日本大百科全書(ニッポニカ) 「原子力災害拠点病院」の意味・わかりやすい解説
原子力災害拠点病院
げんしりょくさいがいきょてんびょういん
原子力災害と自然災害等との複合災害で生じる多数の被曝(ひばく)傷病者に対応する医療の中心となる拠点病院。原子力規制委員会が策定した原子力災害医療体制の一つ。2011年(平成23)3月の東北地方太平洋沖地震の際に発生した津波が原因で起きた東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力規制庁が2015年8月に改定した原子力災害対策指針のなかで定義した。従来の初期治療の「初期被ばく医療機関」、専門的な診療や除染を行う「二次被ばく医療機関」、高度の専門的な診療や除染を行う「三次被ばく医療機関」のうち、「二次被ばく医療機関」を充実、発展させたものである。原発から30キロメートル圏内の「原子力災害対策重点区域」内に道府県が1~3か所程度指定する。複数の医療機関グループを指定する場合もある。2015年から順次指定されている。原子力災害拠点病院は、1995年(平成7)1月に起きた阪神・淡路大震災の翌1996年に指定された自然災害に対応する「災害拠点病院」の原子力版である。救急医療・災害医療の知識や技術をもつ医師が常勤することを原則とし、そのうえに放射線量測定や除染技術をもつ人材・設備を備える病院である。さらに原子力災害の知識を有する医師などの「原子力災害医療派遣チーム」保有が義務づけられる。また、従来の「初期被ばく医療機関」にあたる「原子力災害医療協力機関」には、立地道府県内の医療機関のほか非医療機関(研究所、大学病院以外の大学、職能団体、民間企業等)も含まれる。協力機関は、汚染等傷病者の初期診療および救急診療、被災者に対する放射性物質による汚染の測定、救護所への医療チーム(または医療関係者)の派遣、立地道府県等が行う安定ヨウ素剤配布の支援のほか、原子力災害発生時に必要な支援等を行う。協力機関と拠点病院との協力体制は各地域の実情に応じた防災計画で規定していく。
[田辺 功 2016年6月20日]