改訂新版 世界大百科事典 「国際社会保障憲章」の意味・わかりやすい解説
国際社会保障憲章 (こくさいしゃかいほしょうけんしょう)
Social Security Charter
世界労連(WFTU)が1961年の第5回大会(モスクワ)で採択した社会保障憲章。社会保障の国際基準には1952年にILO(国際労働機関)総会が採択した〈社会保障の最低基準に関する条約(102号条約)〉があるが,世界労連は,その直後〈国際理論のために最低基準を採択する〉よりも〈戦争経済の脅威にさらされている既存の社会保障制度を維持するほうがたいせつ〉と,これを批判し,ILOの同総会が審議を予定していた〈社会保障の高度基準〉案を見送ったことにも不満であった。こうして53年に世界労連がウィーンに招集した国際社会保障会議は〈社会保障綱領〉を採択し,それを基礎に憲章草案が61年初頭に国際労働組合委員会によって起草され,同年末の大会で総仕上げされた。この憲章は,前文,社会保障の原則,社会保障の適用を受ける社会的事故の3部からなる。前文では,社会保障における社会主義諸国の優位にふれたうえ,この憲章は〈全世界の労働者と労働組合の統一闘争の貴重な武器である〉としている。すべての労働者に社会保障制度が適用されるべきこと,財源は使用者または国家あるいは両者でまかない,労働者からは拠出金を徴すべきではないこと,社会保障制度の労働組合による管理または参加が要求される。社会保障はすべての社会的リスクをカバーすべきであるとして,疾病,出産,身体障害,老齢,業務災害,職業病,家族手当,失業,死亡を掲げている。また,医療については無料の提供,現金給付については生計費・賃金の動きおよび〈労働者と家族の死活的ニーズ〉に応ずる再調整がうたわれている。さらに労働者の権利として,予防医療,公衆衛生,職業安全,雇用と最低賃金,労働時間の短縮,有給休暇,住宅保障もうたわれている。なお公的扶助について,漸進的にこの種の制度は社会保障制度におきかえるべきだとする主張は先駆的である。
執筆者:高橋 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報