土地利用(読み)とちりよう(英語表記)land use
land utilization

改訂新版 世界大百科事典 「土地利用」の意味・わかりやすい解説

土地利用 (とちりよう)
land use
land utilization

人間活動のための土地に対する働きかけおよびその状態をいう。人間生活,生産活動の大部分は土地を媒介として土地の上に展開されるので,その場所の自然条件(地質,地形,気候,植生,土壌など)に応じた,また土地を利用する人間の活動の種類・様式,価値観などその時代の経済,社会,技術,文化などの諸条件に応じたさまざまな土地利用が見られる。同じ平たんな土地であっても,乾燥した砂漠地域もあるし,適当な降水と気温に恵まれた温帯の農耕地域もある。その農耕地域の中にも,水利条件のよい沖積平野もあれば,高燥な台地面もある。また,かつては雑木などに覆われていた都市近郊の丘陵地が,都市の拡大,交通機関の発達,土木技術の進歩などにより住宅団地に利用されるようになったり,魚貝を得たり海水浴に利用されていた海浜地帯が,干拓や埋立てにより農・工業生産をあげる場所として利用されている例も多い。

 土地利用の現況を把握する場合に二つの観点がある。一つは,たとえば畑,水田,森林,市街地,交通用地など,目に映るままに,いわば景観的(静態的)にとらえる場合で,もう一つは市街地を工業地域や商業地域に分けたり,森林を用材林保安林に区別するなど,機能的にとらえる場合である。土地利用景観としては〈芝地〉で一括されても,機能的には公園,ゴルフ場,芝畑に分けられるし,高層建築物群もデパートや商店なのか,官公庁なのか,住宅群なのかで,その機能は異なる。

一定の土地の生産性,人口支持力の大きさ,言い換えれば土地利用の効率を土地利用の集約度といい,略して土地利用度ともいう。利用度の高い場合を集約的土地利用,低い場合を粗放的土地利用という。土地利用は一般に経済の発展,技術の進歩に伴って,しだいにより集約度の高い土地利用形態へと変化し,土地利用密度が高くなる。この土地利用の高度化の例としては,田畑,森林,原野などの農業的土地利用が住宅地,工場用地などの都市的土地利用に転換,開発される場合が一般によく知られている。また,農業的土地利用,都市的土地利用それぞれの中での高度化もみられる。たとえば森林,原野が田畑に開墾されたり,粗放的な畑作地が果樹園や蔬菜畑などに,また土地改良事業などにより改良されたりする場合,低層住宅地が高層住宅地やより密集した住宅地に,区画整理事業により雑然とした商住混合地区が機能的に分離した地区に変化する場合などである。

人間生活の大部分が土地の上に展開され,その土地利用の良否が国民経済や国土環境を支配するとすれば,土地利用に関する施策は常に国や地方自治体の大きな関心事であり,国民にとっても重要である。土地を合理的に利用するためには,現在の土地利用状況を,まず知ることが重要であり,その自然条件,経済的位置などの観点から検討,研究することが必要である。土地利用の現況を正確に把握し,その問題点,改良の必要性・可能性の所在を明らかにすることは,広い意味では土地利用の改良計画といえる地域計画(都市計画,国土計画)では欠くことのできない重要な仕事である。このような観点から土地利用調査とその現況を示す地図の作成は,世界の多くの国々で,国の地図作成機関や大学の研究室などが中心となって早くから行われてきた。アフリカ東南アジアの国々の中には,先進国の援助を得て地形図作成と並行して土地利用図の作成を進めている国も多い。近年アメリカ合衆国では土地利用・土地被覆図(25万分の1,10万分の1)作成にリモートセンシング・データを利用している。土地利用調査のはじめとされるのは,アメリカのO.E.ベーカーが行った農業土地利用についての調査で,彼は《Atlas of American Agriculture》(1918-36)を作成した。1933-39年には,それより内容の広い画期的な土地利用調査がイギリスでL.D.スタンプにより行われ,約6万3000分の1の土地利用図が作成された。第2次世界大戦当時,大部分が完成していたこの図は,国土の土地利用形態を知るのみでなく,土地評価に基づく土地分類により,戦時中の疎開計画,食糧増産計画,さらに戦後の国土計画(土地政策)に対する基礎資料として広く活用された。

 日本では大正末期に土地利用の語が農学,地理学の分野で使われ始め,昭和初年には80万分の1日本土地利用図(内田寛一編集)が刊行された。戦後は国土計画の一環として,詳細な国土の土地利用の実態調査が必要とされ,1953年度から国土調査法(1951)および国土総合開発法(1950)に基づき,5万分の1土地利用図の調査・作成が行われてきた。74年からは,国土情報整備事業が国土庁国土地理院の協力により進められており,全国のカラー空中写真(8000分の1~1万5000分の1)の撮影と,平野部9万km2の土地利用図(2万5000分の1)の作成などの事業がすでにその半ば以上を完了している。

 土地利用の分類には大別して二つの観点(景観的観点と機能的観点)のあることは前述したが,新しく作成されている土地利用図は,とくに都市の土地利用を機能別に分類したことなどに特色があり,都市については住宅地区(一般,中高層),商業業務地区(商業,業務),工業地区,公共地区(公共業務,文教,厚生,公園緑地),公共施設(運動競技,運輸流通,供給処理,防衛),空地などに分けている。農地,林地については2万5000分の1地形図の植生記号や特定地区界などを原則として採用し,全体では土地利用を35区分した多色刷りの地図で,すでにかなりの部分が市販されている。なお,土地利用図については,IGU(国際地理学連合)内に世界土地利用委員会(1951設置)があり,その国際的な共通基準を設けている。

日本では地形を反映して森林が多く農用地の割合の低いこと,少ない平地,なかでも低地に多数の人口が集中し,きわめて集約的で生産性の高い土地利用を行い,同時にまた小規模で複雑に入り組んだ土地利用景観を展開していることが特徴としてあげられる。国土の地形別面積をみると,山地・火山地が国土の60%を占め,そのほとんどが森林(一部原野)に利用されている。山麓,火山麓,丘陵地は15%を占め森林のほかに牧野,果樹園,耕地に,都市近郊では住宅地,ゴルフ場,大学用地などに利用されている。残りの25%が平地で,そのうち台地が12%,低地が13%を占め,農用地としてそれぞれおもに畑,水田に利用され,また,住宅地,工業用地などにも利用されている。土地利用形態別にみると(1982国土庁調),森林66.9%,農用地14.8%(農地14.4%,牧場採草地0.4%),宅地(住宅地,工場用地,事務所・店舗等)3.8%,水面,河川,水路3.1%,道路2.8%,原野0.8%,その他7.8%となっている。農用地の国土面積に対する比率が低い点は欧米各国と比較してみても顕著である。FAOの《生産統計年鑑》(1982)でみると,アメリカ合衆国47.1%(耕地20.6%,牧場採草地26.5%),イギリス75.8%(28.9%,46.9%),イタリア59.7%(42.3%,17.4%),スイス50.8%(10.3%,40.5%)などで,一般に牧場採草地の率が高く,山地の多いスイスでも国土の半分は農用地に利用されている。また森林の比率はアメリカ合衆国31.2%,イギリス8.8%,イタリア21.6%,スイス26.5%で,日本よりはるかに低い比率となっており,スウェーデン(64.2%),フィンランド(76.3%)が日本と同様の比率を示している。

 平地部(台地と低地)における1km2当り人口密度は,およそ台地で500~600人,低地で1200~1300人,三大都市圏ではとくに高く,約3500人と推計されている。また,《国土利用白書》(国土庁,1984年度)によると,国土全体から森林,原野,水面などを差し引いて求めた可住地面積の国土面積に占める割合は21%で,その人口密度は1469人/km2,そこでの名目国民総生産は32億7000万円/km2である。この値は,欧米諸国の数値(西ドイツ387人,1億1500万円,イギリス357人,7億2000万円,アメリカ合衆国51人,1億4000万円など)に比べて飛び抜けて大きく,世界でも最も集約的な土地利用を展開しているといえる。しかし日本の低地帯は低湿な三角州性低地が多く,地盤の軟弱な地層が堆積し,洪水,地震,地盤沈下,高潮,津波などの災害を受けやすい。日本の大都市の大部分が低地に立地していること,言い換えれば最も災害の起こりやすい地域に最も集約的な土地利用が集中している点で,今後の土地利用対策上多くの課題を抱えている。

 第2次大戦前の日本の土地利用は,山地および丘陵地は森林,台地は畑と平地林,低地は水田に利用され,低地の集落も自然堤防などの微高地や段丘上に立地し,小規模に入り組んではいたが,比較的自然条件に適応していた。しかし戦後から今日までの急速な経済成長により土地利用の高度化が進み,とくに1960年前後の人口・産業の都市部への集積に伴って,旧河道や後背湿地の分布に関係なく,低地全面に市街地が拡大する例のように,自然条件に適応していない土地利用形態へと変化してきている。それに伴い,土地利用度の地域格差の拡大,人口流出による農山村の過疎化,それに伴う山林などの管理不足などの問題も引き起こされてきた。また,土地利用の高度化は一般に望ましい変化であるが,ビルの高層化に伴う日照・通風の問題,地下街建設に伴う防災上の問題,鉄道・道路などの建設に伴う騒音・振動などの問題,地盤沈下,農地を蚕食して進展する都市化に伴う問題等々も一方で生じている。

日本では,1974年に国土利用計画法が成立し,これに基づき土地利用基本計画が作成され,それに伴って,土地利用の規制に関する措置や土地取引の規制,開発行為の許可制度などの新たな措置が講ぜられることになった。土地利用基本計画では,次の五つの地域に区分することを定めているが,各地域については,国土利用計画法だけでなく,そこにかかわる関連法律により,その利用について細部にわたり規制措置などを行っている。(1)都市地域 主として都市計画法に基づき,市街化区域では地域・地区制(住宅地域,商業地域,工業地域などの用途地域制)が定められ,土地利用が規制される。市街化調整区域については開発行為に対する許可制度があり,農林水産業以外の都市的開発(工業,住宅などの開発)に関して厳しい制約が設けられている。(2)農業地域 農業振興地域の整備に関する法律などによる農業振興地域の指定があり,農地の転用の制限,許可制などがある。(3)森林地域 森林法などによる保安林,保安施設地区などの指定があり,立木の伐採,土地の形質変更などに関する許可制がある。(4)自然公園地域 自然公園法などにより国立公園や国定公園の指定があり,その中の特別地域および海中公園地区については開発行為などの許可制が,普通地域については届出制がある。都道府県立自然公園についても,ほぼ同様の制度がある。(5)自然保全地域 自然環境保全法により,原生自然環境保全地域,自然環境保全地域および都道府県自然環境保全地域の指定があり,開発行為に対して,それぞれ禁止,許可制,届出制などを定めている。

 このように,それぞれの用途別の機能を重視する国土利用計画法に基づいて,種々の施策が進められている。しかし現在は,前に述べたように種々の問題が生じている。今後それらに対処し,災害が少なく生産性の高い,自然条件にあった土地利用へ改良していくためには,自然条件(とくに地形,地質など)に適応した土地利用計画を重視していくこと,また土地利用を生産第一とのみ考えず,人間の生活環境としての安全さ,快適さを重視する立場で土地利用を考えていくことなどがたいせつである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土地利用」の意味・わかりやすい解説

土地利用
とちりよう
land utilization

土地の利用の状態および仕方,また土地の利用の現状を調べ,よりよい利用方法を研究する学問・政策分野。国家と国土が人々の活動の基調をなしているから,土地の自然的な性質と人間の生活様式,人口と国土の広さが,土地利用を考えるうえでの基本的事項となる。土地の形態,条件,利用状況は多種多様であり,また先進工業国と発展途上国,あるいはアメリカのように大きな国土をもつ国と日本のように狭い国土に大きな人口をかかえている国とでは土地利用の集約度や競合にかなりの差がある。土地利用の状態を把握するために,各国で土地利用の区分を大小に分けて行なっているが,一般的な大区分では,農業用地,林業用地,都市用地,レクリエーション用地,その他に分けられ,前2者を農村的土地利用に,後2者を都市的土地利用に大別することも行われている。現在の日本にみられる特徴は,都市地域が農村地域へ拡大して,農村的土地から都市的土地への利用転換をめぐって激しい利用競合が生じていることである。土地利用を秩序正しく推進することは重要なことであり,最も合理的,有効的,かつ適切な土地利用計画をそれぞれの地域に即して立て,これに対応した土地利用区分を考えることが大きな課題とされる。

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世界大百科事典(旧版)内の土地利用の言及

【都市計画】より

…(5)緑や水の保全,文化財の保護,美しい都市景観の創出。(6)健全な住宅と生活環境を定常的に供給しうる態勢を確立するため,土地利用計画と地区計画による都市計画制限の強化。
【都市基本計画】
 都市というスケールの地域を対象とする総合的な都市構成計画で,ゼネラル・プランあるいはマスター・プランと呼ばれる。…

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