改訂新版 世界大百科事典 「土佐国蠧簡集」の意味・わかりやすい解説
土佐国蠧簡集 (とさのくにとかんしゅう)
土佐国内に伝存した古文書の集成。編者は土佐藩士奥宮正明(?-1726)。1151年(仁平1)に始まり,長宗我部氏と山内氏の交替期の1600-03年(慶長5-8)をもって終わる。全9巻。932点の古文書,金石文,棟札,系図等を年代順に収録する。第8,9巻は一部を除き無年号。1紙ごとに所蔵者とその所蔵点数を明記し,正明自身の簡潔,的確な考証,解説が〈按〉として加えられている例も少なくない。奥宮正明は谷重遠の高弟で,藩の検見役,代官役を務めた。役職がら藩内を巡回し,かたわら古文書の採録に努めた成果であり,本書は近世土佐実証史学の至宝といえる。第3巻以下は戦国・織豊期の史料であり,全巻の大半が長宗我部氏関係の史料である。これは史料残存の必然性にもよるが,長宗我部遺臣なるがゆえに山内藩政下を軽輩として生きた正明の歴史意識の反映でもある。原本は江戸後期には逸失,伝写本は高知県立図書館所蔵の森家本,山内文庫本のほか数種ある。刊本には《高知県史古代中世史料編》(1977)があり,編者の考註・索引が加えられて便利である。なお正明の偉業を継いで,〈蠧簡集〉と称するものに谷垣守編《土佐国蠧簡集拾遺》全7巻,柳瀬貞重編《土佐国蠧簡集木屑》全8巻,武藤平道編《土佐国蠧簡集竹頭》全1巻,武藤平道編《土佐国蠧簡集脱漏》全1巻がある。森芳材(あるいは子森横谷)編《土佐国蠧簡集残篇》は,山内藩士の遠州掛川時代に関する古文書集成であり,土佐国の史料集ではない。
執筆者:下村 效
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報