中国周代から宋(そう)代に至る古詩、古文の珠玉集。前後集各10巻。編者の黄堅(こうけん)の伝記は明らかでないが、宋末元(げん)初のころの編著であろう。1366年(元の至正26)の鄭本(ていほん)の序に、当時注釈もあり、久しく世に行われていたという。前集は勧学文、五言古風短篇(たんぺん)、同長篇、七言短篇、同長篇、長短句、歌(か)、行(こう)、吟、引、曲の11体217編の詩、後集は辞、賦(ふ)、説、解、序、記、箴(しん)、銘(めい)、文、頌(しょう)、伝、碑、弁(べん)、表、原、論、書の17体67編の文を収める。
明(みん)の弘治(こうち)本・朝鮮本、また『古文大全』と題する本など、内容編数の異なる諸本もあるが、日本では室町時代に元版の諸儒箋解本(しょじゅせんかいぼん)が翻刻され、五山の学僧青松・万里らの箋釈(せんしゃく)がある。そして江戸時代には榊原玄輔(さかきばらげんぽ)の『前集諺解(げんかい)大成』、林羅山(らざん)・鵜飼石斎(うかいせきさい)の『後集諺解大成』、鈴木益堂の校本も出て、四書や『唐詩選』『文章軌範』とともに、漢詩文の学習に必読書として広く行われ、日本文学中の漢文学の素養は、本書によるところが多い。
[星川清孝]
『星川清孝著『新釈漢文大系9・10 古文真宝前集 上下』『新釈漢文大系16 古文真宝後集』(1963、1967・明治書院)』
中国の詩文の選集。宋末・元初の黄堅の編と伝えられる。通行本は前,後集それぞれ10巻。前集には漢から宋までの古体詩を10体に分類し,後集は戦国から宋までの17体の文章を収める。後集には辞・賦などの韻文を含み,辞・賦・説・解・序・記・箴(しん)・銘・文・頌・伝・碑・弁・表・原・論・書に分けられる。古文を主としているが,李白の〈春夜桃李園に宴するの序〉のような駢文(べんぶん)をまじえる。中国におけるよりも主として日本で流行し,室町時代に伝来して五山の学僧に愛読されて以来江戸時代の初期まで,特に後集がもてはやされた。それ以降は《文章軌範》《唐宋八家文》と併用され,古文学習書における独占的地位にやや衰えが見られるが,林羅山・鵜飼石斎の《古文真宝後集諺解大成》をはじめ,多くの注釈書がある。中国詩文に対する常識を養った書物として重要である。江戸期には堅苦しい人を〈古文真宝〉と呼んだ。
執筆者:佐藤 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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