無痛
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麻酔などの方法を用いて産婦に産痛を感じさせないで分娩させることをいう。産痛とは、子宮の発作的収縮および腹圧に伴う分娩時の痛みを総称したもので、近年はあまり用いられないが和痛分娩ともよばれるように、産痛をすこしでも和らげようとするのが無痛分娩のねらいであり、無痛ということにはそれほどこだわらないのが実態である。
無痛分娩は、薬物による方法と薬物によらない方法に大別される。
[新井正夫]
産科麻酔ともよばれるもので、鎮痛法と麻酔法が併用される。まず長時間持続する分娩第一期(開口期)の痛みを除くために鎮痛、鎮静、催眠といった作用をもつ薬を内服または皮下注射して、痛みを感ずる脳を抑制させる。これを前投薬という。このとき薬の量が多すぎると胎児にまで影響を与えて生後新生児仮死をおこすことがあり、また投与が早すぎても分娩を異常に長引かせることになる。
続いて、痛みがもっとも激しくなる分娩第二期(娩出期)には吸入麻酔と局所麻酔が行われる。吸入麻酔にはおもに笑気(一酸化二窒素)が用いられ、陣痛発作のたびに二呼吸か三呼吸笑気ガスを深く吸い込み、そのまま強く息むように指導する。局所麻酔としては、分娩第一期に行う傍頸管(けいかん)麻酔と、分娩第二期に行う陰部神経ブロックやサドルブロック(自転車のサドルが当たる部位を麻痺(まひ)させる)のほか、分娩第一期と第二期を通じて行う持続硬膜外麻酔などがあり、いずれも産婦の意識を失わせず産痛を感じさせない方法である。しかし、痛みの感じ方には個人差が大きく、麻酔薬の量を人によって加減する必要があり、薬物によらない無痛分娩法の併用も望まれる。なお、無痛分娩は保険適用外で費用の負担が発生するので、産婦の希望によって行われることが多い。
[新井正夫]
妊娠中に産前教育をして分娩に対する身体的および精神的準備をしておく方法が広く行われている。これには、イギリスの産婦人科医リードG. D. Readが1933年に提唱した自然分娩法をはじめ、旧ソ連で50年ころから始められた精神予防性無痛分娩、さらにこれを発展させたラマーズ法などがある。自然分娩法は「不安なき分娩法」ともいわれるように、産痛に対する恐怖から心身を緊張させ、それによって産痛がひどくなり、ますます恐怖が強まるといった悪循環を断つ目的で妊娠中に分娩準備教育を行い、恐怖心を除くとともに、呼吸法や弛緩(しかん)法を指導することによって安全で産痛の少ない自然分娩を期待するもので、いわゆる妊産婦体操はこの方法の一つとして理学療法士により体系化されたものである。
一方、精神予防性無痛分娩は、パブロフの条件反射理論を応用して精神神経科医と産科医との協力で始められたもので、やはり産前教育を行い、痛みの条件反射および恐怖や不安による痛覚閾(いき)の低下を防ぎ、分娩時には痛覚の刺激を抑制するような補助動作ができるように指導して産痛の軽減を図る方法である。また、旧ソ連でこれを習得して帰国したフランスの産婦人科医ラマーズF. Lamaze(1890―1957)が1952年から実施したのがラマーズ法で、呼吸法や弛緩法のほか、姿勢の訓練、腰や足の運動などを精神予防性無痛分娩に加味し、夫を参加させたり、自然分娩法における腹式呼吸を胸式呼吸にかえるなどのくふうもみられる。実際にはいくつかの方法を組み合わせて行う場合が多い。
なお、これらとは別に、中国で発達した鍼(はり)麻酔による無痛分娩もある。
[新井正夫]
分娩(出産)は本来生理的な現象ではあるものの,子宮の収縮や胎児の産道通過に伴う子宮口や腟の拡大によって痛みを伴う。これを産痛というが,この痛みをなくして分娩を遂げさせることを無痛分娩といい,そのうちで完全に無痛とはいえないが,痛みを和らげる場合を和痛分娩という。その方法には大別して次の三つがある。
鎮静剤,鎮痛剤,鎮痙剤を与える方法で,分娩の初期には内服薬の服用や注射による場合が多く,ときにはモルヒネなどの麻薬を用いる場合もある。分娩の後半になると,胎児に薬物が移行して,眠ったまま生まれたり,呼吸障害をおこす危険が大きいので,胎児に移行しにくいか覚めやすい吸入麻酔剤が多く用いられる。
産婦の意識を失わせることなく,子宮収縮や産道の痛みをとる方法で,腰椎麻酔,硬膜外麻酔,陰部神経麻酔,傍子宮頸部麻酔などがある。最近では,長時間持続でき,調節性のある腰部硬膜外麻酔が好んで用いられている。陰部神経麻酔は胎児娩出時の疼痛をとる方法で,簡単で効果もよいので,少なくもこの麻酔法くらいは必須の方法といえる。これらの方法は薬剤が胎児に移行する危険はほとんどないが,ときに陣痛を弱めてしまう恐れがある。
1933年イギリスのリードG.D.Readが提唱した方法で,正常分娩の経過を産婦によく理解させ,お産は生理現象なので本来痛いものではないと教育する一方,妊娠中から分娩時の呼吸法や緊張をとる方法を練習させて分娩を行わせる方法である。これの変法として最近ではフランスのラマーズF.Lamazeが考案したラマーズ法が有名である。
以上の方法のうち全身麻酔法は薬剤が胎児に移行する危険が大きいので,最近では分娩の前半期に限って使用し,後半期には硬膜外麻酔などの局所麻酔剤を使用するのが一般的な方法であるが,反面,薬物使用に伴う副作用を恐れ,かつまた母親となった意識(母性)を自覚させるためにも,精神予防性無痛分娩法を好む風潮が医師にも産婦側にも広がる傾向にある。
→出産
執筆者:岩崎 寛和
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(石川れい子 ライター/2017年)
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