日本大百科全書(ニッポニカ) 「協同現象」の意味・わかりやすい解説
協同現象
きょうどうげんしょう
協力現象ともいう。物質を構成する個々の原子や分子間の相互作用が協力的に働くことにより、個々の粒子の性質とは異なった新しい性質が現れる現象。協力現象として典型的なのが相転移現象であるが、集団運動の例として、格子振動、プラズマ振動、強磁性体のスピン波について解説する。
[小野昱郎]
格子振動
結晶となった固体では、原子またはイオンが規則正しく配列している。近傍の原子間には相互作用が働いており、互いにつり合いの距離を保っている。これ以上近づくと互いに斥力(せきりょく)が、離れると引力が働き、つり合いの位置に戻そうとする。その中の一つの原子が外力で急に動かされ、つり合いの位置からすこし外れると、周囲の原子を押し動かす。さらに周囲の原子の運動が次の原子に伝えられる。一方、元の原子は周囲の原子から元に戻るような力(復元力)を受ける。そのため振動がおこり、その振動が次々と周囲へ伝わっていく。これを、格子振動、または固体内の音波とよぶ。このような波動は原子のランダムな熱運動と異なり、多数の原子の協同運動の結果である。波動の伝播(でんぱ)速度をcとすれば、波長λ(ラムダ)が格子間隔に比べ長いときは、その振動数ν(ニュー)は
ν=c/λ
で与えられる。
[小野昱郎]
プラズマ振動
原子が電離した正イオンと負の電子が混合したプラズマに、電場をかけると、正イオンと負電子は逆方向に動き、全体として分極が生じる。この分極によって生じた電場は、分極の大きさに比例し、分極を減らす方向に作用しているので、これが復元力となり、分極は振動することができる。この振動をプラズマ振動といい、縦波として伝播する。その固有振動数は
で与えられる。ここで、nは電子密度、eは電子の電荷、mは電子の質量である。これは、多数のイオンと電子の集団運動の結果である。このような現象は高周波の電場を金属にかけたときにもみられる。金属では、その格子をつくっている陽イオンと金属中の自由電子の間の分極の振動が原因である。
[小野昱郎]
スピン波
量子スピンの協同運動としてのスピン波がある。強磁性体(磁石)では、格子を構成しているイオンが固有の角運動量をもつ。この角運動量をイオンのスピンといい、磁気モーメントをもっている。隣接したイオンのスピンの間には、量子力学的な交換相互作用が働いており、符号が正であれば、スピンを平行にそろえる力になっている。低温では熱運動による乱れが小さく、磁気モーメントはほぼ平行にそろっているので、強磁性が実現している。もし、どこかのスピンが平行から傾くと、その周りのスピンをすこし傾ける力が働く。この傾きがスピンの歳差運動を引き起こし、それが次々と波動として伝わる現象がスピン波である。固体内の音波は原子の変位が波動として伝播するが、ここでは、スピンの歳差運動が波動として伝わることになる。
[小野昱郎]
磁気相転移
常磁性相と強磁性相の相転移における協同現象について述べる。強磁性相はいわゆる永久磁石のことであり、自発磁化をもつ。鉄やニッケルなどの金属のほかに、フェライトに代表される遷移金属の酸化物も磁石になる。これらの物質はそれを構成している金属イオンが磁気モーメントをもっている。高温では、熱運動のため各磁気モーメントの向きは、ランダムな方向を向き、全体としては磁化をもたない常磁性相になっている。磁化をもつには外部磁場が必要である。
永久磁石となる物質では近接したイオンのスピン間には交換相互作用という磁気モーメントを平行にさせようとする力が働いているので、温度が下がって熱運動が弱くなってくると、磁気モーメントは近いところから平行になっていく。さらに温度が下がると、遠いところのスピンまで平行となる相関が生じ、全体としての磁化が生じる。この転移温度をキュリー温度といっている。高温で周りの磁気モーメントの向きがランダムのときはその力の向きもランダムであり、中心の磁気モーメントに働く力は打ち消されて消えてしまう。温度が低下すると、磁気モーメントのランダムな熱運動が減少することによって、磁気モーメントの平行の成分が増えていき、さらに互いに平行にさせる力を増すという相乗効果が働いている。したがって、キュリー温度以下で温度の低下による磁化は急激で、非線形に増加する。これが協同現象である。
[小野昱郎]