人為によって生成存立し時間的・場所的に制約された可変的内容をもつ法をさし,人間の本性とか事物の本性などに基づいて自然的に存立し普遍妥当性と不変性をもつとされる自然法の対立概念として用いられる。実定法という語は,中世の神学者や法学者によって,自然的な法jus naturaleに対して,権威的意思に基づく法jus positivumとして使われはじめ,その後,とくにヘーゲルやJ.オースティンらによる詳細な概念規定を経て,実証的positifということを現実に存在し経験的事実によって確認できるものと規定するコントの実証哲学の影響とも相まって,ほぼ現代におけるような意味で一般的に用いられるようになった。歴史的には,実定法の実定性(実証性)の理解のしかたに応じて,実定法の範囲も変化してきており,広義には,権威的意思による創設という契機だけに着眼して,神の法・掟(おきて)も実定法に含ませる見解もあった。狭義には,国家的ないし人間的意思による制定という契機を重視して,人定法と同意義に解され,制定法や判例法などに限定されることもあった。最も一般的な現代的用法は,現実に社会で行われている現行法と同意義に解し,制定法・判例法だけでなく,慣習法や条理などをも含ませるものである。
実定法の核心的意味は,人々を義務づける規範的効力(妥当性)をもつことである。この規範的効力の問題は,法が事実上一般私人によって遵守されたり裁判所その他の公的機関によって適用されたりしているという,法の実効性とは次元を異にする問題である。一定の法体系内の法の規範的効力の有無は,だいたいにおいて実効的な法体系の存在を前提として,法の制定・改廃に関する規準,手続を規定した基礎的な組織(構成)規範に合致しているかによって識別される。法実証主義が,このような基礎的規範に合致した法の妥当根拠をそれ以上さかのぼって問うことを形而上学的・イデオロギー的として拒否するのに対して,自然法論は,伝統的に,実定法の究極的妥当根拠を高次の法たる自然法に求め,自然法に反する実定法の規範的効力を否認してきた。
→法
執筆者:田中 成明
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…全体社会の下位集団たるもろもろの社会集団(家族,村落,職場,実業界等々)の各々の内部で,それぞれの歴史と実情に即した内容を持ち,独自の非組織的制裁に支えられている。徐々に自生的に生成,発展,衰退,消滅する慣習や習俗規範のみでなく,関係当事者間の個別的な合意や普遍妥当的な実定法規なども,上記のメカニズムによって支持されて,人々の日常的な行動を規定しているときは,生ける法といえる。このように,生ける法とは,社会の一般成員の日常の行動を現実に有効に規定する〈行為規則〉となっている行動型であり,規範的要素のみでなく事実的要素もその要件である。…
…19世紀のイギリスにおいて,J.ベンサムの理論を受け継いだJ.オースティンによって提唱された法学理論。オースティンによれば,法学の対象である実定法は,それぞれの社会において,独自の体系をなして存在しているが,それぞれの特殊性にもかかわらず,とくに文化の進んだ社会相互間ではそれぞれの法体系に共通する諸原理,諸概念,諸区分が存する。分析法学(オースティン自らは一般法学general jurisprudenceと呼んでいる)は,成熟した法体系に共通する諸原理,諸概念,諸区分を客観的に分析する学問として創設されたものである。…
※「実定法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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