胎児の頭部に吸引カップを陰圧をもって吸着させ,これを牽引して胎児をはやく娩出させる方法。最初に実用化したのはフランスの医師クージグーY.Couzigouで,パリ医学会に1947年に発表した。これは吸角を4本のひもで牽引する装置であるが,次いで53年にスウェーデンのマルムストレームT.Malmströmによって,吸引カップの中央に装着してある吸引管の中に鎖を通す方法が考案され,吸引と牽引とが同時に行えるようになって,今日の隆盛を招く基礎となった。吸引カップは金属性椀状で,直径が40~60mm程度のもので,吸引ポンプにより400~600mmHgの陰圧をかけて児頭に吸着させ,牽引する。その結果,0.5~0.8kg/cm2の牽引力を発揮できる。
本法の開発普及により鉗子の使用頻度は大幅に減少し,一部にはほとんど鉗子を使用しなくなった施設もあるくらいである。しかし,鉗子より危険が少ないとはいえ,児頭の急速遂娩(娩出させること)には変りなく,頭皮にも傷害を生ずることや牽引力が鉗子に劣ること,また児頭の回転に不向きなことなどから,これの使用に批判的な学者もある。しかしながら,使い方を誤らなければきわめて安全かつ便利な方法であり,とくに無痛分娩のように多少とも陣痛が弱まる場合には不可欠な分娩促進法であるといえよう。最近では,その傷害を防止するため,吸引カップを金属でなく合成樹脂製にした小林隆の改良型など工夫が払われている。
→出産
執筆者:岩崎 寛和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胎児の先進部(児頭)に金属製のカップを装着し、これに連結したゴム管を通じて50~60センチメートル水銀柱の陰圧にして吸着させ、それを牽引(けんいん)して娩出の促進を図ることをいう。1954年にスウェーデンで開発され、日本でも広く用いられるようになった。カップの大きさは直径49ミリメートルの大、44ミリメートルの中、33ミリメートルの小の3種類があり、腟(ちつ)の広さや子宮口の大きさによって使い分ける。鉗子(かんし)分娩も同様に娩出の促進を図る手技であるが、日本では吸引分娩が多用され、欧米では鉗子分娩が広く行われている。どちらの場合でも上手に用いると母体にも胎児にも障害はない。両者とも同じ条件で行われるが、牽引力は鉗子分娩のほうが強い。児頭のもっとも下降している部分がむくんでできる産瘤(さんりゅう)が大きいと、吸引カップが滑脱して娩出できないことがあり、そのような場合は鉗子分娩が必要になる。
[新井正夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
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