収容所群島(読み)しゅうようじょぐんとう(その他表記)Arkhipelag GULag

改訂新版 世界大百科事典 「収容所群島」の意味・わかりやすい解説

収容所群島 (しゅうようじょぐんとう)
Arkhipelag GULag

ロシアの作家ソルジェニーツィンの著書。《1918-1956 文学的考察》の副題で1973-76年にパリのYMCAプレス社から全3巻として刊行され,1973年2月に著者ソ連から国外追放となる直接のきっかけとなった。原題の〈アルヒペラーグ〉は〈多島海〉の意で,〈グラーグ〉は〈矯正労働収容所管理本部〉の略号。1945年から53年までの著者自身の収容所体験,それにつづく流刑体験を軸に,ソ連の収容所体制歴史としくみ,その内情を語りながら,そこで生き,死んでいった人間像を浮かび上がらせる。(1)牢獄産業,(2)永久運動,(3)絶滅=労働収容所,(4)魂と有刺鉄線,(5)徒刑,(6)流刑,(7)スターリン死後,の7部から成り,日本人捕虜をも含めて何百万人もの人間を飲みこみ,その大半を死に追いやった恐るべき収容所体制の実態を明らかにする。(1)では,この体制がレーニン時代に起源をもつことが,(4)(7)では,それがソ連社会全般の精神状況にも病的に反映したことが説かれ,収容所体制は〈共産主義イデオロギー〉と不可分のものであると結論される。全編が人間無視のこの体制への怒り,その存在をうやむやにしようとする者たちへの憤り,この事実を〈民衆記憶〉から消し去るまいとする悲願に満たされ,それは主観的要素の濃い文体にも反映する。著者は58年から67年にかけて秘密裏に本書を書き上げ,ソ連の〈雪どけ〉逆行現象が明確になった時点で発表に踏み切ったと見られる。発表と同時に世界的な注目を集めたが,ソ連では長らく禁書だった。しかし89年7月当局は全面解禁を決定した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「収容所群島」の意味・わかりやすい解説

収容所群島
しゅうようじょぐんとう
Архипелаг Гулаг/Arhipelag Gulag

ロシアの作家ソルジェニツィンの記録的文学作品。「1917―56・文学的考察」の副題をもつ。1973~75年にパリで全3巻が刊行され、作者の国外追放の直接の契機となった。スターリン時代のソ連が数百万もの人間を収容所に隔離し、劣悪な条件下で強制労働に従事させ、その多くを死亡させたことは、現在では広く知られている。本書は、作者自身の体験、生き残りの証言、精力的な調査結果を駆使して、想像を越えるその地獄図絵をもっとも具体的、包括的に、しかも強烈な芸術的迫力をもって再現した歴史的文書である。ソ連の社会主義はすでにレーニン時代から収容所体制に支えられていたという立場から、著者は共産主義イデオロギーを完膚なきまで糾弾し、それがいかに人間をゆがめるかを論ずる。単なる反ソの書ではなく、現代における権力、思想、人間の恐るべき関係に文明史論的な思索を促す書といえる。

[江川 卓]

『木村浩訳『収容所群島』全6巻(1974~77・新潮社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「収容所群島」の意味・わかりやすい解説

収容所群島
しゅうようじょぐんとう
Arkhipelag Gulag

ソビエト連邦生まれの作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンの作品。副題「1918-1956 文学的考察」。3巻。1巻は 1973年12月フランスのパリで刊行,ソ連当局を徹底的に批判し,ソルジェニーツィンは 1974年2月国外追放となった。2巻と 3巻は 1974~75年に刊行された。ソルジェニーツィンのライフワークともいえるもので,ソ連の歴史の陰の部分を,主として強制収容所を中心に描いたドキュメントである。その徹底したソ連批判は,ソルジェニーツィン自身の体験に基づくものだけに,強い説得力をもつ。貴重な歴史的文献であると同時に,優れた文学作品となっている。(→記録文学

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世界大百科事典(旧版)内の収容所群島の言及

【ソルジェニーツィン】より

…73年3月にはロシア正教会のピーメン総主教あてに公開状を送り,無神論者に支配される正教会の体質を批判した。この年の暮,パリで《収容所群島》第1巻を公表,ソ連当局から激しい非難を浴びたが,結局,74年2月12日モスクワで逮捕され,13日に市民権を剝奪されて西ドイツへ国外追放された。《収容所群島》全3巻(1973‐75)は十月革命後60年におよぶ民衆弾圧の歴史を,文学のあらゆる可能性を駆使して描いた膨大なドキュメントであり,分量的にもトルストイの《戦争と平和》にまさる大作である。…

※「収容所群島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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