改訂新版 世界大百科事典 「列王紀」の意味・わかりやすい解説
列王紀 (れつおうき)
Books of Kings
旧約聖書の《サムエル記》に続く上・下2巻の歴史書。上1章と2章は〈ダビデ王位継承史〉の結末,上3章から11章はソロモンの治世,上12章から下17章は北イスラエル王国滅亡までの南北両王国,下18章から25章はエルサレム滅亡とバビロン捕囚に至る南ユダ王国について語る。著者は,前6世紀中葉,バビロニアに捕囚されたユダヤ人の間で活動していた申命記派歴史家と考えられる。彼らは,申命記改革の精神を継承して,エルサレム神殿をヤハウェの唯一の聖所と認め,律法を守れば祝福され,破れば呪いを受けるという教義によって王国の歴史を著作した。この教義を基準としてイスラエルとユダの王を一人一人評定した結果,ダビデ,ヒゼキヤ,ヨシヤの3人を除くすべての王を背信の罪で告発する。特に北イスラエルの王たちは,エルサレム神殿に対抗してベテルとダンに王国の聖所を建てた〈ヤラベアムの罪〉を離れなかったため,全員背教者であり,これが原因となって北王国は滅亡したと説明する。このような神学的史観に基づく傾向性のゆえに,現代的意味の歴史書とはいえないが,歴史性の高い多数の資料も含まれている。その中には,エリヤ,エリシャ,イザヤなど種々の預言者物語の断片もある。イスラエルとユダの王の即位年と治世年数に関する記録は,歴史的資料に由来すると考えられるが,これを総合的に説明することは,年代学上未解決の問題になっている。
執筆者:石田 友雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報