因果性の知覚(読み)いんがせいのちかく(英語表記)perception of causality

最新 心理学事典の解説

いんがせいのちかく
因果性の知覚
perception of causality

物理的事象の継続において因果性の印象が直接知覚されること。ヒトの心的メカニズムの本質をなす因果性の観念は必ずしも推理の結果によるものとはいえないことから,因果性の知覚とよばれる。因果性の原理は,イギリスの哲学者ヒューム,D.により,二つの事象間の時空的接近性によって解説されている。この因果性の知覚を実験的に解明したのが,ベルギーの心理学者ミショットMichotte,A.E.(1946,1963)である。左右に動く二つの対象の,移動速度と二つの対象が衝突後に動きだす遅延の期間を細かく変えると,小さな動きの変化にもかかわらず,それらを見たときのヒトの主観的知覚は大きく変わることが発見された。被験者による内観報告では,それぞれの対象の動機や情動や互いの関係までもが言及され,このことから,物理的事象を因果関係の観点から解釈するというヒトの傾向を示すことができたのである。レズリーLeslie,A.M.はヒュームとミショットの因果性の知覚を乳児を対象とした実験に適応し,因果性の知覚の生得性を検討している。その際に使用された実験手法が,期待相反法violation of expectation paradigmとよばれるものである。旧来の認知発達研究,たとえばピアジェPiaget,J.の実験では,乳幼児が事物の永続性を認知しているか否かを確認する際に,隠された対象への探索行動が指標とされた。この指標を使用した実験の問題点は,たとえ認知能力がすでに獲得されていたとしても,運動発達が未熟な乳児ではその能力を確認しきれないことにある。それに対して期待相反法では,対象に対する視覚的注意を指標とするため,運動発達の未熟な乳児でも認知能力を確認することができる。期待相反法を用いた実験では,ありえない不可能な事象に乳児が興味をもって注目することを前提とし,すなわち可能な事象と比べて不可能な事象で注視時間が上昇するか否かで,その事象の可能・不可能を乳児が認識できたと結論づけるのである。

 レズリーらの実験では,一つの対象がもう一つの対象に衝突し,衝突後に動き出すまでの間に遅延を入れた映像と入れない映像を用意した。ミショットの研究から,成人がこれらの映像を見たところ,一つ目の対象が二つ目の対象にぶつかって二つ目の対象が動き出すまでの間にわずかな遅延があると,因果性,すなわち一つ目の対象が二つ目の対象を押したと知覚する印象が,劇的に崩壊することが知られている。こうした効果が生後6ヵ月の乳児にも存在するかを調べるため,それぞれの条件の映像を何度も提示し馴れさせた後に,テストではそれぞれの映像を逆回しにして提示し,注視時間の変化を検討した。時空間的な観点からいえば,テストで逆回しにする効果は,遅延があってもなくても同じはずである。逆の方向で逆さの時間の動きが再生されるだけで,遅延ありなしの両条件ともに,ほぼ同じ違いの映像となるはずだからである。しかしながら,遅延なしの映像に因果性が知覚されたのなら,単に事象生起の順序が逆になる事態ではなくなる。因果性が知覚され,衝突するものとされるものが知覚される場合,逆向きの映像では,衝突するものとされるものの間で役割の交代が生じることとなる。もちろん,因果性のない事象ではこのような役割の交代は生じない。すなわち,因果性の感じられる遅延なし条件ではこうした役割の交代が生じるのに対し,因果性の感じられない遅延ありでは,こうした役割の交代は生じないと考えられる。実際の乳児の注視行動を観察したところ,遅延あり条件では注視時間の変化はなく,遅延なし条件で注視時間の有意な上昇が見られた。因果性が知覚できる映像では注視が上昇したことから,乳児は対象間の因果性に気づいたため,因果性が逆になる,すなわち対象の間で役割が交代することに気づき,興味と驚きをもって注視したと解釈されるのである。こうした因果性の検出レベルの発達は生後2ヵ月から発現し,生後10ヵ月までには完全に発達すると考えられている。
〔山口 真美〕

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