吉澤美香(読み)よしざわみか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉澤美香」の意味・わかりやすい解説

吉澤美香
よしざわみか
(1959― )

画家。東京都生まれ。1984年(昭和59)多摩美術大学大学院美術研究科修了。1982年に開かれた「今日の作家展――NOVEMBER STEPS」(横浜市民ギャラリー)への出品で注目を浴び、同年の駒井画廊(東京・日本橋)での個展で、立場を明快に打ち出した。

 吉澤の初期の手法は、1960年前後のイギリスのポップ・アートにみられるリチャード・ハミルトンRichard Hamilton(1922―2011)のコラージュ技法や、都市生活の日常の風景を描くデビッド・ホックニーらの作風根源とし、1960年代以降続いてきたポップ・アートの流れと交差するものであった。吉澤の登場は、絵画の形式と向き合うという志向性や、物質と生活世界との関係を問い、そこに行為性を暗示させるインスタレーションが中心だった日本の当時の美術のなかで、具象的図像を復権する一つの役割を果たした。

 活動の最初期は、画廊の壁や箪笥(たんす)、自動車などに、手で描き、小さく切り抜いた紙を貼りつけるインスタレーションを制作。都会的に洗練された色彩筆致によって描かれた図画形象を空間全体に表す展示方法は、1980年代なかば以降変化する。1987年のドクメンタ8(ドイツカッセル)、同年の「世田谷の新世代」展(世田谷美術館、東京)を機に、壁面に絵画的に収められた平面作品を設置するという展示形態をとる。

 元来色彩感覚に優れ、画面縦横に色も形も駆使できる作家であるが、1980年代なかば以降はモノトーンによる作品制作を貫き、きわめて洗練度の高いこれらの表現は、同時代の「美」の行方を示した。回顧展に「吉澤美香の部屋1989―1997」(1997、いわき市立美術館)がある。

[高島直之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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