塑性(読み)そせい(英語表記)plasticity

翻訳|plasticity

精選版 日本国語大辞典 「塑性」の意味・読み・例文・類語

そ‐せい【塑性】

〘名〙 物体に外力を加えて変形させ、その外力が除かれても物体に変形がそのまま残る特性をいう。可塑性

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デジタル大辞泉 「塑性」の意味・読み・例文・類語

そ‐せい【塑性】

可塑性かそせい

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改訂新版 世界大百科事典 「塑性」の意味・わかりやすい解説

塑性 (そせい)
plasticity

固体物質に外から力を加えると変形する。力が小さいときは,力を0に戻すと変形も元に戻る(このような変形を弾性変形という)が,力が大きくなると,力を0に戻しても変形は元に戻らないで永久的な変形が残る。後者の変形を塑性変形と呼び,固体のこのような性質を塑性と呼ぶ。力を0に戻しても永久的な変形が残るのは,力を大きく加えたときに,原子どうしのつながり方のつなぎ替えが起きて,新しい安定な原子配置に変わったことによる。

 われわれの身の回りにふつうに見られる金属のような結晶においては,変形のしかたは,次のような特徴をもっている。すなわち,外から加える力を0からだんだん増加すると,最初は力(厳密には応力)に比例した変形を示す。これは弾性変形で,力を0に戻すと変形も元に戻る。さらに力を大きくして弾性限界をこえると塑性領域に入る。一定速度で変形を起こさせるのに必要な力の大きさは,塑性変形領域に入ると最初急に低下する。これは降伏と呼ばれる。体心立方金属のような硬い金属や半導体結晶は,顕著な降伏を示す。降伏を起こすときの応力を降伏応力,あるいは降伏点というが,これは物質固有の量ではなく,熱処理条件など履歴に依存し,また試料の含む不純物にも関係する。不純物を含むとふつうは硬くなるので,これによる硬化は固溶体硬化と呼ばれている。また降伏は温度に依存し,降伏応力は一般に高温になるほど小さくなる。

 降伏点をこえてさらに変形を続けると,一定の速さで変形を増加させるのに必要な力は,再び大きくなる。すなわち変形を起こさせることによって物質が硬くなるわけで,この現象は加工硬化と呼ばれる。いくつかの段階の硬化過程を経て,最後には破壊が起きるが,このように所要の形に変形をさせた後,その形がそのまま残るのは実用上非常に重要な性質であり,この固体の塑性を利用した加工法を塑性加工という。なお,塑性に対し,外力を加えたとき永久変形をあまり生じないうちに破壊してしまうような性質は,脆性ぜいせい),またはもろさと呼ばれる。

微視的に見ると,塑性変形は決して一様には起きない。きちんと積み重ねたトランプのカードを結晶とすると,塑性変形はカードをずらせるような形に起きる。外形の変化は,カードのずれにより生じ,1枚1枚のカードは形が変わっていない。実際の結晶の場合,ずれが起きるのは,結晶形によって定まる特定の面に沿っており,ずれの方向も結晶形により定まっている。これらを,それぞれ,すべり面,すべり方向と呼んでいる。結晶の中の原子が並ぶ面を考えたとき,すべり面は原子が密に並ぶ面で,したがって面の間の間隔が大きな面になっている。面の中では原子は周期的に規則正しく並んでいるから,面どうしが一原子距離だけずれを起こすと,再び安定な原子配置をつくり,元に戻らない。これが永久変形を安定化する理由である。

 面のずれは,一つの面に沿っていっせいに起きるのではなく,転位と呼ばれる格子欠陥の動きに伴って,順繰りに起きる。転位は動きやすく,また,動きながら自己増殖をするので,塑性変形の過程で,結晶中の転位の数は急激に増加する。塑性変形のごく初期に降伏現象を示すのは,転位が動き出して数が増加するためである。すなわち,一定の速度で全体の変形を起こさせるとき,転位の数が多くなれば個々の転位は遅く動けばよいので,外から加える力は小さくてよい。これが降伏現象である。したがって,変形前の転位の数が少ないほど顕著な降伏現象を示す。変形がさらに進んで転位の数がずっと多くなると,転位どうしの相互作用の結果,転位は動きにくくなる。これが加工硬化である。また,固溶体硬化は転位と不純物原子との相互作用により,転位が動きにくくなることとして理解されている。
弾性 →転位
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百科事典マイペディア 「塑性」の意味・わかりやすい解説

塑性【そせい】

可塑性とも。適当な条件におかれた固体物質は,外力に対して破壊を起こさず連続的に形が変わり力をとり去ってもその変形が永久に保たれるが,このような性質を塑性という(また,このような変形を塑性変形という)。弾性に対する。一般に温度が高いと塑性は大きくなる。有機高分子化合物は特に塑性が大きいためプラスチック(塑性的)と呼ばれる。→塑性加工
→関連項目固体弾性限度展性

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塑性」の意味・わかりやすい解説

塑性
そせい
plasticity

可塑性ともいう。固体が弾性限度 (→比例限度 ) をこえた大きい力を受けて変形するとき,力を除いてもその変形がもとに戻らないで残ってしまう性質。この変形を塑性変形または永久変形という。特に,金属などを引伸ばして針金にするときの塑性を延性,たたき広げて箔にするときの塑性を展性という。塑性変形は力が弾性限度をこえれば生じるが,降伏点をこえればさらに著しい。塑性は温度によってかなりの影響を受ける。粘土のように降伏点の応力が小さいものは塑性変形しやすく,塑性体と呼ばれる。樹脂のような高分子物質も塑性体で,熱や圧力を加えて塑性変形させて成形することができる合成樹脂を一般にプラスチックと呼ぶ。

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岩石学辞典 「塑性」の解説

塑性

破壊することなしに永久変形する物質の性質.塑性的な固体が歪んだ状態からの回復は部分的である.このように形成された永久変形は永久歪(permanent set)ともいう.永久歪を起こすために必要な応力は弾性限界と呼ばれ,この限界を超えて歪んだ物体は流れを起こし,応力が減少して限界以下になるまで流れる.弾性限界がゼロの場合は,永久歪は加わる剪断応力に比例する速度となる[Milch : 1911, Adams & Bancroft : 1917, Jeffreys : 1916].ギリシャ語のplasseinは形作る意味.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「塑性」の意味・わかりやすい解説

塑性
そせい

可塑性

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栄養・生化学辞典 「塑性」の解説

塑性

 →可塑性

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世界大百科事典(旧版)内の塑性の言及

【レオロジー】より

…レオロジーということばとその定義は1929年にアメリカでこの分野の学会が創立された際,アメリカの化学者ビンガムEugene Cook Bingham(1878‐1945)が初めて与えたもので,流れを意味するギリシア語のrheosに由来している。物質に力を加えたときに起こる変形および流動を取り扱う科学の分科としては,他に弾性論,塑性学,流体力学などがあるが,レオロジーで取り扱う変形は,上記の各分科で取り扱う比較的単純な変形が組み合わされた形の,より複雑な変形が主体となっている。さらに,物質に加える力と時間,および変形との関係を明確に記述することだけでなく,そうした現象の起こる理由,すなわち物質の分子構造あるいは集合体としての構造と変形との関係を明らかにすることをも目的としている。…

※「塑性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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