家庭医学館 「単純性甲状腺腫」の解説
たんじゅんせいこうじょうせんしゅ【単純性甲状腺腫 Simple Goiter】
炎症、腫瘍(しゅよう)、酵素(こうそ)の異常などの原因がないのに、甲状腺に腫(は)れ(甲状腺腫(こうじょうせんしゅ))ができ、しかも甲状腺の機能になんら変化がないものをいいます。
単純性甲状腺腫は、びまん性(全体が腫れる)で、やわらかいのが特徴です。10~30歳代の女性に多く(男性の4~9倍)みられます。
単純性甲状腺腫は、妊娠、授乳、月経などと歩調を合わせるように腫れが大きくなりますが、年齢が進むにつれて小さくなり、自然に消失してしまうことが多くみられます。
ある地方に集中して発生したものを地方性甲状腺腫(ちほうせいこうじょうせんしゅ)と呼び、いろいろな地方に発生したものを散発性甲状腺腫(さんぱつせいこうじょうせんしゅ)と呼んでいます。
また、学童期の子どもに発生したものを学童期甲状腺腫(がくどうきこうじょうせんしゅ)、思春期に発生したものを思春期甲状腺腫(ししゅんきこうじょうせんしゅ)と呼ぶこともあります。
[症状]
やわらかい甲状腺腫がみられるだけです。数年かかって徐々におこってきたものと考えられます。
単純性甲状腺腫は、比較的に小さいので、頸部(けいぶ)の圧迫症状や違和感がなく、気づかぬまますごし、学校や職場などの健康診断で偶然に発見されることがよくみられます。
[原因]
海藻のとり方が少ないなど、ヨードの摂取量が低いことが、原因の1つにあげられています。世界的にみても、ヨードの摂取が不足しやすい、海岸から遠く離れた大陸内部や、山岳地帯に多い病気といわれています(ヨード欠乏性地方性甲状腺腫(けつぼうせいちほうせいこうじょうせんしゅ))。
しかし、日本など、ヨード不足がおこるとは考えにくい国々にも発生するので、ヨードの過剰な摂取が原因でおこることもあるといわれています。
新陳代謝(しんちんたいしゃ)が活発になって、甲状腺ホルモンの需要が急に増えることが原因になるという説があります。その理由として、この病気は思春期前後の女性に多いのですが、思春期の女性は、とくに多量の甲状腺ホルモンを必要とするため、相対的にホルモンの量が不足するからだというものです。
また性ホルモン、とくにエストロゲン(卵胞(らんぽう)ホルモン、いわゆる女性ホルモン)が甲状腺腫の発生に関係しているという説、脳の下垂体(かすいたい)から分泌されている甲状腺刺激ホルモン(TSH)が関係しているという説もあります。
[検査と診断]
ほかの甲状腺の病気である可能性を消すために、いろいろな検査が行なわれますが、甲状腺腫がある以外、異常はありません。
[治療]
年に1~2回、定期的に検査をして経過を観察するだけで、治療の必要はありません。たいてい年月がたつうちに、単純性甲状腺腫は縮小して、自然に消えてしまいます。
もちろん、甲状腺腫をおこす原因がはっきりしていれば、治療が必要なことはいうまでもありません。