カテキン(読み)かてきん(英語表記)catechin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カテキン」の意味・わかりやすい解説

カテキン
かてきん
catechin

フラボノイドの一種。化学構造的には2個のベンゼン環(AおよびB環)が、3個の炭素で結ばれたもので、この3個の炭素は1個の酸素原子とともに6員環(C環)を形成している。フラボンイソフラボンと異なり、C環2、3位に二重結合はなく、3位にヒドロキシ基をもつ。したがってフラバノール(フラバン‐3‐オール)化合物である。ほかのフラボノイドと同様、A環に2個のフェノール性ヒドロキシ基をもつが、このほか、B環に2個あるいは3個のフェノール性ヒドロキシ基をもち、それぞれ、カテキンガロカテキンと称される。モモアンズ、ナシ、インゲンマメ蓮根(れんこん)など果実や野菜にはカテキンは含まれているが、ガロカテキンが含まれることは少ない。ただし茶葉には、両者ともに多く含まれる。カテキンやガロカテキンの化学的特徴としては、C環の2位と3位に不整炭素をもち、そのため4種の光学異性体があることである。右旋性のものを(+)(またはDあるいはd)、左旋性のものを(-)(またはLあるいはl)でよび、さらに2個の不斉炭素のうち1個の立体配置の異なるものにエピをつけてよぶ。したがって(+)体と(-)体、(+)‐エピ体と(-)‐エピ体がある。これらは旋光性が異なるだけで、融点、紫外および赤外吸収スペクトルなどは変わらない。加熱によって異性化し、ラセミ体が生成する。茶葉には(+)‐カテキン1~2%、(+)‐ガロカテキン1~3%、(-)‐エピカテキンEC)1~3%とその没食子酸エステル(ECG)3~6%、(-)‐エピガロカテキン(EGC)3~6%とその没食子酸エステル(EGCG)7~13%(いずれも乾燥葉当たり)、計16~30%のカテキン類が含まれる。これらは1929年(昭和4)から1955年(昭和30)にかけて理化学研究所の辻村みちよ(1888―1969)によって単離、構造決定された。一般に遊離型カテキンは苦味を、3位に没食子酸をもつエステル型カテキンは渋味をもつ。

 茶葉中のカテキンおよびガロカテキンは、茶葉の酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)によって容易に酸化され、両者から、橙赤色のトロポロン構造をもつ化合物テアフラビンや、それぞれの重合物で赤褐色の高分子化合物テアルビジンなどが生成する。そしてこれらは紅茶の色と味を特徴づけている。

富田 勲]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カテキン」の意味・わかりやすい解説

カテキン
catechin

(1) 3,5,7,3 ' ,4 ' -ペンタヒドロキシフラバンのこと。化学式 C15H14O6カテコールともいう。4種の異性体があるが,(+)-カテキンと(-)-エピカテキンがよく知られている。(+)-カテキンは阿仙薬に含まれている。針状晶,無水物の融点は 175℃。(-)-エピカテキンはペグ阿仙薬に多く含まれている。針状晶,無水物の融点は 245℃である。両者とも樹木成分として広く存在し,多くの場合,共存している。水,エーテルに微溶,熱水,アルコールに可溶,ベンゼンに不溶。酸化重合を受けやすく,アルカリ性溶液では迅速に赤褐色になる。染色,皮革なめし剤に利用される。 (2) 広義には3-オキシフラバンのポリヒドロキシ誘導体をさす。 (→フラボノイド )

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