国連環境と開発に関する世界委員会(読み)こくれんかんきょうとかいはつにかんするせかいいいんかい(その他表記)United Nations World Commission on Environment and Development

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

国連環境と開発に関する世界委員会
こくれんかんきょうとかいはつにかんするせかいいいんかい
United Nations World Commission on Environment and Development

国連環境特別委員会あるいはブルントラント委員会ともいう。 1984年,国連総会決議に基づいて設立された世界委員会。この委員会は,2000年以降の「持続可能な開発」を達成するための戦略を策定するという責任を負っていた。 21ヵ国の著名な学識経験者や政治家などで構成され,委員長はノルウェー首相 G.ブルントラント,日本からは元外相の大来佐武郎が参加した。
2年半にわたり世界各国で9回の会合公聴会を開いて討議を重ね,87年に未来への脅威として地球環境の現状をまとめた最終報告書『われら共有の未来』 Our Common Futureがロンドンで発表された。この報告書はブルントラント・レポートとも呼ばれ,二酸化炭素などによる地球温暖化,フロンガスによるオゾン層破壊酸性雨,砂漠化,有害廃棄物,森林破壊などが地球規模で発生していることを指摘している。そして環境保全開発を対立するものではなく,両者を調和させ,将来の世代の経済発展の基盤をそこなわないような開発を目指す必要性が強調された。これを契機に,1970年代はじめから一部の開発専門家が説いていた「持続可能な開発」という概念が,開発の基本的な考え方として国際的にも認められるようになった。
報告書では,(1) 経済成長の復活,(2) 経済成長の質の変更,(3) 仕事・食物・エネルギー・水・衛生設備などの基本的ニーズ充足,(4) 人口の伸びを持続可能なレベルに確保すること,(5) 基本的資源の保全と拡充をはかること,(6) 技術を方向づけ,危険に対処すること,(7) 意思決定において環境と経済を融合させること,という7つの目標が設定された。農業に関しては,開発途上国における自給を高める開発を支持し,農地改革,農薬・化学肥料に依存した農業から持続可能な農業への転換,輸出作物から地元消費の作物への転換などが説かれた。エネルギーに関しては,ソフトエネルギー・パスの採用を奨励した。これはエネルギーシステムとして,巨大設備ではなく需要者接近の中小規模の設備を採用し,化石燃料ではなく再生可能なエネルギーを利用していこうという戦略である。工業については,より少いものでより多くこなすべきであり,新技術の導入にはその影響を事前にアセスメントし,環境資源を圧迫しないようにすべきであるとされた。報告書はさらに,国連が「環境保護と持続可能な開発に関する世界宣言」を発表することを提言し,それに基づく国際協定の整備と「持続可能な開発のための国連環境計画」の具体化を呼びかけた。

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