写場(スタジオ)をもち,客の注文に応じてその人の写真を撮影することを業とする店。今日でも,パスポートや運転免許証用の証明写真をはじめ,見合い写真や結婚式の記念写真などの撮影はプロのカメラマンに依頼されることが少なくないが,かつて,カメラの普及率が今よりもずっと低かったころには,写真といえば,写真館へ行って写真師にとってもらうのがふつうであった。その写場には,照明設備とともに,背景になる風景画などの書割りが掛軸式に何種類か吊り下げられるようにしたところが多かった。ところで,こうした写真館は,絵師から写真師に転じた下岡蓮杖(しもおかれんじよう)が1862年(文久2)に横浜で開業したのが最初であるとされる。当初は,〈写真にうつれば病気になる〉などの迷信がまことしやかに語られたりしたため,客は在留外人に限られたが,徐々にそれもうすれ,日本人の客も増えた。その後,明治も半ばをすぎると豪華なしつらえを誇る写真館が登場した。なかでも,1895年に鹿島清兵衛が東京木挽町に開業した玄鹿館は間口10間,奥行き15間の洋館2階建てで,2500燭光の照明を備えた写場には,まわり舞台がしつらえてあって,書割りがわりに芝居の道具を使い,客の希望にあわせて,時代物,世話物など,あらゆる演出が可能なほどの凝りようであったという。
執筆者:加藤 秀俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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