改訂新版 世界大百科事典 「分割地所有」の意味・わかりやすい解説
分割地所有 (ぶんかつちしょゆう)
Parzelleneigentum[ドイツ]
自営農民の自由な小土地所有,つまり自作農的土地所有のこと。Parzelleという言葉自体には〈小地片〉という意味しかないし,Parzellenbesitzerといえば開放耕地内の〈分散地条の保有者〉や〈小屋住農〉を意味する。しかし,parzellierenといえば土地を〈分割する〉ないし〈分譲する〉を意味することからもわかるように,〈分割地所有〉は,通常は封建的土地所有の解体から生じる農民的土地所有を指す言葉として使われる。たとえば,イギリスのヨーマン(独立自営農)の土地所有やフランスの〈農民的土地所有propriété paysanne〉,西ドイツやスウェーデンなどの解放された農民(農民解放)の土地所有などがそれである。しかし,それらのほかに,古代ローマの自営農民たちの自由な分割地所有もあれば,日本のように高度に資本主義の発展した国の農民的小土地所有や,東欧諸国のような社会主義体制のもとでの農民的所有もある。古代ローマの例を除けば,これらもまた,封建的土地所有解体の産物であるにはちがいない。
しかし,〈分割地所有〉を一義的に,封建制から資本主義への移行期における,農業そのものの近代的発展のための,必要な一通過点としてだけ規定しえないことは確かである。封建制から資本主義への移行期における〈分割地所有〉者層は,その中から資本家を生み出しつつ,みずからの小経営の基礎であった共有地(とくに共同放牧地)や農村家内工業を破壊するという役割を果たした。つまり,〈分割地所有〉は封建的・共同体的諸関係からの農民の人格的自立の基礎をなし,さらに彼らの〈両極分解(農民層分解)〉を通じて近代への移行を準備するという意味で,積極的役割を果たした。
しかし,資本主義社会における〈分割地所有〉や社会主義社会における〈分割地所有〉は,それぞれの社会の支配的生産・所有形態に照応しないばかりか,社会的生産の発展の基礎をなすわけでもない。それが農民的小経営の基盤である点に変りはないが,その小生産だけでなく,小土地所有それ自体,農民(=自作農)の経済的自立を支えるものとしては不十分である。なぜなら,資本家的大経営や,集団農場のような社会化された大経営に匹敵しうる生産諸力の発展は,農民的小経営には実現され難いし,小土地所有そのものが,経営の拡大や合理化を阻害するからである。
その理由はいろいろあるが,大別すれば次の2点につきる。すなわち,(1)資本主義社会や社会主義社会において従属的な地位を占める農民的小経営やその基礎をなす〈分割地所有〉は,政策的保護なしには存続しえないこと,(2)それにもかかわらず,土地所有意識が借地農としての規模拡大や共同化を妨げること,である。〈ナポレオン的所有形態〉といわれるフランスの農民的土地所有が,〈ナポレオン的観念(ボナパルティズム)〉の基礎であったように,事実上の労働者である資本主義社会や社会主義社会の農民意識は,基本的にその〈分割地所有〉に左右される。
執筆者:椎名 重明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報