反応拡散系(読み)はんのうかくさんけい(英語表記)reaction diffusion system

改訂新版 世界大百科事典 「反応拡散系」の意味・わかりやすい解説

反応拡散系 (はんのうかくさんけい)
reaction diffusion system

反応物質が空間的に分布している化学反応系では,各点における反応物質の量の変化速度はその点における物質の反応速度と隣接領域との濃度差による物質の移動速度とによって決められる。このように,そのふるまいが反応と拡散によって支配されている系は反応拡散系とよばれる。反応拡散系は生物学,化学,物理学工学などの広い分野にみられる種々の時間的・空間的パターン(模様)の形成の一つの基本的モデルと考えられている。

 空間パターン発生の一つの典型的な例は直線上に分布した2種類の成分UVからなる次の方程式で記述される仮想的な反応拡散系に見られるものである。

ここに,uvはそれぞれ反応物質UVの濃度で,時刻tと場所x関数であり,は各物質の拡散速度を表し,auu0)+bvv0),cuu0)+dvv0)は各成分の反応速度を表す。さらに反応速度の係数はつぎの条件をみたすものとする。

 0<a<-db<0<c

このとき,eおよびfが十分に小さくて拡散を無視できる場合には,a>0であるので成分Uは自己触媒的な物質であり自発的に増加するが,c>0の条件によってUの増加は同時に成分Vを増加させることになり,条件b<0のためにこのVの増加は逆にUの増加を抑制し,増減のつりあいのとれたuu0vv0という時間的・空間的に一定な値に落ち着く(これを安定な平衡状態という)。

 しかし,拡散がある場合には,この空間的に一様な平衡状態が不安定となることがある。そのような現象抑制物質Vの拡散係数fが大きい場合に現れる。すなわち,拡散によって抑制物質が隣接領域に速く移動してしまうために,外乱などによってある領域でUが増加するとそれが抑制されることがなく空間的に非一様な分布が成長することになる。さらにこの非一様性が種となって反応系を規定する境界条件や上の式には表されていない反応速度の非線形性などによって決まるパターンが形成される。この現象はすでに1930年代にオートマトンで有名なA.M.チューリングによって生物の形態形成のモデルとして提案されたもので,現在は〈対称性崩壊〉とよばれている。この種のパターン発生の実際例としてはベロウソフ=ジャボチンスキーBelousov-Zhabotinskii反応におけるパターン形成生態系に見られるすみわけ現象などがある。さらに,種々の能動媒体における進行波神経繊維における興奮伝播(でんぱ)なども反応拡散系の特徴的な現象の例である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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