医療社会学(読み)いりょうしゃかいがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「医療社会学」の意味・わかりやすい解説

医療社会学
いりょうしゃかいがく

保健医療問題の社会的側面を社会学的に解明していくことを課題とする学問。今日では、健康が損なわれる原因、あるいは健康を保持し増進するための対策のいずれにおいても、社会的要因や条件はますます大きく絡み合ってきている。他方では、生存権や健康権の観念拡大とともに、あるいは、世界保健機関(WHO)の健康の規定に象徴的に示されているように、それを単に身体的なものだけではなく、精神的ならびに社会的なものをも含めて全体的に理解すべきだという考えも有力になってきている。これらのことからしても、医療社会学が担うべき役割や課題はきわめて大きなものがあるといえよう。医療社会学の主たる活動領域は、健康や疾病をめぐる社会的要因と社会的施策にかかわる問題の分析理論化にあると考えられる。またその主要な研究対象としては、保健や医療の需要者側である一般市民や患者サイドの分析、他方での提供者側である医師パラメディカル・スタッフ(医師の仕事を補助する人たち)、病院その他の諸施設の解明、さらには両者にまたがる医療制度や社会保障制度の検討などがある。

 保健医療領域にかかわる社会学的研究の歴史を振り返ってみると、専門の社会学者の手になる研究は、それらが今日もっとも活発に行われているアメリカにおいてさえ、主として第二次世界大戦後のことに属するが、それを社会的要因との関連で健康や疾病の問題をとらえたものとして考えると、それは医師や社会改良家などの手により、職業病や生活環境などの問題を中心に、西欧では数世紀にも及ぶ歴史をもっているといえる。

 この点ともかかわって、社会学者のこれらの分野での研究や活動のあり方には、医学部関係者や医師が中心となり主体となって、彼らが関心をもち、期待する研究や教育のテーマに、社会学者が分担者や補助者という位置や役割で参加するというものと、社会学者が主体や中心となり、自らの問題関心や理論的枠組みを検証し、理論形成を進める手段として、保健や医療の場を利用するという立場の二つに分かれる傾向がみられた。

 日本では、社会学者が保健や医療領域の教育や研究に参加するようになったのは昭和40年代に入ってからのことである。今日では公衆衛生、精神保健、看護、医療福祉などの分野を中心に成果をあげつつある。1974年(昭和49)には「保健・医療社会学研究会」(現「日本保健医療社会学会」)が組織され、定期的な研究会や定期的な研究成果の公表も積み重ねられてきている。

[園田恭一]

『H・フリーマン、S・レビン、L・リーダー著、日野原重明・橋本正己・杉政孝監訳『医療社会学』(1975・医歯薬出版)』『保健・医療社会学研究会編『保建・医療社会学の成果と課題 1977』(1977・垣内出版)』『保健・医療社会学研究会編『保健・医療社会学の展開 1978』(1978・垣内出版)』『保健・医療社会学研究会編『プライマリー・ヘルス・ケアの戦略一九八一 保健・医療社会学の今日的課題』(1981・垣内出版)』『園田恭一・米林喜男編『保健医療の社会学』(1983・有斐閣)』『佐久間淳著『医療社会学概説――現代生活と健康・福祉』(1988・大修館書店)』『保健・医療社会学研究会編『保健・医療社会学の潮流』(1988・垣内出版)』『進藤雄三著『医療の社会学』(1990・世界思想社)』『エリオット・フリードソン著、進藤雄三・宝月誠訳『医療と専門家支配』(1992・恒星社厚生閣)』『園田恭一著『健康の理論と保健社会学』(1993・東京大学出版会)』『牧野忠康著『現代労働の保健医療社会学――VDT作業者の健康障害予防に関する保健社会学的研究』(1994・多賀出版)』『黒田浩一郎編『現代医療の社会学――日本の現状と課題』(1995・世界思想社)』『井上俊・上野千鶴子他編『岩波講座現代社会学14 病と医療の社会学』(1996・岩波書店)』『野村拓・藤崎和彦著『わかりやすい医療社会学』(1997・看護の科学社)』『星野貞一郎編『保健医療福祉の社会学』(1998・中央法規出版)』『佐藤純一・黒田浩一郎編『医療神話の社会学』(1998・世界思想社)』『進藤雄三・黒田浩一郎編『医療社会学を学ぶ人のために』(1999・世界思想社)』『上杉正幸著『健康不安の社会学――健康社会のパラドックス』(2000・世界思想社)』『黒田浩一郎編『医療社会学のフロンティア――現代医療と社会』(2001・世界思想社)』『田口宏昭著『病気と医療の社会学』(2001・世界思想社)』『山崎喜比古編『健康と医療の社会学』(2001・東京大学出版会)』『高城和義著『パーソンズ――医療社会学の構想』(2002・岩波書店)』『平川毅彦・津村修・飯島伸彦・柏原正尚・垣内国光・小池秀子著『現代社会学の基礎知識 グローバリゼーションと日本の社会4 グローバリゼーションと医療・福祉』(2002・文化書房博文社)』

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