前立腺がん(読み)ぜんりつせんがん(英語表記)prostate cancer

日本大百科全書(ニッポニカ)「前立腺がん」の解説

前立腺がん
ぜんりつせんがん
prostate cancer

定義

前立腺に発生するがん(悪性腫瘍(しゅよう))。前立腺は膀胱(ぼうこう)の下方、直腸の前方にあるクルミ大の臓器で、男性にのみ存在する。尿道を取り巻く移行領域、射精管を取り囲む中心領域、外側の辺縁領域、前面の前線維筋性間質の4領域に分けられ、前立腺がんの70%は辺縁領域から発生し、20%が移行領域、10%が中心領域から発生する。組織学的には大部分が腺がんである。腺がん以外の組織型としては尿路上皮がん、扁平(へんぺい)上皮がん、基底細胞がん、小細胞がん、肉腫などがある。

 前立腺がんの多くは、数十年の経過できわめて緩徐に増殖していく。そのため、前立腺にがんが存在していても多くは診断されることなく他の疾患で死亡し、一部のみが検診や臨床症状の出現から診断されていると考えられる。前立腺がんは総じて進行が緩やかであるが、臨床的に診断される前立腺がんの一部に、進行して致死的となるものがある。生涯、臨床的に前立腺がんの徴候が認められず、死後の解剖(剖検)により初めて前立腺がんの存在が確認されるものをラテントがんとよび、臨床的に診断される臨床がんとは区別されている。ラテントがんは30歳未満でもみられることがあるが、多くは加齢とともに緩徐に発生・増殖していく。

 このほか、非悪性腫瘍として切除あるいは摘出された前立腺組織から顕微鏡的検索により発見されたものを偶発がん、転移臓器の臨床症状が先行し、後になって原発巣として前立腺がんが発見されたものをオカルトがんとよび、それぞれ区別される。偶発がん、ラテントがんはかならずしも微小がんとは限らない。

[渡邊清高 2019年12月13日]

疫学・病因(危険因子)

疫学

日本において2017年(平成29)に前立腺がんで死亡した人は1万2013人であり、男性のがん死亡全体の5.5%を占めている。部位別にみると肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓(すいぞう)がんに次いで第6位の死亡数となっており、部位別の死亡率(男性・全年齢)は19.8(人口10万対)となっている。年齢階級別の死亡率をみると、60歳前後から上昇し、高齢になるほど高くなる。

 2014年の前立腺がん罹患(りかん)数(全国合計値)は7万3764人であり、男性のがん罹患全体の14.7%を占めている。部位別の罹患数をみると、胃がん、肺がん、大腸がんに次いで第4位となっている。罹患数の年次推移は、2011年の7万8728人をピークに横ばいの状態である。年齢階級別罹患率は50歳前後から高くなり、70歳代まで上昇し続け、その後は低下していく。

 経年的な推移をみるうえでは、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値(年齢調整死亡率・年齢調整罹患率)を比較する。年齢調整死亡率の年次推移は、1950年代後半から1990年代なかばまで上昇し、近年は緩やかな低下傾向にある。年齢調整罹患率は、1975年(昭和50)以降上昇傾向にあり、とくに2000年以降の上昇が顕著である。これには、前立腺特異抗原PSA)検査が普及し、早期がんの診断が可能となったことが影響している(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。

[渡邊清高 2019年12月13日]

危険因子

前立腺がんの危険因子には、年齢、人種、家族歴があげられる。前立腺がんは加齢とともに増加し、80歳以上の剖検例では50~70%にみいだされている。人種別では、前立腺がんの生涯罹患率はアジア人で13人に1人、白人で8人に1人、黒人で4人に1人と推定されている。地域的にはスカンジナビアでもっとも高く、アジアがもっとも低い。日本人の罹患率は、欧米諸国やアメリカの日系人よりも低いことから、前立腺がんの発症には、人種差に加え食生活などの環境要因も関与していると考えられている。また、前立腺がんの家族歴は罹患リスクを約2.4~5.6倍に高めることが知られている。

 前立腺がんに関連する遺伝子も知られており、HOXB13遺伝子のG84E変異の保有者は罹患リスクが3.3~20.1倍高いとされている。

 環境要因としては、ライフスタイル、肥満・糖尿病・メタボリック症候群、前立腺の炎症や感染、前立腺肥大症や下部尿路症状、化学物質への曝露(ばくろ)などが推測されているが、いずれも研究によっては結果が相反することも多く、結論は出ていない。リスクを低下させるものとして魚類に多く含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取や運動習慣が、リスクを高めるものとしては乳製品・カルシウム、高脂肪食の摂取や喫煙などが、前立腺がんのリスクに影響する可能性が報告されている。このほか、大豆に含まれるイソフラボン、緑茶に含まれるカテキン、トマトに含まれる赤い色素リコピンなどの機能因子による前立腺がん予防が注目されている。ただし、疫学的研究や臨床研究からは、有効性において結論が出ている因子はなく、今後さらなる研究の発展が望まれる。

[渡邊清高 2019年12月13日]

分類

病理組織学的分類

「前立腺癌(がん)取扱い規約」(第4版、日本泌尿器科学会、日本病理学会、日本医学放射線学会編)によると、前立腺がんは腺がん、まれな腺がん、尿路上皮がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、基底細胞がん、小細胞がん、未分化がん、そのほかの悪性腫瘍に分類される。

 このうち腺がんについては、さらにグリーソンスコアGleason scoreを用いて組織学的悪性度を評価する。これは組織学的形態を浸潤増殖様式から1~5のパターンに分類し、がん巣内にもっとも多くみられるものを第1パターン、次に多いものを第2パターンとして、その合計によってスコアを算出するものである。臨床的に重要な腫瘍は、グリーソンスコア5~10のいずれかに振り分けられる。5、6は病理組織学的に低悪性度群、スコア7は中間群、スコア8~10は高悪性度群に相当する。また近年、グリーソンスコアにかわるものとして、前立腺がんに対する新しいグレードグループ分類が提唱されている。これは現行のグリーソンスコアをもとにして、悪性度、予後階層別の1~5の5段階に振り分けるものである。

[渡邊清高 2019年12月13日]

浸潤・転移様式

局所への浸潤様式としては、被膜外の脂肪組織や精嚢(せいのう)への浸潤を認める場合が多く、進行すると膀胱頸部(けいぶ)や直腸などの隣接臓器への浸潤がみられるようになる。進行例では、所属リンパ節である閉鎖リンパ節、内腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節への転移が認められる。前立腺がんの遠隔転移は、脊椎(せきつい)や骨盤などへの骨転移が多い。転移した骨病変では骨形成が優位であり、X線検査やCTで骨の硬化像を認めることが多い。肺や肝臓への転移は比較的まれである。

[渡邊清高 2019年12月13日]

症状・症候

前立腺がんは尿道から離れている辺縁領域に発生することが多く、排尿に関する症状が出にくく、初期のうちは無症状である。進行すると排尿困難、血尿などの下部尿路症状がみられ、骨転移例では骨痛や脊髄圧迫による下肢麻痺(まひ)などを認めるようになる。そのため、なんらかの症状が出てから泌尿器科外来を受診してがんと診断された場合、20~30%は、すでに他の臓器、おもに骨に転移した状態で発見される。

 前立腺がんは、以前は排尿困難や血尿、あるいは骨転移による疼痛(とうつう)(痛み)を契機に発見されていた。現在では、前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)が前立腺がんの腫瘍マーカーとして普及したことにより、血液検査でPSAの上昇を指摘され無症状のまま受診し、発見に至ることが多い。

[渡邊清高 2019年12月13日]

検査・診断

検査・診断

前立腺がんのスクリーニングとして、直腸診とPSA検査が重要である。PSA値の上昇や直腸診で前立腺がんが疑われるときは、確定診断として前立腺生検(組織採取による検査)が行われる。前立腺肥大症との鑑別が重要となるが、直腸診やPSA検査からある程度の鑑別は可能である。前立腺がんに前立腺肥大症を合併していることもあり、最終的には前立腺生検により鑑別される。

(1)腫瘍マーカー
前立腺特異抗原(PSA)は、前立腺がんの早期発見におけるもっとも重要な腫瘍マーカーである。PSAはおもに前立腺上皮から産生される糖タンパクで、通常は前立腺管内にとどまっている。前立腺がんでは細胞構造が破壊されるため、血管内に漏れ出て、血清PSA値が高くなる。PSA検査の基準値は0.0~4.0ng/mL、あるいは年齢階層別PSA基準値(64歳以下0.0~3.0ng/mL、65~69歳0.0~3.5ng/mL、70歳以上0.0~4.0ng/mL)を用いる。基準値を超えた場合には、前立腺生検で確定診断が行われるが、PSA値が高いほどがんと診断される可能性が高くなる。PSA値4.0~10.0ng/mLのいわゆるグレーゾーンでは、約30%の割合でがんが発見される。一方、10.0ng/mL以上でもがんが発見されない場合や、4.0ng/mL未満で発見される場合もある。

 PSAは前立腺の臓器特異抗原であるが、前立腺がんに特異的ではなく、前立腺肥大症、前立腺炎、機械的刺激などでも高値となることがある。PSAには遊離型PSA(free PSA)と結合型PSAがあり、両者をあわせた総PSA(total PSA)に対する遊離型PSAの割合(F/T比)は、前立腺がん以外の前立腺疾患との鑑別に用いられている。F/T比が低い場合は前立腺がんの可能性が高くなる。

 なお、グレーゾーンでは前立腺生検を行っても約7割ががんと診断されないという点から、不必要な生検が行われている可能性も無視できず、過剰治療や生検に伴う合併症の問題も指摘されている。一方で、前立腺検診におけるPSA測定が前立腺がんによる死亡率を低下させることが、ヨーロッパの大規模研究の結果として報告されている。しかし、アメリカでの大規模研究では有効性は示されず、PSAによる検診の有効性については引き続き議論がなされている状況である。日本においては、現時点ではPSA検査による前立腺がん検診は対策型検診としては推奨されていない。検査に伴う利益と不利益について説明を受けたうえで、個人の判断で受検の可否を決めるのが望ましいと考えられる。

(2)直腸診
肛門(こうもん)から直腸に直接指を挿入して、前立腺の状態を確認する検査である。前立腺の表面に凹凸があったり、左右非対称である場合、前立腺がんが疑われる。前立腺がんは70%が外側の辺縁領域から発生するため、直腸診で硬結を触知することがある。しかし硬結を触知できるのは前立腺がん全体の半数以下であり、診断はPSA検査と組み合わせて行われることが多い。最近は、直腸診では異常を認めず、PSAの上昇のみから発見される前立腺がんが多い。

(3)前立腺生検
PSAや直腸診などで前立腺がんが疑われた際には、前立腺生検による病理組織学的診断が行われる。前立腺へのアプローチ法としては、経直腸生検および経会陰(えいん)生検の2種類があるが、両者のがん検出率は同等である。通常は経直腸的超音波断層法(transrectal ultrasonography:TRUS)のガイド下に細い針を用いて、初回は辺縁領域を中心に10~12か所の生検(組織採取による検査)が行われる。生検で得られた検体は、病理組織学的検査により確定診断に用いられる。このときがんの含まれる検体の本数や、1検体中に占めるがんの割合も精査する。

 前立腺生検でがんが発見されなかった場合にはPSA検査を継続し、PSAが上昇したときには再生検が必要になることもある。初回生検でがんが検出されなかった場合に、再生検でがんが発見される確率は約20%とされる。さらに、2回目の生検でがんが検出されない場合、3回目以降の生検でがんが検出される可能性は5%以下である。

 前立腺生検のおもな合併症は出血、感染および排尿障害である。日本泌尿器科学会の調査では、血尿12%、直腸出血5.9%、血精液症1.2%、尿閉1.1%、38℃以上の発熱1.1%、敗血症0.07%、再入院が0.69%にみられている。

(4)画像診断
経直腸的超音波断層法(TRUS)は、超音波プローブを肛門から挿入して前立腺の大きさや形を調べる検査で、外来で簡便に行うことができ、リアルタイムに画像が得られる。前立腺容積の計測や前立腺生検などに用いられている。

 CT検査は、前立腺がん自体の病期診断には適さないが、リンパ節転移や骨を含めた遠隔転移の診断に活用されている。

 MRI検査では、MRI画像の1タイプであるT2強調画像で正常な辺縁領域は高信号、前立腺がんは低信号を示すため、原発巣の形態を評価するうえで信頼性が高い。さらに機能的な情報を加味するダイナミック造影、拡散強調画像を加えたマルチメトリックMRIでは、より空間分解能の高い画像を得ることが可能であり、微小病変や尿道を取り巻く移行領域内の診断向上が期待されている。また、局所浸潤やリンパ節転移の診断にも広く用いられている。

 前立腺がんの好発転移部位は骨であり、治療方針の決定に際しては骨シンチグラフィが行われる。テクネチウム99m(99mTc)製剤を用いた骨シンチグラフィで集積を示す骨転移巣の広がりは、予後との関連がみられる。

[渡邊清高 2019年12月13日]

病期分類

病期(ステージstage)とは、がんの進行の程度を示すもので、「前立腺癌取扱い規約」では、国際対がん連合(UICC)のTNM分類を用いて病期分類がなされている。壁深達度を示すT因子、リンパ節転移を示すN因子、および遠隔転移を示すM因子の三つの因子から分類していく。これをもとに、前立腺内にとどまる限局性がん、前立腺の被膜を破って進展している局所進行性がん、さらに進行してリンパ節転移や遠隔転移を認める転移性がんの大きく三つに分けることが多い。さらに限局性がんでは、病期、グリーソンスコア、PSA値の三つの因子を用いてリスク分類が行われる。低リスク、中間リスク、高リスクのいずれかに分類され、根治的治療後の再発の可能性や予後の予測に用いられる。

[渡邊清高 2019年12月13日]

治療

治療法の選択

前立腺がんの標準治療は「前立腺癌診療ガイドライン」(日本泌尿器科学会編)にまとめられている。治療方針は病期に応じて決定されるが、おもな治療法には、監視療法、外科療法(手術)、放射線療法、ホルモン療法、化学療法がある。

 監視療法および放射線の組織内照射は、低リスク群で選択される。手術や放射線療法は低リスク・中間リスク・高リスク群のいずれでも選択される。高リスク群に対する放射線療法は、長期間のホルモン療法と並行して実施されることが多い。周辺臓器に浸潤したがんには、放射線療法、ホルモン療法などが行われるが、手術が行われることもある。転移があるがんに対しては、ホルモン療法や化学療法が行われる。

[渡邊清高 2019年12月13日]

監視療法

低リスク限局性前立腺がんでは、無治療で経過を観察し、病状に進展や悪化がみられた時点で、治癒を目的とした治療を行うことがある。これを監視療法とよび、治療が不要と考えられる早期前立腺がん患者への、過剰治療を防ぐための有用な解決策の一つとなっている。

 監視療法の適応は、PSA値、臨床病期、生検の陽性本数、グリーソンスコアに基づいて検討される。監視療法中の経過観察方法は、3~6か月ごとの直腸診とPSA検査、1~3年ごとの前立腺生検である。

 監視療法の利点は前立腺全摘除術後の尿失禁や性機能障害、放射線照射後の下部尿路症状や腸管関連合併症などをおこさずに済むことであるが、患者によっては積極的に治療を行わないことへの不安など、生活の質(quality of life:QOL)の低下が生じることもある。

[渡邊清高 2019年12月13日]

外科療法(手術)

前立腺全摘除術は、前立腺と精嚢の摘出に加え膀胱と尿道をつなぐ手術法で、必要に応じ骨盤内のリンパ節郭清(かくせい)(リンパ節の切除)もあわせて行われる。通常、期待余命が10年以上の低~中間リスク限局性前立腺がんに実施されるが、高リスク限局性前立腺がんに対しても行われることがある。

 摘出方法には開腹手術、腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術、さらにロボット支援手術があり、治療成績はいずれも同等である。ロボット手術はアメリカでは85%以上に行われている術式であり、日本では2012年に保険適用となり、導入が進んでいる。腹腔鏡下手術とロボット支援手術は、開腹手術に比べ出血量が少なく、手術巣が小さいため、術後回復が早いというメリットがある。

 術中の出血など周術期の合併症に加えて、術後には尿失禁や性機能障害が起こり、これらはQOLを低下させる重要な術後合併症となる。これらの課題に対し、尿道括約筋の温存および前立腺後外側の神経血管束を温存する術式により、術後の機能回復が期待できるようになってきている。

[渡邊清高 2019年12月13日]

放射線療法

放射線療法の適応は限局性前立腺がんであり、手術とほぼ同等の治療成績が得られる。

 照射方法は、外照射と組織内照射に分けられる。前立腺への線量増加が治療に有効であることが明らかになり、そのため直腸を含む周辺の正常組織への照射をいかに抑えるかが考えられるようになった。組織内照射は、周辺正常組織への照射を抑える理想的な放射線治療として、近年急速に普及している。外照射、組織内照射ともに合併症としては直腸障害、排尿障害、性機能障害があげられ、その発生頻度は照射線量の増加により高まる。

(1)外照射療法
根治を目的とした外照射では、最低でも72グレイ(Gy)以上の線量が必要とされる。コンピュータ技術の発達により三次元原体照射(3D conformal radiation therapy:3D-CRT)や強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy:IMRT)が開発され、高線量照射が可能になってきた。3D-CRTは三次元治療計画により、周囲臓器の直腸や膀胱への障害を減らし、前立腺に高線量を照射する多門照射(病巣に対して2方向以上から線束を集中させて照射する方法)である。IMRTは一つの照射野の中で部位によって放射線の強度を変えることにより、3D-CRT以上の高線量を照射することが可能となっている。

 このほか、限局性および局所進行性前立腺がんに対し、陽子線および重粒子線治療による良好な治療成績が報告されているが、施行できる施設に限りがある。局所進行性前立腺がんに対しては、外照射にホルモン療法を併用することで、無再発生存率の向上が認められている。

(2)組織内照射療法
永久挿入密封小線源療法(low dose rate brachytherapy:LDR)は、低線量率ヨウ素125シード線源を超音波ガイド下に前立腺内に埋め込む方法で、低~中間リスク限局性前立腺がんに対して行われる。外照射に比べ、短期間での治療が可能である。日本では2003年に認可され、広く実施されている。

 高線量率組織内照射療法(high dose rate brachytherapy:HDR)は、前立腺内に刺入した十数本の針を通じて、遠隔操作式後充填(じゅうてん)装置を用いてコンピュータ制御下に、高線量率イリジウム192線源を前立腺内に短時間挿入して照射を行うものである。通常は外照射およびホルモン療法と併用され、局所限局性前立腺がんに加え、局所進行性前立腺がんに対しても実施される。

[渡邊清高 2019年12月13日]

ホルモン療法

前立腺がんの多くが男性ホルモン(アンドロゲン)依存性である性質を利用して、アンドロゲンを去勢レベルに落とす治療法である。遠隔転移がある場合には第一選択となり、放射線療法の補助療法としても用いられる。しかし、治療開始から1~5年経過すると、ホルモン療法非依存性、すなわち去勢抵抗性前立腺がんとなることが多く、その時点で治療法の変更が必要となる。

 ホルモン療法に伴い、骨塩量の低下、骨折リスクの上昇がみられるため、ビスホスホネート製剤などを投与してリスクを低下させる。ほかに、性機能障害、ホットフラッシュ(急な発汗、ほてりなど)、疲労、女性化乳房、糖・脂質代謝異常、体脂肪増加がみられることがあり、これらに伴うQOLの低下を抑えるためのケアがなされる。

(1)両側精巣摘除術
外科的に両側の精巣を摘出する方法である。安価で永続的にアンドロゲンの一種テストステロンを低下させることができるが、身体的、精神的苦痛を伴うものである。

(2)LH-RHアゴニスト
下垂体にある黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)受容体を持続的に刺激して、LH-RH受容体の感受性を低下させることで黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑制し、テストステロンの合成を阻害する作用をもつ薬剤を総称してLH-RHアゴニストとよぶ。LH-RHアゴニストによる治療は内科的去勢といえるもので、前立腺がんの一次ホルモン療法として、ゴセレリン(商品名:ゾラデックス)、リュープロレリン(商品名:リュープリン)が用いられている。投与初期にテストステロンの一過性の上昇(フレアアップ)が問題となることがあり、抗アンドロゲン薬の予防投与が行われる。

(3)LH-RHアンタゴニスト
LH-RH受容体を直接阻害する薬剤がLH-RHアンタゴニストであり、日本では2012年よりデガレリクス(商品名:ゴナックス)が用いられるようになった。LH-RHアゴニストでみられるフレアアップをおこさずに、血中テストステロンを速やかに去勢レベルまで低下させる点が特徴的である。

(4)抗アンドロゲン薬
アンドロゲンの働きを抑える作用をもち、ステロイド性抗アンドロゲン薬と非ステロイド性抗アンドロゲン薬に大別される。LH-RH製剤と併用した複合アンドロゲン遮断(combined androgen blockade:CAB)療法として用いられることが多い。

(a)非ステロイド性抗アンドロゲン薬
ビカルタミド(商品名:カソデックス)とフルタミド(商品名:オダイン)は、副腎(ふくじん)由来のアンドロゲンと受容体の結合を阻害することでその働きを抑える薬剤である。さらにより強力な作用をもつエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)は、一次ホルモン療法に抵抗性となった去勢抵抗性前立腺がんに対して生存期間の延長を認めている。

(b)ステロイド性抗アンドロゲン薬
クロルマジノン(商品名:プロスタール)は、ステロイド骨格をもつことで、下垂体に作用して血中テストステロン濃度を低下させる。非ステロイド性抗アンドロゲン薬に比べ有効性が低く、近年はあまり用いられていない。

(5)CYP17阻害薬
アビラテロン(商品名:ザイティガ)は、アンドロゲンの合成に関わる酵素CYP17を阻害することにより、精巣だけでなく副腎や前立腺でのアンドロゲン合成を抑える薬剤である。一次ホルモン療法に抵抗性となった去勢抵抗性前立腺がんに対し、生存期間の延長が認められている。

(6)エストロゲン製剤
エストロゲン製剤のエチニルエストラジオール(商品名:プロセキソール)は、血中エストロゲン濃度を上昇させることで、下垂体にネガティブフィードバック(分泌を抑える作用)を生じさせ、血中テストステロン濃度を低下させる薬剤である。他のホルモン療法に対して治療抵抗性を示す場合に用いられることがあるが、副作用として心血管系の合併症がある。

[渡邊清高 2019年12月13日]

化学療法

転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対しては、タキサン系抗がん剤のドセタキセルと副腎皮質ステロイド薬のプレドニゾロンの併用が標準治療として行われてきた。副作用としては好中球減少症、貧血、脱毛、食欲不振などがみられる。

 同じくタキサン系抗がん剤であるガバジタキセル(商品名:ジェブタナ)は、ドセタキセルに抵抗性を認めるようになった前立腺がんに対して全生存期間の延長が認められ、日本でも2014年に保険適用となっている。副作用として好中球減少症が必発であり、下痢、肝機能障害、間質性肺炎がみられることもある。

 このほか、新しく用いられるようになった薬剤として、非ステロイド性抗アンドロゲン薬エンザルタミドがある。転移性去勢抵抗性前立腺がんに対し、ドセタキセル治療の前後を問わず、全生存期間を延長することが明らかにされている。疲労感、食欲不振、脱力感などの副作用がみられるが、比較的安全性が高いとされる。

 さらにCYP17阻害薬のアビラテロンも、転移性去勢抵抗性前立腺がんに対し、プレドニゾロンとの併用により全生存期間の延長が認められている。肝機能障害や体液貯留、心血管系障害がみられることもあり、いずれの薬剤も副作用への対策を講じつつ使用される。

[渡邊清高 2019年12月13日]

経過・予後

前立腺がんは骨、リンパ節への転移をきたすことが多く、転移がみられる場合にはホルモン療法や化学療法が行われる。骨転移を伴う場合は、ゾレドロン酸やデノスマブ(商品名:ランマーク)などの骨修飾薬を用いて治療が行われる。これらの薬剤は破骨細胞を抑制することにより、骨転移の進行を抑制するものである。また、鎮痛薬による痛みの緩和が行われる。痛みが一部の範囲に限られているときは放射線療法(外照射療法)が効果的であり、骨折予防のために行われることもある。

 限局性前立腺がんで前立腺全摘除術や放射線療法を受けた場合の予後は、他の部位のがんと比べて一般的に良好である。低リスク限局性がんでは治療の種類を問わず、がん特異的な5年生存率は100%に近く、予後は健常人とほぼ同等となる。中間~高リスク限局性がんで、外科療法や放射線療法などの根治療法を行った後にPSAが最低値より2.0ng/mL以上上昇し、生化学的再発と診断された場合でも、臨床的再発までには数年の猶予があると考えられている。

 再発の際の治療方法は、前にどのような治療を受けたかによって変わってくる。生化学的再発に対し、追加放射線療法やホルモン療法が再度奏効することもしばしばある。一方、転移を有する進行性前立腺がんの予後は不良である。ホルモン療法は一時的には有効であるが、多くは開始後2~3年でホルモン療法に対する抵抗性を獲得するため、その後再発をきたすことが多く、5年生存率は30%程度となる。

[渡邊清高 2019年12月13日]

その他

前立腺がん検診

PSA検査を用いた前立腺がん検診に関して、2008年に厚生労働省より、集団検診として実施することは勧められないという見解が出された。その後、2009年にヨーロッパで行われた信頼性の高い研究で、集団検診による前立腺がん死亡率の低下が報告された一方、アメリカでの大規模研究では有効性は示されず、PSAによる検診の有効性については引き続き議論がなされている。アメリカでは55~69歳の男性では個人の判断による受検は行ってもよいとされているが、70歳以上の高齢者では検診による不利益の点から推奨されていない。

 検診によるおもな不利益として、検診を行っても100%がんが発見されるわけではないこと、不必要な前立腺生検の増加とそれに伴う合併症、治療に伴う合併症からのQOLの低下があげられる。さらには、前立腺がん死に至らない「臨床上意義のない前立腺がん」が発見され(過剰診断)、過剰治療が行われる可能性などがある。

 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(平成28年2月4日改正)では、胃、子宮頸部、乳房、肺、大腸のがん検診について定めているが、前立腺がん検診についての取り決めはなく、前述のとおり、現時点では日本においてPSA検査による前立腺がん検診は対策型検診としては推奨されていない。

[渡邊清高 2019年12月13日]

『日本泌尿器科学会他編『泌尿器科・病理・放射線科 前立腺癌取扱い規約』第4版(2010・金原出版)』『日本泌尿器科学会編『前立腺癌診療ガイドライン 2016年版』(2016・メディカルレビュー社)』『日本泌尿器科学会編『前立腺がん検診ガイドライン 2018年版』(2018・メディカルレビュー社)』『前立腺研究財団編・刊『PSA検診 受診の手引き 2018年版』(2018)』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』』

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EBM 正しい治療がわかる本「前立腺がん」の解説

前立腺がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 前立腺(ぜんりつせん)は男性の膀胱(ぼうこう)と尿道(にょうどう)のつなぎ目にあり、尿道と射精管(しゃせいかん)を取り囲む栗(くり)の実ほどの大きさの臓器です。前立腺がんはここに悪性腫瘍(あくせいしゅよう)ができる病気です。
 初期の段階ではとくに症状はありません。進行してくると、頻尿(ひんにょう)や残尿感(ざんにょうかん)、排尿困難、会陰部(えいんぶ)の圧迫感などの症状が現れます。これらの症状は前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)と同じものなので、両者の鑑別が大切です。ただし、いずれも高齢者に多い病気で、両方が合併していることもあります。
 血液検査で腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)を調べると、かなり高い確率で前立腺がんの早期発見に役立ちます。肛門(こうもん)から指を挿入して前立腺を触診する直腸診(ちょくちょうしん)も有効です。
 前立腺がんと診断された患者さんは、どの程度病気が進んでいるか(限局性がん、局所進行がん、遠隔転移を伴うがん)を調べます。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 前立腺肥大症は尿道に対しておもに内側から発生しますが、前立腺がんの場合は尿道に対して外側から発生することが多いという特徴があります。このため、前立腺がんの初期には尿道を圧迫せず、頻尿や残尿感などの症状は少し病気が進行してからでてきます。
 現在までのところ、男性ホルモン、人種、食生活、生活環境、遺伝子またはウイルス感染などが関係しているのではないかと考えられています。もともと欧米に多く、わが国では少なかったがんですが、近年、わが国でも増加傾向にあることから、とくに食生活の欧米化との関係が疑われています。
 また、前立腺がんの多くは、自分の体でつくられる男性ホルモンによって増殖します。このため、体内での男性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)や作用を止めると、がん細胞の増殖を抑制することができます。

●病気の特徴
 前立腺がんは、世界全体で見ると男性がん患者の約14パーセントを占める頻度(ひんど)の高いがんです。日本でも食生活の欧米化、高年齢化、PSA検査の普及などにより急増しており、泌尿器科(ひにょうきか)のがんではもっとも多いがんです。
 日本では10万人あたりの男性が1年間に前立腺がんにかかる人数は、全年齢をあわせると120人程度です。45歳以下の男性ではまれですが、50歳以後は増加し、80歳代前半で発症のピークを認める高齢者に多いがんといえます。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]PSA監視療法
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺がんと診断されても無治療でPSAの数値をみながら経過を観察し、病勢をみながら治療を検討する方法です。低リスクで高齢者の場合には生活の質を保つことのできる治療として選択肢のひとつと考えられており、専門家から支持されています。(1)(2)

■手術療法
[治療とケア]前立腺摘除術(ぜんりつせんてきじょじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺摘除術はがんがおもに前立腺内にとどまっている早期がんで行われます。最近は腹腔鏡下(ふくくうきょうか)またはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘出術などの侵襲(しんしゅう)の少ない手術が主流になっていますが、全身麻酔をして開腹して行う手術が行われることもあります。腹腔鏡下またはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘出術は、開腹術と比べても治療効果に差がないことが報告されています。(1)(3)

 



[治療とケア]放射線療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 体外から放射線を照射する外照射療法と、前立腺内に放射線をだす線源を埋め込む組織内照射があります。組織内照射は侵襲が少ないため、手術が困難と考えられる患者さんでも治療が可能であるという利点があります。
 初期の前立腺がんでは前立腺摘除術と変わらない治療効果があることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。また局所進行がんなどリスクの高いがんでも、ホルモン療法と併用することで生存率が向上することが臨床研究で報告されています。(1)(4)(5)

■男性ホルモンを抑制する治療法
[治療とケア]去勢術(きょせいじゅつ)を行う
[評価]☆☆
[治療とケア]女性ホルモン薬を用いる
[評価]☆☆
[治療とケア]抗男性ホルモン薬を用いる
[評価]☆☆☆☆
[治療とケア]LH-RHアゴニストを用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺がんは、自分の体でつくられる男性ホルモンによって増殖していきます。これらの治療法は増殖する要因である男性ホルモンを抑えることで、がんを抑え込むことを目的とします。
 去勢術は、男性ホルモンの大部分をつくっている精巣(せいそう)(睾丸(こうがん))を取り去ることで、体内の男性ホルモンを急速に低下させます。
 女性ホルモン薬、抗男性ホルモン薬、LH-RHアゴニストは作用するホルモンの違いはありますが、いずれも男性ホルモンが前立腺に影響をおよぼすのを止める薬です。女性ホルモンは心血管系の副作用のため、現在はほとんど使われておりません。(6)~(10)
 日本で行われた臨床試験では、限局がんにホルモン単独療法を行った場合に一般人口の生存期間と同等の長期生存期間が得られることが報告されており、多くの専門家の支持もあり、現在、これらの治療法は標準的な治療と考えられています。
 また、LH-RHアゴニストと抗男性ホルモン薬を併用するcombine androgen blockade(CAB)療法が、去勢単独療法に比べて生存率を改善させるという報告があります。(1)(8)(11)(12)

 



[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 転移を有する前立腺がんで長期にわたってホルモン療法を行っていると、多くの症例がホルモン抵抗性となることが知られており、このような場合には抗がん薬が使われ、一定の効果があることが信頼できる臨床研究で報告されています。(13)(14)


よく使われている薬をEBMでチェック

女性ホルモン薬
[薬名]エストラサイト(エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物)(6)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 心血管系の副作用のため、ほとんど使用されなくなっています。

抗男性ホルモン薬
[薬名]オダイン(フルタミド)(7)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]カソデックス(ビカルタミド)(8)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 去勢術と同等の効果を示すことが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。
[薬名]プロスタール(クロルマジノン酢酸エステル)
[評価]☆☆
[評価のポイント] フルタミドと同等の効果はあるものと考えられていて、専門家の意見や経験から支持されています。

LH-RHアゴニスト
[薬名]リュープリン(リュープロレリン酢酸塩)(9)(10)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ゾラデックス(ゴセレリン酢酸塩)(9)(10)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺がんの患者さんに用いて、安全かつ有効であることが信頼性の高い臨床研究で確認されています。

抗がん薬
[薬名]タキソテール(ドセタキセル水和物)(13)(14)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ホルモン抵抗性で転移を伴う場合、一定の効果があることが信頼できる臨床研究で報告されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
治療方針はがんの範囲と転移で決まる
 前立腺がんは、70歳以降の高齢男性では非常に高頻度にみられるものです。しかしながら、必ずしもすべての人に症状が現れて、治療が必要になるわけではありません。排尿困難や残尿感などの症状がおこり、前立腺がんと診断されたら、がんが前立腺にとどまっているのか、リンパ節や肺、骨などほかの器官への転移があるかどうかを確かめます。その結果によって治療の方針が大きく異なってきます。

前立腺摘除術か放射線療法が一般的
 がんが前立腺内にとどまっている早期では、心肺機能が許すなら一般的に、前立腺摘除術か放射線療法のいずれかが選択されます。組織を検査して、がん細胞の悪性度が低く、サイズも非常に小さいと考えられる場合は、特別な治療はしないで、定期的に経過を観察することもあります。手術についても放射線療法についてもさまざまな方法がありますので、がんの大きさや進み具合、そして本人の希望などを十分つき合わせたうえで、具体的な方法を決定します。

転移があればホルモン療法
 すでにがんが転移している場合には、男性ホルモンを薬や手術で除去または遮断する方法が中心となります。前立腺がんは、自分の体でつくられる男性ホルモンによって増殖していきます。これらの治療法はその男性ホルモンを抑えることで、がんを抑え込むことを目的とします。
 治療法の選択は、病状、年齢、本人の希望などを考え合わせたうえで決定されます。
 再発した場合は、放射線療法や抗がん薬による化学療法が行われることになります。
 前立腺がんは男性ホルモンをコントロールすることで治療できる特異ながんであり、予後もほかのがんに比べ比較的よいとされています。

(1)Heidenreich A, Bellmunt J. EAU guidelines on prostate cancer. Part1: screening, diagnosis, and treatment of clinically localized disease. Eur Urol. 2011;59:61-71.
(2)Bill-Axelson A, Holmberg L, et al. Radical prostatectomy versus watchful waiting in early prostate cancer. N Engl J med. 2011;364:1708-1717
(3)Ficarra V, Novara G, et al. Retropubiclaparoscopic,and robot-assisted radically orostatectomy: a systematic review and cumulative analysis of comparative studies. Eur Urol. 2009;55:1037-1063.
(4)Kupelian PA, Elshaikh M, et al. Comparison of the efficacy of local therapies for localized prostate cancer in the prostate-specific antigen era : a large single- institution experience with radical prostatectomy and external-beam radiotherapy. J Clin Oncol. 2002;20:3376-3385.
(5)Thompson IM, Tangen CM, et al. Adjuvant radiotherapy for pathological T3N0M0 prostate cancer significantly reduces risk of metastases and improves survival: long-term followup of a randomized clinical trial. J Urol. 2009;181:956-962
(6)Iversen P, Rasmussen F, Asmussen C, et al. Estramussen phosphate versus placebo as second line treatment after orchiectomy in patients with metastatic prostate cancer. DAPROCA study 9002. Danish Prostatic Cancer Group. J Urol. 1997;157:929-934.
(7)Boccon-Gibod L, Fournier G, Bottet P, et al. Flutamide versus orchidectomy in the treatment of metastatic prostate carcinoma. Eur Urol. 1997;32:391-395.
(8)Wirth M, TyrreC, Wallace M, et al. Bicalutamide(Casodex)150 mg as immediate therapy in patients with localized or locally advanced prostate cancer significantly reduces the risk of disease progression. Urology. 2001;58:146-151.
(9)Perez-Marreno R, Chu FM, Gleason D. A six-month, open-label study assessing a new formulation of leuprolide 7.5 mg for suppression of testosterone in patients with prostate cancer. Clin Ther. 2002;24:1902-1914.
(10)Bolla M, Collette L, Blank L, et al. Long-term results with immediate androgen suppression and external irradiation in patients with locally advanced prostate cancer (an EORTC study): a phase III randomised trial. Lancet. 2002;360:103-106.
(11)Akaza H, Homma Y, et al. Prostate Cancer Study Group. Efficact of primary hormone therapy for localized or locally advanced prostate cancer: results of a 10-years follow-up. BJU Int.2006;98:573-579.
(12)Samson DJ, Seidenfeld J, et al. Systematic review and meta-analysis of monotherapy compared with combined anddogen blockade for patients with advanced prostate cartinoma. Cancer. 2002;95:361-376.
(13)Tannock IF, de Wit R, Berry WR, et al. Docetaxel plus prednisone or mitoxantrone plus prednisone for advanced prostate cancer. N Engl J Med. 2004;351:1502-1512.
(14)Petrylak DP, Tangen CM, Hussain MH, et al. Docetaxel and estramustine compared with mitoxantrone and prednisone for advanced refractory prostate cancer. N Engl J Med. 2004;351:1513-1520.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科「前立腺がん」の解説

前立腺がん
ぜんりつせんがん
Prostatic cancer
(男性生殖器の病気)

どんな病気か

 前立腺がんは、欧米では男性がんで罹患数の第1位、死亡数の約20%(肺がんに次いで第2位)を占める頻度の高いがんですが、日本では、男性罹患数は胃がん、肺がんに次いで第3位(2013年全国推計)、死亡数は膵臓がんに次いで6番目(2016年全国統計)です。

 年齢別では、45歳以下ではまれですが、50歳以後その頻度は増え、60代では10万人あたり約300人、70歳以上で500人以上(2012年神奈川県)になります。このように、前立腺がんは高齢者のがんであるといえます。

 今後日本では、食事の欧米化、高齢人口の増加、腫瘍(しゅよう)マーカーであるPSA(前立腺特異抗原(ぜんりつせんとくいこうげん))検査の普及に伴い、前立腺がんの患者は急速に増加し、2020~2024年には、年平均で前立腺がんの罹患数は105,800人となり、男性がんの第1位になると予想されています。

原因は何か

 前立腺がんの原因は遺伝子の異常と考えられており、複数の原因遺伝子が同定されています。また、加齢と男性ホルモンの存在が影響しますが、いまだ明確ではありません。そのため、効果的な予防法も明らかではありません。

 欧米での報告によると、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺がんの発生が増えると考えられています。一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事はがんの発生を抑える効果があると考えられています。ハワイや米国東海岸在住の日系人は日本人と米国人の中間の発生率であり、食事の欧米化が原因とする考えの根拠のひとつになっています。喫煙との関係を指摘する報告もあります。

 前立腺がんは、遺伝の要素が強いがんのひとつと考えられているため、前立腺がんと診断された親族がいる場合、早め(40歳~)にPSA検査を受けることをおすすめします。

症状の現れ方

 前立腺がんは前立腺の外腺の腺上皮から発生する率が高く、初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなど、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)と同じ症状が現れます。

 がんが尿道または膀胱に広がると、排尿の時の痛み、尿もれや肉眼でわかる血尿が認められ、さらに大きくなると尿が出なくなります(尿閉)。精嚢腺(せいのうせん)に広がると、精液が赤くなることがあります。さらにがんが進行すると、リンパ節や骨(脊椎(せきつい)や骨盤骨)に転移します。リンパ節に転移すると下肢のむくみ、骨に転移すると痛みや下半身麻痺(まひ)を起こすことがあります。

検査と診断

 前立腺がんは早期では症状がないので、PSA検査で早めに診断することが大切です。PSA検査は血液検査だけの簡単な検査法です。前立腺がんの発見率は、カットオフ値4.0ng/mlで検診を受けると、50~54歳で0.09%、55~59歳で0.22%、60~64歳で0.42%、65~69歳で0.83%、70~74歳で1.25%、75~79歳で1.75%と報告されています。カットオフ値とは、この値を境に再検査や治療を始めるための数値です。

 PSA値は、がんの進行とともに上昇し、診断から進展度(病気の進み具合)、治療効果の判定、再発の有無、予後までも予測することができます。しかし、PSA値があまり上昇しない前立腺がんも15~20%あるため注意が必要です。

 そのほか、直腸診では前立腺がんは硬いしこりとして前立腺内に触れ、経直腸超音波診断では前立腺の変形、低エコー領域として認められます。最近は前立腺がんの早期発見の目的で、MRI検査、PET/CT検査も行われています。

 これらの検査により前立腺がんが疑われたら、麻酔下に経直腸超音波検査で位置を確認しながら、前立腺の10カ所以上を針生検によって組織を採取し、がんの組織診断を行います。

 組織診断では、悪性度(高分化:G1、グリソンスコア3+3=6、中分化:G2、グリソンスコア3+4 or 4+3=7、低分化:G3、グリソンスコア4+4=8以上)と進展度(限局がん:A、B、局所浸潤(きょくしょしんじゅん)がん:C、進行がん:D)を調べます(表3)。

 前立腺がんの周囲への進み具合は、経直腸超音波検査、骨盤部のMRIによって調べます。全身のリンパ節転移は全身CT検査、PET/CT検査で、全身の骨転移については骨シンチグラフィが有用で、また最近は全身のMRI検査(DWIBS(ドゥイブス)法)の有用性が報告されています。

前立腺肥大症との区別

 早い段階では、前立腺肥大症と前立腺がんに症状の差はありません。どちらも、血尿や尿が出にくくなるなどの症状が現れます。前立腺肥大症ではどんなに進んでも、骨の痛み、下肢のむくみなどはみられません。直腸診では、前立腺肥大症は、弾力性のある腫大(はれて大きくなる)した表面が平滑な腫瘤(しゅりゅう)として触れますが、がんでは、硬いしこりを触れます。PSA値は、前立腺がんのほうが高値を示します。最終的には、前立腺の針生検を行って診断します。

治療の方法

 まず、がんの進み具合や悪性度別の治療方針について説明し、そのあとで各治療法について述べます。

①進展度、悪性度別の治療表4

a.高分化がん(G1、グリソンスコア3+3=6)

 限局がんの場合は前立腺全摘出術(全摘)、小線源(しょうせんげん)療法(放射線療法)が第一選択ですが、内分泌療法も有効なので、どれを選択しても生命予後には影響しません。限局がんでもさらに初期の場合は無治療、厳重な経過観察も選択可能です。

b.中分化がん(G2、グリソンスコア3+4 or 4+3=7)

 限局がんの場合は、全摘あるいは小線源療法、外照射(がいしょうしゃ)療法(放射線療法)が第一選択です。内分泌療法をまず行い、再度生検で効果を確認したあとで治療法を選択することも可能です。局所浸潤がんの場合は、内分泌療法後に放射線療法を行うのが一般的です。進行がんの場合は内分泌療法が第一選択です。

c.低分化がん(G3、グリソンスコア4+4=8以上)

 限局がんの場合は、全摘が絶対的適応です。局所浸潤がんでは、内分泌療法と抗がん薬療法を行い、さらに放射線療法を併用します。進行がんでは、内分泌療法、放射線療法、抗がん薬療法を併用しますが、予後は不良です。

 75歳以上の高齢者では、前立腺の全摘の代わりに、放射線療法を選択するのが一般的です。このように悪性度、進展度、患者さんの状態によりさまざまな治療法の選択肢がある一方で、どれを選んだらよいか迷う場合があります。この場合、セカンドオピニオンといって他の専門医の診察を受け意見を求めることもできます。

②主な治療法と副作用

a.内分泌(ホルモン)療法表5

 前立腺がんの多くは、精巣および副腎から分泌される男性ホルモンの影響を受けて増殖します。男性ホルモンの作用を低下させることを目的として、「LH­RH(GnRH)アゴニスト」製剤(リュープリン、ゾラデックス)あるいは「LH­RH(GnRH)アンタゴニスト」製剤(ゴナックス)を皮下注射する方法が一般的です。中止すると男性ホルモンは元にもどります。精巣(せいそう)摘出術(去勢術)では同じ効果が一生続きます。最近では、これらに抗男性ホルモン薬を加えたMAB療法が一般的です。

・抗男性ホルモン薬……男性ホルモンがその受容体(AR)に結合するのを抑制して、男性ホルモンが血中にあってもその作用が起こらないようにする薬です。ビカルタミド(カソデックス)、フルタミド(オダイン)、クロルマジノン(プロスタール)そして、新規薬剤としてエンザルタミド(イクスタンジ)があります。

 内分泌療法を続けると、いわゆる更年期障害が現れ、発汗異常、性欲の減退が認められます。内分泌療法としては、かつては女性ホルモン薬のエストラサイト、プロセキソールなども使われましたが、電解質の代謝異常、心電図の異常、肝機能障害、性欲の減退、女性化乳房などの副作用が起こることがあり、現在はほとんど使用されません。

b.外科療法(前立腺全摘出術)

 がんが前立腺内に限られている時、手術により精嚢腺を含む前立腺全体を摘出してがんを取り除く方法です。下腹部を切開して行う開腹手術に、最近は腹腔鏡による治療法やさらにロボット支援下手術も行われています。入院期間は約2週間で、原則として開腹手術では輸血に備えて自己血貯血(ちょけつ)を行いますが、腹腔鏡、ロボット支援下手術では不要となりました。合併症には、尿失禁、勃起不全(ぼっきふぜん)などがあります。

c.放射線療法

 高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す方法です。近年、放射線治療技術が進歩し、陽子線や重粒子線を使用したり、IMRT(強度変調放射線治療)や3D(三次元原体照射)の使用で副作用を減らし、治療効果の改善が得られています。

 また、これまでの外照射療法のほかに、小線源療法といって前立腺に放射線を出す小線源(ヨウ素125)を埋め込む方法(組織内照射療法)があります。副作用は、排尿痛、血尿、直腸からの出血などがみられます。

d.化学療法(抗がん薬)

 内分泌療法が効きにくい低分化がんや、再発・再燃した時に行う治療法です。抗がん薬として現在は一般的にドセタキセル(タキソテール)、そして新規薬剤としてカバジタキセル(ジェブタナ)が使用され、一定の効果が認められていますが、効果が続く期間が短いという欠点があります。副作用としては、手足のしびれ、骨髄機能の低下などがあります。

e.その他の治療法

・アビラテロン酢酸エステル(内服薬:ザイティガ)療法……副腎由来の男性ホルモンを遮断(CYP17阻害)する新しいタイプの内分泌治療薬で、原則としてステロイド薬のプレドニゾロン(プレドニンなど)との併用で使われます。

・塩化ラジウム(223Ra注射薬:ゾーフィゴ)療法……骨転移に対する新しい放射線同位元素を用いた治療法です

・ビスホスフォネート製剤……もともと高カルシウム血症の治療に使われていた薬ですが、前立腺がんの骨転移の痛み、骨折の軽減などに有効なことがわかってきました。点滴で投与します。

・ストロンチウム療法……ストロンチウムが体内でカルシウムと同じはたらきをすることから、ストロンチウムの放射性同位元素を投与して、骨転移の痛みを和らげる治療です。放射性物質のため治療のできる施設が限られます。骨髄機能が低下する可能性があります。

③再発と再燃

 治療によりいったん低下したPSA値が再び上昇したり、局所の再発、リンパ節または他臓器に新たに転移がみられた場合、再発といいます。最初から進行がんと診断され、内分泌療法を中心に治療し、いったん低下したPSA値が再び上昇した場合を再燃(去勢抵抗性前立腺がん:CRPC)といいます。再発・再燃に対する標準的な治療法はまだ定まっていません。どのがんもそうですが、再発あるいは再燃したら根治治療は難しいのが現状です。

④治療成績と予後

 前立腺がんは早期発見例が増加したことと、内分泌療法が有効なため、他のがんと比べると治療成績と予後は比較的よいがんといえます。

 5年生存率は、限局がんでは90%以上、局所浸潤がんで70~80%、進行がんで40~50%です。とくに、限局がんでも高分化、中分化がんでは5年生存率は100%近くになります。最新の情報はインターネットなどで得られます。

病気に気づいたらどうする

 一般開業医あるいは検診センターでPSA検査を受けてください。PSA検査を継続的に受けることで、前立腺がんの死亡率が低下することが報告されています。PSA検査の結果が4ng/ml以上だったら、泌尿器科専門医の診察を受けてください。PSA値が4~10ng/mlをグレーゾーンといい、針生検で20~30%の割合でがんが発見されます。PSA値が10ng/ml以上だったら、針生検を受けることをすすめます。

 生活での注意は、脂肪の多い食事はひかえ、繊維、穀物、豆類を多くとり、運動をして太らないようにします。もちろん禁煙です。

三浦 猛


前立腺がん
ぜんりつせんがん
Prostate cancer
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 高齢化に伴い、前立腺がんは男性では肺がんに次いで死亡率が高い病気です。血液検査で前立腺特異抗原(PSA)を測定することで、無症状での前立腺がんの早期発見ができるようになりました。

 一般に数値が4ng/ml以上高値ならば前立腺がんを疑い、前立腺生検をして、がんかどうか病理診断をします。生検でがんが証明されると「グリソンスコア」でがんの悪性度が判定されます。

 がんの広がりはコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)検査で調べます。骨シンチグラフィーで骨転移の有無も検索します。これらの検査結果でがんの病期分類をします。

治療とケアのポイント

 治療の選択は原則として病期分類に従って行われますが、悪性度も考慮します。高齢者では全身状態や家庭環境、経済的状況なども考える必要があります。80歳以上の高齢者で悪性度の低いがんに対しては積極的治療をせずに、定期的なPSA測定で経過をみる待機療法が選択されます。

 積極的な治療としては抗男性ホルモン療法(内分泌療法)、手術療法(根治的前立腺全摘除術)、放射線療法などがあります。内分泌療法が広く行われていますが、根治的には手術療法を選択します。75歳以下で転移がなく、がんが前立腺内に限局している場合に適応となります。

 近年、放射線療法は従来の外照射法の他に組織内照射法(小線源療法)も行われるようになりました。進行がんや内分泌療法が無効の内分泌抵抗性がんに対して最近、化学療法(かがくりょうほう)が導入され、また骨転移に対しても化学療法が行われ始めていますが、いずれの化学療法もいろいろな副作用があり、高齢者では十分な注意が必要です。手術療法では術後後遺症の尿失禁が問題で、失禁ケアが大切となります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館「前立腺がん」の解説

ぜんりつせんがん【前立腺がん Prostatic Cancer】

◎高齢者のがんで、急増している
[どんな病気か]
 前立腺がんは、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)(「前立腺肥大症」)と異なり、前立腺の、尿道からはなれた部分から発生するがんです。このために前立腺がんは、ある程度進行しないと排尿障害はおこりません。いいかえれば、排尿障害をともなうようになったときは、前立腺がんは少し進行していることになります。
 前立腺がんは、40歳代から発生するといわれていますが、臨床的には50歳代からみられ、年齢が進むにつれてその頻度が高くなる、典型的な高齢者のがんで、8割以上が65歳以上です。これは、老齢になるにつれて女性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)が少なくなり、性ホルモンの不均衡がおこるためといわれていますが、詳しいことはまだわかっていません。
 欧米では、男性に発生するがんのうちでいちばん多いのが前立腺がんですが、日本では、まだそれほどではありません。しかし、日本の前立腺がんは急激に増加し、将来も増加の一途をたどると推測されています(「増え続ける前立腺がん」)。
 このがんは、初期にはあまり症状がなくても、放っておくと骨に転移して激しい痛みをともなうことが多いものです。高齢者が多いため、他の臓器のがんを合併する頻度も高くなります。
 前立腺がんになると、腫瘍(しゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)といって、血液の中の特別な成分が増加することが古くから知られています。最近ではこの研究がさらに進み、非常に鋭敏なマーカー(「PSA(PA)(前立腺特異抗原)」)が開発され、前立腺がんの9割以上が異常値を示しています。
 このため、老人検診などの際にこのマーカーの検査から、前立腺がんが発見されることが多くなっています。
[症状]
 初期には痛みや排尿障害、血尿などの症状はなく、なんの症状もないのが特徴といえます。進行してくると、頻尿(ひんにょう)、排尿困難、残尿感(ざんにょうかん)、ついには尿閉(にょうへい)などの排尿障害がおこります。さらに進行すると、転移による激しい骨の痛み、貧血や下肢(かし)のむくみなどがおこります。
[検査と診断]
 発病の初期はまったく無症状で、50歳以上になると発病する危険が高いがんですから、年に1回ぐらいは泌尿器科(ひにょうきか)専門医の検査を定期的に受けることがたいせつです。またこの年齢になったら、チャンスがあれば前述のマーカーの検査を受けるようにしましょう。
 経直腸触診(けいちょくちょうしょくしん)といって、肛門(こうもん)から指を挿入して前立腺を触れてみる検査がありますが(痛くはありません)、熟達した専門医ならば非常に高率で、がんかどうかがわかります。しかし、最近は触診でわからないような小さながんも増加しているので、触診、腫瘍マーカーや超音波検査の組み合わせで診断を進めていきます。
 がんの存在が疑われるときは、前立腺の組織を一部採取して、がんかどうかを病理学的に調べる前立腺生検(せいけん)を行ないます。
 これは、直腸を介して、または会陰部(えいんぶ)から特殊な針を使って前立腺を採取するのが一般的で、通院でも行なえますが、入院しての検査のほうがより確実で安全性が高いようです。また、経尿道的に前立腺を切除して病理学的検査を行なう場合もあります。
 がんの広がりや転移などを調べるために、排泄性尿路造影(はいせつせいにょうろぞうえい)、尿道造影、超音波検査、CT、MRI、骨・腫瘍シンチグラフィー、骨X線撮影などの画像診断が行なわれます。
◎初期であれば手術療法も
[治療]
 前立腺がんは、その広がりや年齢によって治療法がちがいます。前立腺がんは男性ホルモン依存性のものが多く、抗男性ホルモン療法によってよくコントロールされることが古くから知られています。
 早期で、年齢が比較的若い患者さんには、前立腺を摘出してしまう手術療法が行なわれます。また放射線療法、がん化学療法も行なわれます。
 どの治療法を選択するかは、専門医とよく相談して決めてください。
●手術療法
 手術療法は、がんが前立腺の一部分にとどまっていて、年齢の若い人に行なわれます。
 全身麻酔のもとで、被膜(ひまく)を含めた前立腺と精嚢腺(せいのうせん)とをすべて摘出します。その後いったん切断した尿道と膀胱を縫い合わせ、転移を防ぐため、周囲のリンパ節をすべて摘出するリンパ節郭清(かくせい)も行ないます。
 これらの操作を骨盤内(こつばんない)の深い部位で行なうので、手術に5~6時間以上はかかり、輸血も2000mℓ以上必要になることもあります。
 手術後は、体外へ尿を導くために、3~4週間カテーテルを尿道に入れておきます。最近は手術法が改良されていますが、5~10%の人に手術後尿失禁(にょうしっきん)がおこります。尿失禁は2~3か月で治る場合と、治らないで生涯続く場合とがあります。
●抗男性ホルモン療法
 前立腺がんは男性ホルモンに依存しているがんなので、男性ホルモンを体内で産生しないようにしたり、ホルモン剤を内服することで前立腺がんをコントロールすることが半世紀以上前から行なわれています。
 抗男性ホルモン療法は、高齢者や、がんがかなり広がっている患者さん、転移のある患者さんに行なわれます。日本ではまだまだこのような前立腺がんが多いので、抗男性ホルモン療法が治療の中心になっています。
 この治療法では、まず去勢術(きょせいじゅつ)を行ないます。これには、男性ホルモンのおおもとである精巣(せいそう)(睾丸(こうがん))を手術で摘出し、男性ホルモンをつくれなくする方法と、最近では、注射によって精巣が男性ホルモンを産生しないようにする、化学的な去勢法とがあります。
 女性ホルモンの内服は、手術的去勢術に合わせて用いられることが多いのですが、ときには単独で使われる場合もあります。女性ホルモンの内服では、まれに心臓に障害がおこることがあります。また、乳房が女性のように大きくなったり痛くなったりすることが、一時的にあります。
 抗男性ホルモン療法では、前立腺がんが根治して消失してしまうことは少なく、がんの勢いを減弱して、症状をやわらげ、たとえがんが体内に存在しても、障害をおこさないで天寿を全うすることを目的としています。
 転移のある患者さんでも、抗男性ホルモン療法によって長生きをされ、前立腺がん以外の原因で亡くなる人が多いのも事実です。
 たとえ痛みなどの症状が消えたからといって、治療を中断すると、せっかく勢いの弱ったがんが、すぐにもとの勢いを取り戻して、再発したり転移したりします。
 原因はわかりませんが、前立腺がんのなかには、抗男性ホルモン療法がまったく効かないものや、数年間よく効いていたのに効果がなくなってしまうというものもあります。担当の先生によく診(み)てもらいながら、抗男性ホルモン療法を受けるようにしましょう。
●放射線療法
 放射線療法は、前立腺のある場所をめがけて放射線を照射する治療法ですが、これは、がんがある程度広がっていて転移(リンパ腺を含めて)のない場合に用いられます。だいたい5~7週間照射を行ないます。通院でも放射線療法は可能ですが、入院して治療したほうがよいでしょう。昔はがんに効くだけの量の放射線を照射すると、非常に強い障害がおこりましたが、最近は放射線治療機器と照射法が改良され、障害は少なくなりました。抗男性ホルモン療法と併用するとより効果的です。
 また、骨に転移があって痛みの激しいときには、痛みをとる目的で、転移した部位をめがけて放射線を照射しますが、これも効果的です。
●がん化学療法
 抗男性ホルモン療法がまったく効かなかったり、一時的に効いても効果がなくなった患者さんに、多数の抗がん剤を組み合わせてがん化学療法を長い期間をかけて(数か月単位)行なう場合があります。
 副作用も相当強いのですが、数年間も化学療法を続けている患者さんもいます。この治療には、放射線療法も併用されます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

食の医学館「前立腺がん」の解説

ぜんりつせんがん【前立腺がん】

《どんな病気か?》


 前立腺(ぜんりつせん)がんは男性に発生するがんで、かつては欧米人に多く、日本人はかかりにくいがんとされていました。1年間に前立腺がんと診断された日本人男性の数は、1975年には2000人程度でしたが、2016年には9万人を超えているとみられ、約30年で45倍以上に増加しました。2016年のがん統計予測では、日本人男性がかかりやすいがんとして、胃がんを抜いてトップになっています。とくに50歳以降に多くみられ、8割が65歳以上と、典型的な高齢者のがんといえます。
 おもな原因は、加齢にともなう女性ホルモン分泌の減少によるホルモンのアンバランスだとされていますが、まだはっきりした原因は解明されていません。
 前立腺がんは、初期段階では排尿障害がみられません。進行とともに、頻尿(ひんにょう)、残尿感(ざんにょうかん)、排尿困難(はいにょうこんなん)などの排尿障害が現れます。

《関連する食品》


〈ファイトケミカルがホルモンバランスをととのえる〉
○栄養成分としての働きから
 ファイトケミカルの英字表記はphytochemicalで、植物由来の(体に良い)化学物質という意味です。チョコレートや赤ワインに含まれるポリフェノールや、ブルーベリーのアントシアニン、ゴマのセサミンなど、最近ではサプリメントとして見られるものがたくさんあります。このうち、ダイズに多く含まれることで知られるイソフラボンは、人間の体でいうエストロゲンというホルモン(女性ホルモン)に似た構造をもっています。そのため、ホルモンバランスの乱れが原因といわれる前立腺がんの予防効果があるのです。イソフラボンはダイズ以外にも、アズキやインゲンマメ、アルファルファなどに多く含まれています。
 トマトに含まれるリコピンも前立腺がんを予防するといわれています。冷やしトマトやサラダだけでなく、多くの料理に利用して十分な摂取を心がけましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報

知恵蔵「前立腺がん」の解説

前立腺がん

前立腺(ぜんりつせん)がんとは、男性だけにある前立腺に発生するがんのこと。主に高齢の男性に見られる。
前立腺は、膀胱(ぼうこう)の下に尿道を包み込むように位置するクルミの実ほどの大きさの臓器で、精液の一部を作っている。
2002年に天皇陛下が前立腺がんの全摘手術を受けたことや、最近では10年1月、世界一周「アースマラソン」を敢行中の間寛平が前立腺がんにかかっていることを公表したことなどから注目が集まっている。
早期の前立腺がんには、症状はほとんどなく、あったとしても、尿が出にくい(排尿困難)、尿の回数が多い(頻尿)、排尿後も尿が残った感じがある(残尿感)などの前立腺肥大症に伴う症状が多い。
前立腺がんの患者は近年増加しており、20年には肺がんに次いで男性のがん罹患(りかん)率では第2位になると予測されている。
患者増加の背景として、PSA(前立腺特異抗原と呼ばれる診断方法)の普及があげられる。
PSAは非常に敏感な腫瘍(しゅよう)マーカーで、前立腺がんの早期発見には必須の項目となっている。血液検査で簡単に調べることができ、基本的に前立腺の異常のみを検知する。
ただし、PSA値が異常であっても必ずしも前立腺がんであるとは限らない。診断のためには、肛門(こうもん)から指を挿入して前立腺の状態を確認する「直腸診」や肛門から超音波器具を挿入して行う「経直腸的前立腺超音波検査」、針で採取した前立腺の組織を調べる「前立腺生検」などを行う必要がある。
このような検査結果や、患者の年齢、今後の見通しなどを含めて治療法を検討する。前立腺がんの治療には、「手術療法」「放射線治療」「ホルモン療法」の他、特別な治療を実施せず経過観察を行う「待機療法」がある。

(星野美穂  フリーライター / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本「前立腺がん」の解説

前立腺がん

 前立腺がんは、欧米ではとても罹患率の高いがんです。日本でも少しずつ増えていて、今後、食生活の欧米化や人口の高齢化を考えると、さらに増えていくと思われます。50歳以降から加齢とともに増加する、男性の高齢者のがんといえます。

●おもな症状

 初期では、無症状のことも少なくありません。進行すると、尿路通過障害として排尿困難や頻尿ひんにょう(尿の回数が増える)、残尿感など。膀胱ぼうこうや尿道まで浸潤しんじゅんすると、排尿痛や血尿が出ることもあります。

①指診/腫瘍マーカー

  ▼

②前立腺超音波/膀胱尿道造影

  ▼

③穿刺吸引細胞診(病理診断)

直腸内触診と確率の高い腫瘍マーカー

 前立腺がんの診断には直腸内触診(直腸内指診)が重要で、肛門から指を挿入して病変の有無を確認することができます。

 腫瘍マーカー(→参照)は、前立腺特異抗原であるPSAやPAP、γ-Smが使用されていて、診断や治療効果の判定に重視されています。

画像診断、生検で鑑別・確定

 上記の初期検査でがんが疑われたら、前立腺(経直腸的)超音波や膀胱尿道造影(→参照)を行います。似たような症状を示す前立腺肥大症や前立腺炎との鑑別が大切で、診断が難しい場合には、超音波で病変を確認しながら穿刺せんし吸引細胞診(細い針を刺して細胞を採取し、病理検査する)を行い、診断を確定します。

 また、前立腺がんは骨に転移することが多いのが特徴で、転移したためにおこる骨痛や腰痛を初発症状として発見されることもあります。その場合、骨の単純X線撮影では独特な像を示すことがありますし、CT、MR(→参照)、骨シンチグラフィ(RI検査)で発見されることもあります。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

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