病院・診療所・助産所の開設および管理、それらの医療施設の整備や管理体制、都道府県の定める医療計画、医療法人に関する規定、医療に関する情報提供、罰則などについて定めた法律で、日本の医事制度の中核をなしている。昭和23年法律第205号。
医療法は、1948年(昭和23)に制定された後、その運用・整備は日本医師会等による自発的な対応にゆだねられてきたが、1980年におきた埼玉県の産婦人科病院での乱診乱療事件等を契機に医療法人の監督強化などの医療法改正が課題となった。1985年に医療法が改正され、医療法人の指導監督規定の整備に加えて、人口高齢化に伴う疾病構造の変化や医療費の増大に対応して、都道府県による地域医療計画の策定が行われた。
1992年(平成4)に第二次医療法改正が行われ、医療施設の機能区分を明確化するために、特定機能病院(高度の医療を提供する病院。病床数、施設内容、医師の資格、医師・看護師等の配置数などの要件を満たした病院で、診療報酬が一般病院よりも高く設定されている)と療養型病床群(長期療養者を対象とする医療施設で、居住性と介護の質が重視される。第四次医療法改正で療養病床と改称。医療保険型と介護保険型に区分されている)の創設、広告規制の緩和等が図られた。1997年の第三次医療法改正では、地域医療の確保と連携を進める観点から、療養型病床群の診療所への拡大、地域医療支援病院の創設などが行われた。2000年(平成12)の第四次医療法改正では、医療技術の進歩と国民のニーズに対応した適切な医療を提供するため、一般病床と療養病床の区分、有床診療所等への医療安全管理体制の義務化、医師の2年間の臨床研修必修化などが行われた。
2006年の第五次医療法改正では、患者の視点からの全体的見直しが図られた。少子高齢化に対応した質の高い医療体制を確保するために、患者への医療情報提供の推進、医療機能の分化と相互の連携の推進による切れ目のない医療提供、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の確保、医療安全の確保、有床診療所への規制の見直しが行われた。また、医療法人制度改革が実施された。従来の医療法人の大半を占めている出資持分の定めのある社団医療法人においては、出資配当は禁止されているものの、脱退や解散時に残余財産等が出資者に対して出資持分に応じて分配されており、医療法人の非営利性を損なうものとして問題視されてきた。そこで、医療法改正では、新規医療法人の設立を、出資持分のない医療法人に限定した。また、既存の出資持分の定めのある医療法人については、2017年9月を期限として出資持分のない医療法人に移行するための計画を策定することとした(2023年の医療法改正により2026年12月に延長)。さらに、へきち医療・離島医療、小児救急医療、重症難病患者への継続的医療などを担うべき新たな医療法人として、「社会医療法人制度」が創設された。そこでは公益性の高い医療を維持するとともに、それに伴うロスをカバーするため、社会福祉事業に加えて収益事業も認めるほか、自立型経営を持続できるよう公募債(社会医療法人債)も発行できるとされた。
2014年の第六次医療法改正では、地域包括ケアの実現に向けて都道府県主導による病院完結型から地域完結型への移行が図られることになった。具体的には、病床の機能区分と相互の連携に向けて医療機関による病床機能報告制度を導入して地域医療構想を策定することを柱に、在宅医療の推進、医療従事者間の役割分担とチーム医療の推進、医師・看護職員の確保と勤務環境の改善、医療事故調査制度の整備、臨床研究の推進、医療法人制度の見直しを行うことなどがあげられる。
2015年の医療法改正(この改正から第○次改正という言い方をしないこととした)では、地域医療連携推進法人制度の創設と、医療法人制度の見直しが行われた。前者は、地域の医療を提供する複数の病院(医療法人等)に係る業務の連携を推進するための方針(医療連携推進方針)を定め、医療従事者の研修、医薬品等の供給、資金の貸付その他の業務(医療連携推進業務)を行うことを目的とする一般社団法人(地域医療連携推進法人)を創設し、地域医療構想における医療需要に適合する病床数等を調整することとしたものである。また後者については、医療法人の経営の透明化の確保とガバナンスの強化、医療法人(社会医療法人、特定医療法人、出資持分あり医療法人を除く)の分割に関する規定の整備、社会医療法人の認定に関する規制が講じられた。それによると、2か所以上の都道府県で病院および診療所を開設し、医療の提供を一体的に行っている場合には、すべての都道府県知事ではなく当該医療法人の主たる事務所の所在地の都道府県知事だけで認定可能とするとされ、また、社会医療法人の認定を取り消された医療法人で一定要件に該当するものは、救急医療確保事業に係る事業等の継続的な実施計画を作成し、都道府県知事の認可を受けたときは収益業務の継続を可能とすることとされた。
2017年の8回目の医療法改正では、医療に関する広告規制の強化(詳細は「医療広告」参照)、出資持分なし医療法人への移行計画認定制度の要件緩和、医療機関開設者に関する監督規定の整備、検体検査の品質・精度管理に関する規定の創設が行われた。第五次医療法改正による出資持分あり医療法人から出資持分なし医療法人への移行は進展せず、8割近くが移行していない。移行が進まない原因として、出資持分なし医療法人に移行した場合に高額な相続税もしくは贈与税が課せられるおそれのあることがあげられた。そこでこの2017年の改正では、税務署が判断していた課税基準を厚生労働省に移管し、その認定を受けた医療法人については相続税法第66条第4項の適用を排除することとした。また認定要件が緩和され、非同族基準要件なども撤廃され、移行計画認定制度の期限も3年延長された。監督規定については、医療法人が開設している医療機関には立入検査や開設許可取消などに関する規定はあるが、医療法人以外の医療機関の運営に対しては規制が及ばず、監督が行き届かないことがあった。そこでこの医療法改正では一般社団法人、一般財団法人など医療法人以外の病院開設者に対しても、医療法人と同様の監督規定を設けることとした。また、検体検査については、医療機関が自ら行う検体検査について、品質・精度検査に係る基準を定めるために必要な根拠規定を設けた。
2021年(令和3)の医療法改正では、(1)医師の働き方改革、(2)医療計画に新興感染症対応医療を追加、(3)地域医療構想の一環として病床を削減する医療機関を財政支援する予算措置を恒久化、(4)外来医療機能の明確化・連携を図る外来機能報告制度の創設等が行われた。それらに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)への対応も含めて法改正が行われた。
医師の働き方改革では、医療機関が許容する時間外労働時間に応じてA・B・Cの三つの水準に分けて、それぞれの上限時間を設けた。A水準は原則としてすべての医師を対象に、労働時間が年間960時間以下となることを求めた。B水準は、救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関において地域医療体制を確保する観点からやむを得ず960時間を超える場合には、2035年度末までに体制を整えることとして、それまでは上限を1860時間まで緩和した。さらに、B水準では、おもな勤務先では960時間に収まるものの、副業や兼務先の労働時間を通算するとそれを超えてしまう医師を対象に1860時間まで緩和された。また、新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた「新型感染症の感染拡大時における対応」として、地域に必須(ひっす)である医療機関にはこのB水準が適用される。C水準は、初期研修医や新専門医制度の専攻医、高度技能修得など短期的に集中して経験を積む必要のある医師について例外的に適用されるもので、年間1860時間まで認められる。具体的には、臨床研修医・専攻医が研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する際に適用されるC-1水準と、臨床経験6年目以降の医師が高度技能習得研修に必要な場合に適用されるC-2水準に分けられる。
新興感染症への対応を医療計画に位置づける改正が、新型コロナウイルス感染症を踏まえて実施された。医療計画は、各都道府県が6年サイクルで策定する計画で、第七次医療計画(2018~2023年度)では5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞(こうそく)、糖尿病、精神疾患)と5事業(救急医療、災害時における医療、僻地(へきち)の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)と在宅医療を計画に位置づけることが義務づけられている。これまで感染症は感染症法の枠内で実施されてきたため、医療計画では新興感染症が位置づけられていなかったが、新型コロナウイルス感染症への対応では病床逼迫(ひっぱく)への対応が焦点となったことから、新興感染症を次期医療計画に位置づけて6事業にすることで、都道府県の対応の強化が企図された。第八次医療計画(2024~2029年度)では、従来の5疾病、5事業と在宅医療、地域医療構想に加えて、医師確保計画と外来医療計画、さらに新興感染症への対応も盛り込まれることになる。
地域医療構想では、団塊世代が75歳以上になる2025年に向けて、病床削減や在宅医療の普及など医療提供体制を改革していくことが想定されている。しかし、日本の医療提供体制は民間医療機関が中心となっており、国や都道府県が病床削減や合併再編などを主導することはむずかしい。地域医療構想調整会議が関係者の連携や役割分担の調整を図る役割を担っているが、関係者の合意形成が容易に進む状況とはなっていない。一方、財務省から地域医療構想の進展への要求も強く、財政支援の充実なども図られてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大のなかで再編に向けての改革論議は足踏み状態を余儀なくされている。新型コロナウイルスの感染が収束していくなかで地域医療構想がどのように展開していくのか注目されている。
外来医療機能の明確化・連携に向けた外来機能報告制度の創設については、その課題として、患者が医療機関の選択に際して外来機能の情報が十分に得られず、一部の医療機関に外来患者が集中し、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題が生じていることに対応すること、また、人口の減少、高齢化や外来医療の高度化が進むなかで、かかりつけ医機能の強化とともに外来機能の明確化と連携を進めていくことがあげられる。改革の方向としては、地域の外来機能の明確化と連携に向けてデータに基づく対応を強化するため、医療機関が都道府県に外来医療の実施状況を報告する制度を創設し、その報告を踏まえて地域において外来機能の明確化と連携に向けた協議を行い、その地域で外来医療を基幹的に担う医療機関を明確化することがあげられている。また、これによって患者の流れが円滑になることにより、病院の外来患者の待ち時間の短縮や勤務医の外来負担の軽減に寄与するものとされている。
[土田武史 2023年9月20日]
『川渕孝一著『第六次医療法改正のポイントと対応戦略60』(2014・日本医療企画)』▽『吉原健二・和田勝著『日本医療保険制度史』第3版(2020・東洋経済新報社)』▽『手嶋豊著『医事法入門』第6版(2022・有斐閣)』▽『平沼直人著『医療法――遂条解説と判例・通達』(2023・民事法研究会)』▽『基本医療六法編纂委員会編『基本医療六法』各年版(中央法規出版)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
医療施設のあり方の基本を定める法律。1948年,戦時色の強かった国民医療法(1942公布)に代わり医師法などとともに制定された。制定当初は助産所,患者を診るだけの診療所,入院治療をする病院という3種にのみ医療施設を分類し,その運営の基本を規定していた。その後の医療状況の変化,なかんずく高齢社会の到来にあわせて,地域的に医療施設を整備するために知事に医療計画の義務が課され,長期療養型病棟や特定機能病院,さらには患者の居宅などが対象に加えられ,医療提供のシステム化に関する規定も加えられてくることになった。そのほか,医療法人(営利を禁じられた特殊法人)や広告の規制などの規定が含まれる。
執筆者:宇都木 伸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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