改訂新版 世界大百科事典 「国生み神話」の意味・わかりやすい解説
国生み神話 (くにうみしんわ)
日本神話の中の一つ。天津神(あまつかみ)の命を受けて磤馭慮島(おのごろじま)に天降った伊弉諾(いざなき)尊・伊弉冉(いざなみ)尊の男女2神が,そこに神の依代(よりしろ)である柱を立て,その周囲を回り合って,互いに愛の言葉をかけ成婚して,大日本豊秋津洲(おおやまととよあきづしま)をはじめとする大八島国を生む神話である。異伝は記紀2書,《古語拾遺》《旧事本紀》などに10種余を伝えるが,《古事記》が最も詳しく完成した姿を見せている。所伝では最初失敗して不具の蛭児(ひるこ)と淡島を生み,ヒルコは葦舟に乗せて流す。ついで成婚の法を改めて淡路島,四国,九州,隠岐,壱岐,対馬,佐渡および大日本豊秋津洲の大八島国を生み,帰路に吉備児(きびのこ)島,小豆島,大島,女島(ひめしま)(大分県),知訶島(ちかのしま)(五島列島),両児島(ふたごのしま)(男女群島)を生む。この中の大八島の語の初出は650年(白雉1)で,天皇が大八島を統治するという〈明神御大八洲日本根子天皇〉の語は,天武朝の詔(683)に現れ,701年制定の大宝令に確定する。したがってこの神話は記紀成立当時の天皇支配の全領域を示す意義をもっている。また帰路に生む大八島以外の諸島は,遣唐使南路に関連する島々であるという説もある。ただイザナキ,イザナミ2神は淡路島を中心とする海人(あま)族に信奉された神であり,ヒルコがヒルメ(日女,日孁)と一対をなす存在であり,葦舟に乗せて流されるのも,聖なる幼童の空舟(うつぶね)での流離漂着譚と同形式であることを考えると,この神話の原形は,男女2神が淡路島や淡島とともにヒルコを生んだという内容であって,それが淡路島を中心とする海人集団の宮廷への奉仕を通して宮廷に取り入れられ,やがて大和朝廷の支配領域の拡大,支配権の確立につれて,現存するような天皇支配の全領域を含む形式に成長したものと考えられる。なお,男女2神が成婚して島々を生む話はポリネシアにも見られる。天父アテアが地母パパと婚してハワイ島,マウイ島などを生んだという神話がそれで,天父・地母の抱合によって万物が生ずるという神話の海洋化であるといわれる。
→国魂神(くにたまのかみ)
執筆者:吉井 巌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報