感性・情意に認識の起源を求めず,知性ないし精神の思考にこれを求める哲学上の立場。この場合〈知性intellectus〉は感性に対立し,分析・分別する悟性,統括・直覚する理性を含む。合理主義よりも若干狭い意味で用いられ,情意とくに〈意志voluntas〉を起源とする主意主義に対立する。言葉としては19世紀初頭の成立。シェリングは対話編《ブルーノ》(1802)で唯物論に主知主義,実在論に観念論を対置した。主意主義は1883年テンニースによる造語で,パウルゼン,ブントがこれを広め,後者は主知主義の立場と論争した。主知主義,主意主義の対立が合理主義,非合理主義の対立よりも範囲が狭く,人間の知性と意志との優先をめぐるのは,こうした事情による。哲学史上,主知主義の系列はソクラテス,プラトン,アリストテレス,トマス・アクイナス,デカルト,ライプニッツ,ヘーゲル,ヘルバルトなど。主意主義はストア学派,アウグスティヌス,ドゥンス・スコトゥス,カント,フィヒテ,シェリング,ショーペンハウアー,ニーチェ,ブントなど。中世ではとりわけドミニコ会が主知主義,フランシスコ会が主意主義の傾向がある。日本の哲学者では桑木厳翼が主知主義,西田幾多郎が主意主義に当たると言いうる。今日の問題としては,人類の欲求,意欲,意志が知性をも操縦しているように見えるが,衝動や欲求を制御しうる知性を人類が入手できるか否か,知性は無力であってただ衝動や欲求を一時的に阻止したり阻止を解除したりするだけに留まるのかが議論の的となる。晩年のM.シェーラーが,精神と衝動との相互浸透として人類の歴史を構想したことを回想する必要があろう。
→主意主義
執筆者:茅野 良男
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人間の心は知・情・意からなるなどといわれるが、このうち知の面を、つまり知性とか理性とか悟性とかよばれる知の機能を、ほかの感情や意志の機能よりも上位に据える見方が一般に主知主義とよばれ、感情を上位に置く主情主義(情緒主義)や、意志を上位に置く主意主義に対するものとして用いられる。とくに中世のスコラ哲学では知性と意志の関係が問題になり、知性の優位を説いたトマス・アクィナスが代表的な主知主義者であるが、この傾向はさかのぼってはアリストテレスに代表されるギリシア哲学に、下ってはスピノザやヘーゲルの汎(はん)論理主義にみいだすことができる。
また、認識が感官によってではなく知性によって生ずるとする合理論も、広義での主知主義に属する。倫理学では、感情を退け、冷静な知的洞察と熟慮に基づいて意志を規定すべきだとするのが主知主義的な立場で、これはなまのままの感情や意志の動きを重視する非合理主義に対立する。
[宇都宮芳明]
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