鉗子分娩(読み)カンシブンベン(その他表記)forceps delivery

デジタル大辞泉 「鉗子分娩」の意味・読み・例文・類語

かんし‐ぶんべん【×鉗子分×娩】

産科鉗子胎児の頭を挟み、引っ張って分娩させること。胎児や母体に危険がおよぶと考えられる場合に行う。

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精選版 日本国語大辞典 「鉗子分娩」の意味・読み・例文・類語

かんし‐ぶんべん【鉗子分娩】

  1. 〘 名詞 〙 母体や胎児の生命に危険があって正常分娩できないとき、産科鉗子を使って産道内の児頭をはさみ固定して胎児を引っぱり出し、分娩させること。

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改訂新版 世界大百科事典 「鉗子分娩」の意味・わかりやすい解説

鉗子分娩 (かんしぶんべん)
forceps delivery

鉗子という篦(へら)状の器械で胎児の頭部を挟み,牽引して胎児を速やかに娩出させる人工分娩法。鉗子分娩が行われるのは通常,分娩の進行が停止し,胎児が弱ってきて(胎児仮死),速く産ませないと危険な場合である。そのような危険は,主として産道の出口部が狭い場合,児頭の回旋異常とくに低在横定位,分娩遷延によって起こる。かつては開腹による帝王切開術が母親にとって危険であったために,鉗子分娩が盛んに行われたが,今日では帝王切開がきわめて安全に行えるようになったので,鉗子分娩を行う頻度は多い施設でも5%程度にすぎない。しかし,胎児が娩出直前になって,急に弱ってきて胎児心拍数が持続的に減少するようになった場合は,もはや帝王切開は間に合わないので,鉗子分娩に頼らざるをえない。従来,鉗子分娩は強力な手技なので,鉗子のために骨折頭蓋内出血を起こすと恐れられてきたが,実際は胎児仮死すなわち胎児の酸素が不足した状態が長く続くほうがはるかに危険なことがわかってきたので,今日ではこのような危険な状態の場合には躊躇せず鉗子をかけるようになった。しかし,鉗子はいつでもかけられるわけではなく,子宮口全開しており,児頭が骨盤底に達して,鉗子を直ちにかけることができ,またかければすぐ娩出させられる位置(鉗子適位)にあることが必要条件である。それ以外の場合はすべて帝王切開を行う。なお骨盤位分娩の際に後から産まれてくる児頭が簡単に出ない場合にも鉗子を用いることがある(後続児頭鉗子)。

産科で使われる鉗子の種類はたくさんあるが,今日日本で一般に用いられている産科鉗子はネーゲレ,キーラン,パイパーの3種類である。それぞれ特徴があり,用途によって使い分けられる。たとえば,ネーゲレ鉗子は牽引に,キーラン鉗子は児頭の回旋に主として利用される。

 産科鉗子は16世紀後半から17世紀初頭にかけてイギリスのチェンバレンChamberlen家一族の親子数代にわたって創意工夫がなされたが,創始者はそのうちのピーターPeterとされている。チェンバレン家では,この難産に対する鉗子の応用を門外不出の家伝として秘匿しつづけたため,この正体が明らかになったのは18世紀初頭であった。そのころまったく別個にベルギーのパルファンJohn Palfyn(1650-1723)が産科鉗子を案出(1720)し,賛否の議論が起こると同時に関心が高まり,以後多くの鉗子が案出されて今日に至っている。
出産
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉗子分娩」の意味・わかりやすい解説

鉗子分娩
かんしぶんべん

2葉の金属製へらからなる鉗子によって児頭を挟んで牽引(けんいん)し、娩出力を増強させて胎児の娩出を図ることをいう。自然娩出を待っていると母体あるいは胎児に障害が増すと考えられる場合に、急いで娩出させる方法の一つである。鉗子分娩を行う母体側の因子としては、母体に心疾患や肺疾患などがあって長時間いきむことが害になるときや、うまくいきめないときなどがあり、胎児側の因子としては、臍帯(さいたい)が先に出てくる臍帯脱出、娩出前に胎盤の一部が剥離(はくり)する常位胎盤早期剥離、あるいは胎児心拍数に異常をきたして胎児が苦しがっている胎児仮死のときなどがある。このほか、陣痛が十分強くない陣痛微弱、児頭が下降しながら行われるべき回旋がうまくいかない回旋異常、あるいは産道の広さが児頭の大きさに比べて十分広くない児頭骨盤不均衡が軽度にある場合などがあげられ、分娩の進行が遅い難産のときにも用いられる。

 鉗子分娩を行うためには条件がそろっている必要があり、児頭の最大部分が骨盤入口部より下降していて、骨盤の広さが十分であり、子宮頸管(けいかん)が全開大(10センチメートル開大)していて、卵膜が破れて破水していなければならない。この条件が整っていない場合は、帝王切開が行われる。

 なお、骨盤位(さかご)分娩には、最後に娩出される児頭に後続児頭鉗子が用いられる。

[新井正夫]

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百科事典マイペディア 「鉗子分娩」の意味・わかりやすい解説

鉗子分娩【かんしぶんべん】

産科鉗子を用いて胎児の頭をはさんで引き出し,急速に分娩させること。母体の陣痛微弱,胎児の骨盤内回転異常などで,分娩の進行が悪いとき,母体に心臓その他の病気があって,早く分娩を終了させたいとき,胎児が子宮内で仮死の徴候があるときその他,母体または胎児が危険な場合などに行う。鉗子分娩を安全に行うには,児頭が骨盤入口を通過していること,骨盤や産道があまり狭くないこと,子宮口が全開またはそれに近くかつ破水後であることなどの条件が必要。→出産
→関連項目賀川玄悦

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鉗子分娩」の意味・わかりやすい解説

鉗子分娩
かんしぶんべん
forceps delivery

出産の途中で胎児が仮死状態などの異常を来したり,微弱陣痛の場合に行なわれる分娩法。鉗子で胎児の頭を両側から挟み,ゆっくり引っ張り出す方法で,以前,新生児の頭蓋内出血や知能障害などを起こして問題になったこともあり,慎重に行なわれている。

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妊娠・子育て用語辞典 「鉗子分娩」の解説

かんしぶんべん【鉗子分娩】

産科鉗子という金属製の器具を胎児の頭にかけ、引き出す分娩方法です。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

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