医王山(読み)いおうぜん

日本歴史地名大系 「医王山」の解説

医王山
いおうぜん

福光町と石川県金沢市の境にそびえる根張りの大きな山塊で、奥医王おくいおう白兀しらはげ黒瀑くろたき三千坊さんぜんぼうなどの諸峰からなる。最高点奥医王は標高九三九・一メートル。山名をイオウゼンとよび、これを訛ってヨウゼンともよんだ。古絵図などに誤って硫黄山と書いた例もままある。「闘諍記」は育王仙と記している。白山系の修験によって開かれた信仰の山で、医王山四十八坊という呼称もある。養老三年(七一九)白山開山の泰澄によって開かれ、多数の堂舎が建立されたと伝える(越の下草)。永正五年(一五〇八)成立の「白山禅頂私記」には、医王山の岩窟に移り住んだ泰澄が、弟子の臥行者に飛鉢の法を行わせて海上の船に米の寄進を請うた伝承が記される。「越の下草」によれば、山中に群堂ぐんどヶ原と称する礎石などの残る旧跡や、堂辻・池の平・泰澄修行の窟といわれる場所などがあり、また古くは医王山海蔵かいぞう寺という大寺院もあったが、一山寺院は大永年間(一五二一―二八)に廃絶したと伝える。平成二年(一九九〇)から同四年まで医王山一帯で遺構分布調査や発掘調査が行われた結果、奈良時代後半から南北朝時代に至るまで六〇〇年にわたって栄えた寺院跡・火渡り修行跡・住職墓地・遺物(珠洲焼・美濃焼など陶器の破片)等々が発見された。最も早い宗教遺構は八世紀後半から末期頃の須恵器土師器が採集された標高八〇〇メートル前後の三千坊で、この時期はまだ山林修行の場であったと推定される。九世紀末には標高約二五〇メートルの地点にあり、香城寺惣堂こうじようじそうどう遺跡の名でよばれる宗教施設の整備が行われており、この時期が山岳寺院の本格的な成立時期であろう。


医王山
いおうぜん

金沢市と富山県福光ふくみつ町にわたる山。井王山とも記し(「白山禅頂私記」白山比神社蔵)、権現山の別称をもつ。広義には白兀しらはげ山・黒瀑くろたき山・鳶岩とんびいわ奥医王おくいおう山などの一連の山群を総称して医王山とよぶが、狭義には金沢で一般に医王山登山の対象とされる白兀山一帯をさす。山群の最高峰は奥医王山で、標高は九三九・二メートル。頂上には医王山寺六角堂がある。白兀山山頂には権現と称される石造の小祠があり、薬師如来を祀る。山名はこの薬師如来(医王仏)にちなむといい、山中には薬草が多く自生する。

越中国石黒いしぐろ弘瀬ひろせ郷の領家円宗えんしゆう(現京都市右京区)雑掌幸円と地頭藤原定朝らの相論を裁許した弘長二年(一二六二)三月一日の関東下知状(尊経閣文庫)のうち柿谷寺をめぐる一項に山名がみえる。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「医王山」の意味・わかりやすい解説

医王山
いおうぜん

石川・富山県境にある山。金沢市と、富山県南砺市(なんとし)との境にある。白兀山(しらはげやま)、奥医王山(939メートル)などの山群からなり、最高峰は奥医王山。石川県側では普通、白兀山を医王山という。山頂部では尾根に流紋岩の岩峰や、大沼、三蛇(さんじゃ)ヶ滝などがあり、多種の薬草に富む。奥医王山頂に薬師如来(やくしにょらい)を祀(まつ)り、山名もこれに由来する。白山(はくさん)の開祖泰澄(たいちょう)がここの岩窟(がんくつ)に移り住んだと伝え、白山信仰の寺や坊が建ち栄えたこともあった。富山県側は林道が白兀山頂直下まで通じている。石川県側からはバスが運行し、登山、ハイキング、スキーなどでにぎわう。1000メートルに足りない山であるが、険阻なため、遭難のおそれがあり注意を要する。

[矢ヶ崎孝雄]

『森田正敏他編『医王の自然』(1965・福光町教育委員会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「医王山」の意味・わかりやすい解説

医王山
いおうぜん

石川県と富山県の県境にある山。両白山地北端に位置し,金沢市と富山県南砺市にまたがる。最高点は奥医王山で,標高 939m。一般には北方の白兀山 (しらはげやま。 896m) を医王山という。流紋岩,凝灰角礫岩からなる。泰澄法師が開いたといわれる天台宗の霊山で,山中には薬草が多い。富山県側の山麓東部は医王山県立自然公園に指定されている。ハイキングやキャンプに適し,スポーツセンターなどの施設もある。

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世界大百科事典(旧版)内の医王山の言及

【永福寺】より

…富山市にある真宗大谷派の寺。山号は医王山。通称は松寺。…

※「医王山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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