仏教で、東方の浄瑠璃(じょうるり)世界の仏をいう。サンスクリット語バイシャジュヤグルBhaiajyaguruの訳。正確には薬師瑠璃光如来(にょらい)という。かつて菩薩(ぼさつ)行を行じ、十二の願(がん)を発し、それを完成したといわれ、衆生(しゅじょう)の病と苦しみを癒(いや)し、救うことができるとされる。薬師如来については『薬師経』に説かれている。その十二の願とは、第一は衆生をことごとく薬師如来のごとくにすること、第二は迷いの衆生をすべて開暁(かいぎょう)させること、第三は衆生の欲するものを得させること、第四は衆生をすべて大乗に安立させること、第五は三聚戒(さんじゅかい)を備えさせること、第六はいっさいの障害者に諸根を完具させること、第七はいっさいの衆生の病を除くこと、第八は転女成男(てんにょじょうなん)させること、第九は正しい見解を備えさせること、第十は獄にある衆生を解脱(げだつ)させること、第十一は飢渇(きかつ)の衆生に上食を得させること、第十二は衣服に事欠く衆生に妙衣を得させることである。願にみられるごとく、薬師如来は人々に現世の利益(りやく)を与えるという色彩が強いため、中国、日本では古来、薬師信仰が盛んであった。中国では『薬師経』は致福消災の経と規定されている。日本では法隆寺、薬師寺の薬師仏にみられるごとく造像が盛んに行われた。その形像は左手に薬壺(やっこ)を持つのを特徴とするが、一定していない。日光(にっこう)・月光(がっこう)菩薩(ぼさつ)を脇侍(きょうじ)とする。眷属(けんぞく)には護法神の十二神将を配する。『薬師如来瑞応伝(ずいおうでん)』には江戸時代の薬師信仰の盛んなさまをみることができる。民間では眼病などの治療に効験があると信じられた。
[由木義文]
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医王仏とも。薬師瑠璃光(るりこう)如来の略称。東方瑠璃光浄土の主。所願成就・持戒清浄・病苦除去・転女成男(てんにょじょうなん)・息災離苦などの12の誓願を発して,衆生(しゅじょう)を救おうとした仏。左手に薬壺(やくこ)または宝珠(ほうじゅ)をもち,右手に施無畏(せむい)印を結ぶ。日光・月光両菩薩を脇侍(きょうじ)とし十二神将を護法神とする。治病延命や不老長寿を願う対象として信仰された。奈良薬師寺は,天武天皇が皇后(持統天皇)の病気平癒を祈願して建立に着手したもの。現存の造形としては,京都日野の法界寺の薬師堂,高知県大豊町の豊楽(ぶらく)寺薬師堂などの建造物,奈良薬師寺金堂の薬師三尊像,新薬師寺の本尊薬師如来と周囲の十二神将像,京都神護寺の薬師如来立像などが有名。
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…近世以降,大阪の薬問屋街,道修町(どしようまち)では薬種の守護神として少彦名神社をまつり,毎年11月には全店休業しての大祭が今日でも行われている。また薬師信仰の普及のなかで,スクナビコナは薬師如来と習合されてゆくが,857年(天安1)2神をまつる常陸国大洗磯前(いそざき)神社,酒列(さかつら)磯前神社(ともに式内社)が,官命により〈薬師菩薩名神〉と加号された(《文徳実録》)のはその早いあらわれといえる。【阪下 圭八】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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