家庭医学館 「胎児仮死」の解説
たいじかし【胎児仮死 Fetal Distress】
子宮・胎盤(たいばん)・臍帯(さいたい)(へその緒(お))・胎児間の血行障害がおこると、胎児は低酸素状態になります。これを胎児仮死といい、ふつう、胎児の心拍数が低下することでわかります。
胎児の低酸素状態が続くと、重症の胎児仮死となって胎児の各臓器に障害がおこります。そのまま出生すると、引き続き重症の新生児仮死となり、微小脳障害および脳性(のうせい)まひ(「脳性まひ」)にいたります。さらに重症度が高い場合は、子宮内胎児死亡や新生児死亡に直結します。
通常、胎児仮死は潜在性胎児仮死(せんざいせいたいじかし)と顕性胎児仮死(けんせいたいじかし)に分けられますが、いずれも十分な管理と迅速な対応が必要とされます。
しかし現実には、入院中や外来診察時をのぞいて、すべての胎児仮死にすぐさま対応することは不可能です。
[原因]
胎児仮死をおこす母体側の原因には、糖尿病(「糖尿病」)、心肺疾患、ぜんそくなどの無呼吸発作、過強陣痛(かきょうじんつう)(「過強陣痛」)などがあります。胎児側の原因としては、臍帯異常、低重量胎盤、過期妊娠胎盤、胎盤早期剥離(はくり)、羊水過少(ようすいかしょう)(「羊水過少」)などがあります。また、重症の妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)(「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)」)の場合、ほとんどが胎児仮死をひきおこします。
[検査]
妊娠中の胎児仮死の検査には、胎児心拍数モニタリング、尿や血液での胎児胎盤機能検査、超音波カラードップラー法による胎児の循環動態の把握などがあります。
胎児を娩出(べんしゅつ)したときには、アプガーの採点法(コラム「アプガーの採点法」)で仮死の有無と程度を判定します。また、分娩(ぶんべん)直後の臍帯血(さいたいけつ)の血液ガス測定を行ない、仮死の程度を把握することも可能です。
[治療]
胎児仮死の原因となる病気の治療が行なわれることはほとんどありません。顕性胎児仮死の場合は、母体へ十分な酸素を投与し、すみやかに胎児の娩出をはかります。娩出の方法には、吸引分娩(きゅういんぶんべん)や帝王切開術(ていおうせっかいじゅつ)などがあり、仮死の内容や程度によりそれぞれ選択されます。
●日常生活の注意と予防
日常生活では、お母さんは胎動(たいどう)の消失・腹痛・破水感(はすいかん)などに注意を払い、医師との連絡を密にしておきましょう。また、外来受診時には、必要な検査はしっかり受けるようにしてください。