中国で,科挙受験者のため編集された模範文集。7巻。軌範とは手本・法則の意味。宋末の忠臣謝枋得(しやほうとく)の編。蜀漢の諸葛亮(しよかつりよう)の《出師表(すいしのひよう)》と晋の陶潜(淵明)の《帰去来兮辞(ききよらいのじ)》以外はすべて唐・宋人の文章から成り,韓愈31編,柳宗元5編,蘇軾(そしよく)12編,欧陽修5編,蘇洵4編などが多いほうである。全体を放胆文(1,2巻)と小心文(3巻以下)とに大別する。前者は字句や文法にこだわらずに思うがままに表現した作品を,後者は細心の注意をはらってすじめ正しく書かれたものを収めると称するが,もちろん一見そのように見えるだけで,作者は文章の構成と細部そしてリズムを十分に把握して最高の表現に到達しているのである。元・明以降流行したが,清代にはほとんど顧みられなかった。一方,日本へは室町時代の末に伝来し,江戸時代にはひろく普及した。頼山陽に《謝選拾遺》6巻の補選および《評本文章軌範》7巻がある。そのほか海保漁村の《補注文章軌範》など多くの注釈書が刊行された。
執筆者:佐藤 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国、宋(そう)代の散文選集。七巻。謝枋得(しゃぼうとく)編。唐宋の古文を中心に文章の模範となる作品69編を選んだもの。選ばれた作品は、15作家のうち唐の韓愈(かんゆ)が32編ともっとも多く、ついで宋の蘇軾(そしょく)の12編、唐の柳宗元(りゅうそうげん)と宋の欧陽修(おうようしゅう)の各五編がこれに次いでいる。この書は、努力しだいで高位高官になれる意の「侯王将相有種乎(こうおうしょうしょうしゅあらんや)」の七字を、七巻に一字ずつあてて、侯字集・王字集などと命名しているように、官吏任用試験(科挙)の受験参考書としてつくられたものである。したがって、第一巻から順次に勉強すれば、しだいに高級な文章技術を会得できるように組み立てられている。科挙のないわが国では、江戸時代に作文の教科書あるいは文章の傑作集として広く読まれた。
[横山伊勢雄]
『『漢文大系18 文章軌範・古詩賞析』(1976・冨山房)』▽『前野直彬著『新釈漢文大系17・18 文章軌範 上下』(1961、62・明治書院)』
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