強磁性体の結晶で、原子(あるいはイオン)が励起されたとき、スピンの方向が首を振りながら波のように伝播(でんぱ)するという運動が考えられる。これをスピン波という。結晶中で電子の波動関数が磁性イオンによく局在しているときには、各磁性イオンの格子点に局在した磁気モーメントを考えることができる。局在した電子には、なおスピンの自由度が残されているので、磁性イオンは外界との相互作用においてスピン系として取り扱うことができる。一方スピン系内では、電子間のクーロン相互作用に起因する相互作用が働いている。それは交換相互作用とよばれ、i格子点のスピンをsi、j格子点のスピンをsjとすると、
と書ける。Jijは交換積分とよばれ、隣接する二つの磁性イオンiとjにそれぞれ局在している電子の間のクーロン相互作用のうち、それぞれの電子の波動関数の干渉によって引き起こされた部分を表している。
スピン波は強磁性体や反強磁性体のように秩序状態にあるスピン系において発生する。絶対零度では各スピンは整列していて動かないが、温度がすこし上がったとき、これらの物質のようにスピンの自由度をもつ場合には、熱的励起がスピン系にもおこる。すなわち、各スピンは整列方向からすこし傾いて、整列方向を中心軸とする円錐(えんすい)状に回転する。このとき、隣接するスピン間には交換相互作用Hexによる力が働いているのでスピン系は連成振動をおこす。これがスピン波である。スピン波はスピンの集団運動であり、スピン系の素励起である。このようすは格子振動に例えることができる。格子振動のエネルギー量子をフォノンとよぶのに対応して、スピン波のエネルギー量子はマグノンとよばれる。スピン波のふるまいは、おもに中性子散乱などの実験手段によって詳しく調べることができる。
[安岡弘志]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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