電気信号を蛍光面に衝突する電子ビームの位置、強度によって変化させ、可視像に変える陰極線管。発明者のK・F・ブラウンにちなんでブラウン管とよばれ、また、陰極線管の代表的なものとして、その英語cathode ray tubeの頭文字をとってCRTともいう。テレビジョンの受像機やビデオ機器のディスプレーのほか、コンピュータ、パーソナルコンピュータ(パソコン)などの周辺機器の表示に、医用電子機器や理化学機器の画像観察、オシロスコープ、レーダー、ソナーなどの観測、放送局などのモニターなどに広く利用されてきた。
ブラウン管は、物理現象に対するアナログ的な観測機器や、テレビなど情報機器のディスプレー装置として、独占的な市場を維持してきたが、21世紀になるとデジタル情報処理技術の発達とともに、軽量で奥行のない液晶やプラズマディスプレーにその座を奪われてきている。
テレビ用ブラウン管の市場は2003年から急速に液晶に市場を奪われ、国内生産は消滅してきている。
[岩田倫典]
ブラウン管はストラスブール大学のK・F・ブラウンにより1897年に発明された(ブラウンは1909年に無線通信の研究でノーベル物理学賞受賞)。これは磁気偏向でクルックス管前面の雲母(うんも)板に蛍光物質を塗った簡単なものであった。のち偏向電極を放電管外につけた静電偏向型が考えられ、さらに偏向電極を管内に入れるとともに、熱陰極を使用したものに改良された。初期のものは観測記録のために写真乾板を管内に入れ、真空ポンプを使っていたが、1920年代になると、真空技術、蛍光物質、電子幾何光学などの進展に伴い、小型で簡単な今日の形のブラウン管が生まれた。
ブラウン管は最初は観測用であったが、テレビジョンに利用されるようになってからは偏向角も増大し、1940年代後半からメタルバック受像管、角形ブラウン管、90度角偏向管、1951年にはシャドーマスク式カラーブラウン管と、発明、改良が続いた。三原色の蛍光体を配置するのは、1944年イギリスのベアードのアイデアであるが、実用になったのは、RCA社の研究所(アメリカ)のツウォリキンが社内募集をし、これに応じたH・B・ローらが1951年に完成したシャドーマスク方式のもので、主流製品になっていた。
[岩田倫典]
ブラウン管は、電子銃から放射される電子ビームを、偏向コイルか静電電極により偏向してビーム位置を変え、輝度情報を蛍光面上で描くものである。使用される電子銃は、熱陰極から放出された電子を電気信号で変化させて細く絞る第一のレンズ(陰極格子レンズ)と、この電子ビームを蛍光面に集束する第二のレンズ(主集束レンズ)で形成される。第一のレンズは制御格子を含めて三極管型と四極管型があり、四極管型の場合は陽極電圧の変動が電子ビームに影響せず、集束性が優れたものである。第二のレンズに静電レンズを用いたものには、ユニポテンシャル型とバイポテンシャル型があり、ユニポテンシャル型は主集束電極の中央電極電圧の電位をゼロ近くまで低めることができるため、電源変動の影響が少なく、一般のテレビ受像管に用いられている。しかし、集束性はバイポテンシャル型や電磁集束を用いたものに劣る。電子ビームを偏向するには、静電偏向と電磁偏向とがある。前者は高い周波数で偏向が容易なため観測用に、後者は管外に偏向コイルをつける必要から10キロヘルツと比較的低い周波数にしか使えないが、電子ビームの加速と広角度偏向が容易なので、テレビ受像管に利用される。いずれにしても、電子は電子銃から打ち出すとき、高い電圧(5000~30000ボルトぐらい)をかけて電子ビームとなる。この電圧が大きいほどエネルギーが大きいから、像は明るいが偏向はむずかしくなる。
シャドーマスク方式のカラーブラウン管は、赤、青、緑の電気信号をもつ3本の電子ビームを、蛍光面から約1センチメートル離れた鉄板のシャドーマスクの小孔(あな)に同時に通し、幾何学的に対応する赤、青、緑の蛍光体を照射して発光させ、カラー画像をつくる。三電子銃は三角形に配置したものと、直線的に配置したインライン型のものがあり、蛍光体は前者は丸形で、後者は短冊形のものを赤、緑、青と配置してある(短冊形のほうが明るい)。大形高精細PDPには、シャドーマスク方式をシステム技術と周辺回路技術の助けによって小型用以上に改善したものと、縞状のグリルでつくったアパーチャグリル方式によるブラウン管がある。後者は、インライン型の三陰極から放出された3個の電子ビームにそれぞれ集束レンズを(ダイヤモンドトロン)、またはまとめて1個の集束レンズを用いるとともに、3ビームがアパーチャグリルの同じ箇所に正確に交わるよう偏向器にくふうが加えられている。このため、ビームの集束性はよく、水平方向には縞のピッチの狭い横枠のないグリルが使えるので、高精細で明るい映像が得られる。
アナログ表示に優れた観測用ブラウン管も丸形から角形に移行し、モノカラーで5インチ型のものが多い。広帯域用として静電偏向方式が用いられるが、さらに周波数帯域を広げるには、偏向電極を小片に分け、分布定数型の遅延回路構成としている。これは、500メガヘルツ程度までの観測が可能であり、さらにヘリカルコイルを用いた進行波遅延回路構成では、5ギガヘルツまでの観測が可能である。また、偏向感度をあげるために電子ビームの加速電圧を低くして、蛍光面近くで加速し画像を明るくする後段加速方式も用いられる。レーダー管は走査の関係で丸形管とし、電子が当たったあとしばらく光る(残光時間が0.4秒)黄緑の残光性蛍光体を用いている。
以上のほか、フィルム録画、再撮影、放送局モニター、投写などには、とくに高品質用のブラウン管が用いられている。しかし、ここでも薄型ディスプレーにその座を奪われつつある。
[岩田倫典]
『電子情報通信学会編『電子情報通信ハンドブック』(1988・オーム社)』▽『大石巖他著『画像ディスプレイ』(1975・コロナ社)』
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陰極線管とほとんど同義に用いられる。1897年ブラウンF.Braunにより最初の原型が発明されたのでこの名がある。当初から現在オシロスコープなどに使われているものに似た形をしているが,高真空に排気されたガラスバルブの中で冷陰極と陽極との間に高い電圧をかけて放電を起こさせ,これによって発生した電子を蛍光板にあてて光らせるものであった。その後,真空技術や電子ビーム技術の発達により幾多の改良を重ねて現在に至っている。
→陰極線管
執筆者:大石 巌
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…その後当初のナス形管から30年代ST管,40年代GT管,50年代以降mT管としだいに小型化された。また管の種類が増すに従って専門的には受信機に用いるような小型管を受信管と呼び,大型管やブラウン管などを含めた全体を電子管と呼ぶようになった。テレビ放送開始(日本で1953年)後受信管の生産量は急増し,69年には2.5億本をこえたが受像機のトランジスター化に伴い受信管は使われなくなった。…
※「ブラウン管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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