査
Basedow病における抗TSH受容体抗体,橋本病における抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,1型糖尿病における抗GAD抗体などの自己抗体の測定は免疫学的機序が関与する内分泌疾患の診断に必須である.
(7)新しい内分泌疾患概念の登場
内分泌疾患は,ホルモンの機能亢進または機能低下がおもなものであり,1970年代までは,重症例しか診断できないことが多かった.しかし,近年は軽症や無症候性の「新しい内分泌疾患」が数多く見つかってきている.
ホルモン濃度の測定法やカットオフ値の設定から注目されている疾患には,潜在性副甲状腺機能亢進症,潜在性甲状腺機能亢進症や機能低下症,サブクリニカルCushing症候群,糖尿病には至っていないインスリン抵抗症などがあり,ホルモン濃度の正常値,至適値,異常値などの設定や負荷試験の結果により,軽症の段階で潜在性内分泌疾患として診断されるようになっている.これらは,潜在性でも心血管疾患のリスクが高いなどのエビデンスが蓄積されてきたために,疾患としての意義が明らかになってきた.今後は疫学調査による長期予後を明らかにすることで,カットオフ値の見直しが必要である.
また,CT,MRI,超音波などの画像機器の進歩と普及の結果,無症状の段階で内分泌臓器の腫瘍が偶発腫瘍として発見される頻度が増えた.
さらに,分子生物学の進歩に伴い,今まで不明であった内分泌疾患の病因が明らかとなってきている.グルココルチコイド反応性アルドステロン症では,アルドステロン合成酵素CYP11B2遺伝子とコルチゾール合成酵素CYP11B1遺伝子の不均等交差によるキメラ遺伝子が病因と判明した.家族性高アルドステロン症Ⅲ型では,K+チャネルKCNJ5遺伝子の胚細胞変異が病因と判明し,孤発例のアルドステロン産生腺腫の20~30%においてKCNJ5遺伝子の体細胞変異が関与することも最近示された.[柴田洋孝・伊藤 裕]
■文献
Melmed S, Polonsky KS, et al: Hormones and hormone action. In: Williams Textbook of Endocrinology, 12th ed, pp3-99, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2011.
Jameson JL, DeGroot LJ: Principles of endocrinology and hormone signaling. In: Endocrinology, 6th ed, pp3-14, Elsevier, Amsterdam, 2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報