日本大百科全書(ニッポニカ) 「オキシトシン」の意味・わかりやすい解説
オキシトシン
おきしとしん
oxytocin
脳下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンの一種で、9個のアミノ酸が重合したものである。
1952年V・デュ・ビニョーにより、ペプチドであることが確かめられた。生理活性をもったペプチドとして最初に化学合成された。語源はギリシア語の「早く生まれる」という意味で、子宮収縮ホルモンとして知られている。発情ホルモン(卵胞ホルモン)の影響下にある出産時の子宮平滑筋の収縮により、陣痛をおこさせ、またプロスタグランジンの合成を促す。さらに乳の分泌を促し授乳に備える。黄体ホルモンの作用を受けている妊娠中の子宮には働かない。標的となる細胞膜上にはオキシトシン受容体とよばれるタンパク質があり、オキシトシンはこのタンパク質と結合し、細胞に作用する。出産時には陣痛をおこさせる薬品として使われることがある。
脳下垂体後葉から分泌されるもう一つのペプチドホルモンであるバソプレッシンは、オキシトシンに比べてわずか1、2個のアミノ酸が入れ換わったものであるが、その生理作用はまったく異なり、血圧上昇ホルモンとして知られ、血圧をあげるほか、腎臓(じんぞう)で水分を再吸収し尿量を調節するために抗利尿ホルモンともよばれる。また、子宮筋の収縮を抑制するというバソプレッシンには3種の受容体が知られている。
[菊池韶彦]
『日本比較内分泌学会編『ホルモンの分子生物学3 生殖とホルモン』(1998・学会出版センター)』