啓蒙政治思想(読み)けいもうせいじしそう(その他表記)enlightenment; Aufklärung; lumiéres

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「啓蒙政治思想」の意味・わかりやすい解説

啓蒙政治思想
けいもうせいじしそう
enlightenment; Aufklärung; lumiéres

17世紀後半から 18世紀末までの間ヨーロッパを支配した政治思想。イギリスでは J.ロック,H.ボリングブルック,D.ヒューム,フランスではボルテール百科全書派,ドイツでは C.ボルフ,J.ヘルダー,G.レッシングなどが一般に啓蒙思想家として知られているが,彼らはまた啓蒙政治思想家でもあった。理性や自然という用語を好んで使い,理性は万能であって,これを働かせるなら真理をとらえることができ,自力で自己救済をはかることも可能であると考えた。この点において啓蒙思想は主知主義であり,合理主義でもある。一方自然とは自然科学上の自然であり,また非人工的という意味の自然であり,理想ないし価値という意味にも用いられた。啓蒙運動の有力な武器は,理性と,この多義的な自然である。したがって,啓蒙政治思想家たちの第1の攻撃目標は教会であった。教会は迷信偏見温床であり,また人間を未成年状態に閉じこめている元凶であると考えられた。このため啓蒙思想家は宗教上の寛容を説くと同時に宗教の合理化をはかろうとした。こうして理神論の流行が始り,その結果神は抽象的観念へ転落し,ついには無神論へと到達した。次いで,既存の政治,社会制度が人間の成長をはばむものとして攻撃された。彼らは現存国家に対し自然状態を,特権に対し自然権を,実定法に対し自然法それぞれ対立させた。また彼らは古い社会構造を突きくずすため原子論的社会観を唱導した。このように啓蒙政治思想家が既存の制度や社会を批判し攻撃したのは,進歩という観念に対してゆるぎない信仰をいだいていたからである。

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