改訂新版 世界大百科事典 「分娩監視装置」の意味・わかりやすい解説
分娩監視装置 (ぶんべんかんしそうち)
cardiotocomonitor
エレクトロニクスを利用して,分娩時の産婦と胎児の状態を監視する装置。分娩時の両者の状態を知るための指標はいくつかあるが,そのうち胎児心音については1818年マイヤーF.Mayorが報告し,子宮内圧については72年シャッツM.Schatzが初めて測定し,1906年には胎児心電図も記録できるようになった。60年代終りには,心音と陣痛,心電図と陣痛の組合せにより分娩の進行状態と胎児の心臓の状態を観察する装置の開発がホーンE.H.Honらによってすすめられ,ME技術の進歩によって分娩監視装置と呼ばれるようになった。現在では胎児心拍数と陣痛をグラフや数字で表示するのが主流で,これをcardiotocogram(陣痛胎児心拍数図)と呼ぶ。分娩室,陣痛室と監察室を有線または無線で接続し,メモリースコープ上で監視する方式もとられている。妊娠中にも利用されるので胎児監視装置とも呼ばれている。
種類
胎児心拍数計は,胎児の心拍数の1拍1拍を1分間の値に換算して連続測定するもので(妊娠中120~150心拍/分,分娩中は160心拍/分以上にもなる),心拍信号を記録するものとして,胎児の心音波形,超音波ドップラー波形,心電図波形がそれぞれ利用されているが,分娩第1期(陣痛発来から子宮口全開大まで)では前2者が,分娩第2期(子宮口全開大から胎児娩出まで)では胎児の心電図波形がよく利用される。胎児心拍数の表示方式は瞬時心拍数や自己相関法を利用した表示が使われる。その単位は心拍/分(beats per min.。bpmと略)である。陣痛計には,陣痛つまり子宮の収縮によって子宮壁が硬くなり盛りあがって変形するのを信号としてとりだす,つまり,力学的変位を電気的エネルギーに変換して,陣痛の強さとして測定する外測法(腹壁上から測る)と,子宮内圧を直接測る内測法とがある。内測法としてはオープンエンドチューブ法,バルーン法,圧力トランジスター法が,外測法としてはストレンゲージ法,差動トランス法などが用いられる。単位は以前はmmHgであったが,最近ではPaが用いられる。実際,検査するにあたっては,自動化された装置が多いので,陣痛用および胎児心拍数用トランスジューサー(エネルギー変換器=ヘッド)を,妊産婦腹壁に装着し(胎児心電図から心拍数をみるときには,胎児児頭に電極をつける必要がある),装置のスイッチを指令どおり操作すればよい。
診断
分娩監視装置の使用によって,以下のような妊娠・分娩時の異常を早期に発見し,胎児仮死に対応することができる。(a)妊娠中の場合 この場合,妊婦が安静にしているときに外部から刺激を与えないで測定するnon stress test(NST)が最も一般的に用いられる。胎動と胎児心拍数を連続記録したものをチェックし,胎動に伴う一過性頻脈のないものを要注意と診断する。必要に応じて子宮収縮剤,乳頭マッサージにより子宮収縮を誘発させ(contraction stress test,CST),著明な徐脈,胎児心拍数基線(レベル)の平坦化により潜在性胎児仮死latent fetal distressを診断する。(b)分娩時の場合 胎児心拍数基線および一過性の変動(粗変動)に注目し,前者の持続性徐脈,後者の高度な一過性徐脈,さらにこれに伴う基線の平坦化(細変動の消失)などから胎児仮死fetal distressの診断を行う。
執筆者:坂元 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報