日本大百科全書(ニッポニカ) 「医動物学」の意味・わかりやすい解説
医動物学
いどうぶつがく
medical zoology
人体に害を及ぼす動物について研究する科学。有害動物の分類学、形態学、生態学、疫学などの専門分科や、臨床、防疫・防除などの研究を扱う。研究対象となる有害動物は、原生動物のアメーバから脊椎(せきつい)動物の哺乳(ほにゅう)類に至るほとんどすべての動物群にわたる。このうち、とくにマラリア原虫や回虫などの、人体に寄生して病気を引き起こす原虫や蠕虫(ぜんちゅう)を対象とする場合を寄生虫学parasitologyという。寄生虫学は、さらに対象動物によって原虫学protozoologyと蠕虫学helminthologyとに分けられる。そのほかの動物群を対象とした場合が衛生動物学sanitary zoologyであり、そのなかでも昆虫類を対象とする衛生昆虫学medical entomologyは、重要な種類が多く、分科学として主要な位置を占めている。対象の動物で問題となる内容は、マラリア原虫、赤痢アメーバなどの病原体をはじめ、回虫、条虫などの寄生虫、サソリ、ハチ、クラゲなどの刺螫(しせき)、カ、シラミ、ノミ、ヒルなどの吸血。このほか、ミヤイリガイ、ミジンコなどの寄生虫の中間宿主、ハマダラカ、オウム、ネズミなどの伝染病媒介者、ハブ、マムシ、フグ、ウニ、ヒトデなどの有毒動物などである。近年は、人間生活に不快感を与えるという理由で、社会問題を引き起こす昆虫類や、多足類、クモ類、ダニ類なども不快害虫といわれて、医動物学の対象の範疇(はんちゅう)にされることがある。
[倉橋 弘]