鈴木志郎康(読み)すずきしろうやす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鈴木志郎康」の意味・わかりやすい解説

鈴木志郎康
すずきしろうやす
(1935―2022)

詩人、映像作家、評論家。東京・亀戸(江東区)に生まれる。本名鈴木康之。東京大空襲(1945年3月10日)を体験、福島県の疎開先で終戦。1946年(昭和21)2月焼け跡の亀戸に戻る。1961年早稲田(わせだ)大学仏文科卒業。1961年から1977年までNHKのテレビ・カメラマンとして勤務。1960年代詩人の拠点であった詩誌『凶区(きょうく)』同人。高野民雄(1938― )と『青鰐(あおわに)』を創刊。1967年、NHK広島局勤務時に書いた詩集『罐製同棲(かんせいどうせい)又は陥穽(かんせい)への逃走』(H氏賞)により、プアプア詩人として一躍有名になる。「プアプア」という女性を戦略的モチーフにして戦後詩にみられた観念性の剥奪(はくだつ)を極限まで押し広げ、「極私的」なるキーワードを定着させた。言語イメージを過激なまでに切断・合体させる魚眼レンズ的視野と映像編集的な手法でもって、猥雑(わいざつ)で平凡な日常風景や身体性を異化・再構成した。註(ちゅう)付きの饒舌(じょうぜつ)な詩集としても当時斬新(ざんしん)であった。1970年代からは平明、明瞭(めいりょう)な詩風に推移していく。詩集は多く、おもなものとして『新生都市』(1963)、『やわらかい闇(やみ)の夢』(1974)、『見えない隣人』(1976)、『わたくしの幽霊』(1980)、『融点ノ探求』(1983)、『身立ち魂(たま)立ち』(1984)、『少女達の野』(1989)、『遠い人の声に振り向く』(1992)、『石の風』(1996)、『胡桃(くるみ)ポインタ』(2001。高見順賞)などがある。詩業のほかに、『Oh today 嘔吐泥(おうとでい)』(1971)、『闇包む闇の煮凝(にこご)り』(1975)、『身抜き、光る』(1985)などの小説集、さらにルポルタージュ『おじいさん・おばあさん』(1982)もある。評論活動も旺盛(おうせい)で、『純粋身体』(1972)、『極私的現代詩入門』(1975)、『穂先を渡る』(1980)、『映画の弁証――性と欲望のイメージ』(1982)、『メディアと〈私〉の弁証』(1984)、『映画素志――自主ドキュメンタリー映画私見』(1994)など優れた著作が多数ある。また一方で、伊藤比呂美(ひろみ)(1955― )、ねじめ正一(1948― )、川口晴美(1962― )など新人の発掘、後進育成にも力があった。1982年から1994年(平成6)まで早稲田大学文学部文芸科で講師。1966年ごろから「個人映画」を手がけ、映像作家としての評価も高い。代表作『風の積分』(1989。16ミリ)など公立美術館などでも企画上映されてきた。東京造形大学、イメージフォーラム付属映像研究所などの講師も長らく務め、1990年からは多摩美術大学美術学部教授。メディア意識の旺盛な詩人で、1996年には、いち早くホームページを開設してエッセイや詩を掲載した。

[高橋世織]

『『新生都市』(1963・新芸術社)』『『罐製同棲又は陥穽への逃走』(1967・季節社)』『『Oh today 嘔吐泥』(1971・青土社)』『『純粋身体』(1972・思潮社)』『『やわらかい闇の夢』(1974・青土社)』『『現代詩文庫22 鈴木志郎康詩集』『現代詩文庫121 続・鈴木志郎康詩集』(1969、1994・思潮社)』『『闇包む闇の煮凝り』(1975・大和書房)』『『極私的現代詩入門』(1975・思潮社)』『『見えない隣人』(1976・思潮社)』『『家の中の殺意』(1979・思潮社)』『『わたくしの幽霊』(1980・書肆山田)』『『穂先を渡る』(1980・思潮社)』『『新選現代詩文庫117 新選鈴木志郎康詩集』(1980・思潮社)』『『おじいさん・おばあさん』(1982・筑摩書房)』『『映画の弁証――性と欲望のイメージ』(1982・フイルムアート社)』『『融点ノ探求』(1983・書肆山田)』『『二つの旅』(1983・国文社)』『『身立ち魂立ち』(1984・書肆山田)』『『いま、詩を書くということ』(1984・思潮社)』『『メディアと〈私〉の弁証』(1984・三省堂)』『『身抜き、光る』(1985・書肆山田)』『『少女達の野』(1989・思潮社)』『『遠い人の声に振り向く』(1992・書肆山田)』『『映画素志――自主ドキュメンタリー映画私見』(1994・現代書館)』『『石の風』(1996・書肆山田)』『『胡桃ポインタ』(2001・書肆山田)』『佐久間隆史著『詩学序説――詩の崩壊と再建』(1998・花神社)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「鈴木志郎康」の解説

鈴木志郎康 すずき-しろうやす

1935- 昭和後期-平成時代の詩人。
昭和10年5月19日生まれ。NHKカメラマンをへて,平成2年多摩美大教授。「凶区」同人となり,猥雑な言語,ナンセンス言葉を多用した作品で注目された。昭和43年詩集「缶製同棲又は陥穽への逃走」でH氏賞。平成14年「胡桃ポインタ」で高見順賞。20年「声の生地」で萩原朔太郎賞。東京出身。早大卒。本名は康之。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

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