最新 心理学事典 「因果性の知覚」の解説
いんがせいのちかく
因果性の知覚
perception of causality
レズリーらの実験では,一つの対象がもう一つの対象に衝突し,衝突後に動き出すまでの間に遅延を入れた映像と入れない映像を用意した。ミショットの研究から,成人がこれらの映像を見たところ,一つ目の対象が二つ目の対象にぶつかって二つ目の対象が動き出すまでの間にわずかな遅延があると,因果性,すなわち一つ目の対象が二つ目の対象を押したと知覚する印象が,劇的に崩壊することが知られている。こうした効果が生後6ヵ月の乳児にも存在するかを調べるため,それぞれの条件の映像を何度も提示し馴れさせた後に,テストではそれぞれの映像を逆回しにして提示し,注視時間の変化を検討した。時空間的な観点からいえば,テストで逆回しにする効果は,遅延があってもなくても同じはずである。逆の方向で逆さの時間の動きが再生されるだけで,遅延ありなしの両条件ともに,ほぼ同じ違いの映像となるはずだからである。しかしながら,遅延なしの映像に因果性が知覚されたのなら,単に事象生起の順序が逆になる事態ではなくなる。因果性が知覚され,衝突するものとされるものが知覚される場合,逆向きの映像では,衝突するものとされるものの間で役割の交代が生じることとなる。もちろん,因果性のない事象ではこのような役割の交代は生じない。すなわち,因果性の感じられる遅延なし条件ではこうした役割の交代が生じるのに対し,因果性の感じられない遅延ありでは,こうした役割の交代は生じないと考えられる。実際の乳児の注視行動を観察したところ,遅延あり条件では注視時間の変化はなく,遅延なし条件で注視時間の有意な上昇が見られた。因果性が知覚できる映像では注視が上昇したことから,乳児は対象間の因果性に気づいたため,因果性が逆になる,すなわち対象の間で役割が交代することに気づき,興味と驚きをもって注視したと解釈されるのである。こうした因果性の検出レベルの発達は生後2ヵ月から発現し,生後10ヵ月までには完全に発達すると考えられている。
〔山口 真美〕
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