改訂新版 世界大百科事典 「オウム」の意味・わかりやすい解説
オウム (鸚鵡)
parrot
オウム目オウム科Psittacidaeの鳥の総称。狭義のオウム類は,英名でcockatooと呼ばれる大型で冠羽をもった種を指し,一般にはオウム科の鳥をオウム・インコ類と呼ぶ。頭が大きく,くびと脚が短いずんぐりした体つきをしていて,くちばしは短くて太く,上くちばしが強く下方に曲がっている。足は2本のあしゆびが前方,他の2本が後方を向いた対趾足(たいしそく)で,これで食物をつかみ,顔の前にもっていって食べたり,脚としばしば〈第3の脚〉と呼ばれるくちばしとを使って,木をよじ登る。体の大きさは全長10cmの小型種から全長約1mの大型種までさまざまである。羽色は赤色,黄色,緑色,青色,白色,黒色などの地色に,翼,頭,尾などには地色と対照的な色彩をした斑がある非常に鮮やかなものが多く,雌雄は同色か,よく似ている。
半乾燥地帯,草原,疎林から森林にすみ,大部分の種は大小の群れをつくって樹上で生活する。主食は,草の種子,漿果(しようか),堅果,木の芽,花みつなどの植物質で,堅果は強いくちばしにはさんで割るか,脚で押さえてから割って食べる。繁殖期には,多くの種が天然の樹洞を利用するが,岩や崖の穴,キツツキ類の古巣も利用し,なかにはシロアリ類の巣塚や枯木に巣穴を掘る種もいる。小型種では年に2回,大型種では1回繁殖し,前者では4~6個,後者で2個の白い卵を巣穴の底に直接産む。抱卵はおもに雌が行い,16~28日で雛がかえる。雛は雌雄から半分消化した植物質の食物を吐き戻して与えられ,約1ヵ月から1ヵ月半で巣立つ。オウム・インコ類は,羽色が美しく,動作がおもしろいのみならず,ものまねもでき,人になれやすいなどの特徴をもっているために,ギリシア・ローマ時代以前から飼鳥として親しまれてきた。人間のことばをまねる能力はどの種も多少もっているが,なかでもアフリカ産のヨウムと南アメリカ産のボウシインコ類は,単語だけではなくて,会話や口笛,他の動物の鳴声から機械の音にいたるまで,たいへんじょうずにまねることで知られている。
オウム・インコ類は,アフリカ,アジア,オーストラリア,中南米に約320種が分布し,7亜科に分けられている。ミヤマオウム亜科は全長50cmの中型の2種からなり,暗オリーブ褐色の羽色で,くちばしの幅が狭く,上くちばしが長くのび,下方に湾曲している。ミヤマオウム(ケア)とカカがニュージーランドに分布する。アラゲインコ亜科はニューギニアに分布するアラゲインコ1種からなり,全体が黒色で,わき腹と翼の一部が赤い。くびの羽毛は剛毛状で,人の頭髪のように垂れている。オウム亜科は全長30~80cmの中・大型種を含み,立てたり,伏せたりできる長い冠羽をもち,尾の短い典型的なオウム類である。白色のオオバタン,キバタン,コバタンや黒色のヤシオウムが代表種である。ヤシオウムProbosciger aterrimus(英名palm cockatoo)は全長80cm,長い冠羽をもち,全身が黒色で,ほおの裸出部が赤い。森林の樹冠部に単独か,2~3羽の小群ですむ。カナリー・ナッツなどの堅果を好み,強力なくちばしで堅果の外殻を破って内容物を食べる。まず,堅果の一端をくちばしでくわえ,舌で支えてから,下くちばしの鋭くとがった縁で,のこぎりで切るように横に切口をつける。それから,片脚で堅果を押さえ,下くちばしの縁を切口に入れて外殻を少しずつえぐりとり,穴があくと,中に舌を入れて内容物をとり出す。ニューギニア,オーストラリア北端およびその周辺の島に分布する。ケラインコ亜科はオウム科の中でもっとも小さく,全長8~10cm,尾羽の羽軸がキツツキ類のようにかたい。6種がニューギニアとその周辺の島に分布する。ヒインコ(セイガイインコ)亜科は羽色の美しいインコ類で,全長12~35cmの小・中型種を含む。舌の先端がブラシ状になっていて,花をかみくだき,みつをその舌でなめとる。インドからニューギニア,オーストラリア,東南アジアに約60種が分布する。フクロウオウム亜科は,国際保護鳥のフクロウオウムStrigops habroptilus(英名owl parrot)1種からなる。フクロウオウムは全長60cm,上面が緑色で黒い縞があり,下面はオリーブ黄色をしている。ニュージーランドに分布し,翼が退化して,ほとんど飛べず,北島では絶滅し,現在では南島に少数が生息する。林床の明るい森林にすみ,日中は木の根の間や岩の裂け目に潜み,日没後に地上で木の根,葉,新芽などをくちばしでかみ切って食べ,ときには木によじ登り,果実をとって食べる。繁殖期には,地面の幹や根の洞,岩のくぼみに2~3個の白い卵を産む。繁殖期以外の時期は,小さな群れをつくって生活する。最後のインコ亜科は,全長10cmの小型種から全長約1mまでの大型種を含む大きなグループで,インコ類の大半を含んでいる。約140種がアフリカ,アジア,オーストラリア,中南米に分布し,亜熱帯から熱帯の森林に生息する。飼鳥として有名な種も多く,セキセイインコ,オカメインコ,ボタンインコ類,ヨウム,ホンセイインコ類,ボウシインコ類,大型で尾の長いコンゴウインコ類がいる。
→インコ
執筆者:齋藤 隆史
文化史
人声をまねるこの鳥は,前401年にインドからギリシアにもち込まれたと,クテシアスの《インド誌》にある。ローマ時代には犬と並んでとくに男性に人気の高い愛玩動物となり,大カトーをして〈帝国堕落の元凶〉と嘆かせたほどである。キリスト教世界では雄弁の象徴とされ,図像化される際には〈素直さ〉を表現する。大プリニウスは《博物誌》において,オウムは脚が極端に弱いためにくちばしから先に地上に降りるとし,インドではオウムにことばを教えるのに鉄の棒でその固い頭をたたくと述べている。オウムに関する伝承はインドにとくに多く,《鸚鵡七十話》には天国の果実を人間に運んでくる善鳥としてのオウムの話などが語られている。日本ではオウム類の鳴声を〈オタケサン〉と聞きなし,イギリスでは〈プリティ・ポリーpretty polly〉,フランスでは〈ポーブル・ジャコーpauvre jacot〉とされる。なお,モーツァルトの《魔笛》の登場人物パパゲーノPapagenoは,オウムを表すドイツ語Papageiに基づくものと思われる。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報