リモートセンシング(その他表記)remote sensing

翻訳|remote sensing

デジタル大辞泉 「リモートセンシング」の意味・読み・例文・類語

リモート‐センシング(remote sensing)

人工衛星や飛行機などにより、遠く離れた対象の観測を行うこと。主に、地上から反射・放射される種々の波長の電磁波を測定し、コンピューターで処理して地表の状態を映像としてとらえることをさす。遠隔測定遠隔計測遠隔探査リモセン

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改訂新版 世界大百科事典 「リモートセンシング」の意味・わかりやすい解説

リモートセンシング
remote sensing

主として電磁波を利用して遠隔点より対象物を非接触で調べる技術。遠隔探査ともいい,地球資源,環境,海洋などの調査に用いられる。一般に対象物を非接触で調べる方法にはいくつかあるが,原理的にはいずれも対象に関係した物理的・化学的現象などを観測して,その性質を間接的に調べるものである。物理現象を利用する物理探査は昔から広く用いられてきたが,地球の重力場,磁力場を観測するもの,弾性波を用いるものなどいろいろな方法がある。電磁波を用いているリモートセンシングはこれとは別に,空中写真技術から出発した比較的新しい探査技術である。第2次大戦中,偵察あるいは測量の目的で航空機から長焦点のカメラで精度のよい写真を撮る技術が進歩したが,戦後この技術は民生用としても広く写真測量,写真地質判読などのため利用されるようになった。これは,物理的には太陽光,すなわち可視域(0.4~0.7μmの波長)の電磁波が対象物から反射・散乱されてくるのをカメラという電磁波計測装置で観測しているもので,いわばカメラはセンサーであり,フィルムはデータの記憶媒体,航空機はセンサー搭載のプラットフォームである。可視光より長波長の近赤外線にも感ずるフィルムを使えば,人間の目で見えないスペクトル帯域の情報が得られる(図1に電磁波のスペクトル帯域を,図2に地表物質の反射スペクトル特性を示す)。例えば,植物が水分を多く含むときと,そうでないときでは近赤外域のスペクトル特性が違うので区別できる(図3)。このように可視域の写真の利用価値は帯域を広げることによりいっそう増加する。これをさらに進めたのがリモートセンシングといえる。

 現在日本の陸域は国土地理院あるいは民間の手により組織的に撮影されており,多くの地域では重複撮影(例えば60%)された立体写真が作られている。これによって地表面の凹凸,標高は能率よく測量できる。さらに可視ならびに近赤外の帯域をそれぞれ異なった色のフィルターを通して複数レンズのカメラ,すなわちマルチスペクトルカメラで分光撮影すれば,後にこれらを組み合わせて対象物を光学的にあるいは電子光学的に処理,強調することもできる。1969年にはNASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)がアポロ9号を用いてマルチバンドカメラによる地球の写真を撮っている。また73年にはスカイラブによってもマルチスペクトル撮影の実験がなされた。空中からの写真利用がリモートセンシングという新しい名で呼ばれ,広く人々の関心を集めるようになったのは,宇宙からの地球の写真が世に出るようになってからといえる。宇宙開発,人工衛星,画像処理,コンピューターなど,いわゆる高度技術が新たな地球観をわれわれに与えてくれるようになり,このような背景からリモートセンシングは新鮮な響きをもって迎えられた。グラウンドトゥルースground truthということばも現れたが,これは空中からのスペクトルデータを判読するには地表物体の一般的特徴,すなわちグラウンドトゥルースをあらかじめ知っている必要があるからで,例えば,森林,海,岩石などの地表物質のスペクトル特性を知っていれば,高空から得られるスペクトルデータの識別をすることができる。このように宇宙開発を契機として,空中写真の利用技術はまったく新しい転機を迎えた。

センサーもフィルムを使うカメラだけではなく,電子式の走査型放射計などの高度なセンサーが用いられるようになった。例えば,画像化システムであるマルチスペクトルスキャナーmulti spectral scanner(MSSと略記)あるいはマイクロ波レーダーシステムにより作られる映像は多くの新しい可能性を開いた。これによって,フィルムに感じる長波長の近赤外,熱赤外,そしてマイクロ波域へと,観測できる帯域は飛躍的に広がった。とくにレーダーリモートセンシングは雲に影響されない全天候型で,昼夜を問わず用いられるので可視域とは違った新しい応用がある。また熱赤外データは地球表面の熱的特徴の解明に役だち,可視・近赤外域とともに気象,海洋など多くの分野で利用できる。例えば,気象衛星からの広域データは天気予報以外にも広く使われている。日本のGMS(geostationary meteorological satelliteの略)や世界の各気象観測用静止衛星は地表面を3万6000kmの高度から広範囲を観測するもので,全世界の雲の分布や気象データを得る一つの国際システムといえる。しかし技術的にはこの種の衛星は地球表面を広域観測するため分解能を犠牲にしている。

 一方,陸域観測用衛星では分解能が生命で,緻密(ちみつ)な地表観測が要求される。NASAによる陸域衛星であるランドサットLANDSAT)計画は1972年の1号打上げにより開始された。用いられたセンサーMSSは4バンド(0.4~1.1μmを4分割),地表分解能80mで,その映像は約900kmの超高度からとは思えないほど鮮明であった。このランドサットが宇宙リモートセンシングの原点といえ,最も典型的にリモートセンシング技術を物語っている。すなわち,リモートセンシングには対象物を観測するセンサーがまず必要であるが,同時にセンサーを搭載するプラットフォーム,データを収録するシステムが必要で,場合によっては大規模な地球規模での観測システムが必要となる。さらにこのような全体的なデータ収集のシステムに加えて,データを処理,解析するデータ利用システムがなければならない。ランドサット衛星は地球を組織的にモニターするプラットフォームであり,高度約900kmの円軌道上を太陽と同期しつつ北極,南極を通り,18日で再び元にもどる(図4)。この軌道は太陽同期軌道と呼ばれ,衛星は地球上の各点をつねに同一地方時に通過する。これは多くの目的につごうがよく,また両極を通るので地球全表面がカバーできる。その後,太陽同期軌道は陸域衛星用の標準軌道となった。

 一方ランドサットではセンサーからの電気信号は地表の受信局で受信され,コンピューターテープに収納される。したがってコンピューターを用いて各種のデータ処理が可能で,いくつかのスペクトルバンドを組み合わせて解析につごうのよい画像を作ることができ,スペクトル特性の差から地表物質を分類することも可能である。図5に示すように,各バンドのセンサーはスペクトル強度を観測しているから,バンドごとの値を座標軸にとり多次元空間内で,得られた映像を構成する各画像要素すなわち画素をそれぞれ点で配置させれば,その多くの点の分布状況から地表の物質をスペクトル的に分類できる。一つの集団を同一物質と見るのが地表物質を分類する原理である。ランドサットでは地表185km幅を走査しつつ北から南へ進むが,その後分解能80mは30mに向上し,バンド数も4から7に増加した。

 近年とくに地表分解能はいっそう緻密なものが要求され,20,10m級のものが実用に供されるようになった。反面,分解能が向上すれば同じ面積当りのデータ量が増し,データ処理の負担が増す。したがってコンピューターの高速,大型化が必要であり,特殊な画像処理システムも必要になる。

 衛星センサーによって地球規模で撮られるデータでは,利用者へのデータ配布システムがきわめて重要である。ランドサットの場合はアメリカは政府機関を新設し,全世界にコンピューターテープ,陽・陰画フィルムを組織的に頒布するシステムを用意した。これがその後のリモートセンシングの発展にきわめて役にたった。現在では日本も含め全世界にいくつかの衛星データの受信センターが設置され,それぞれの国と周辺地域のデータは直接受信処理されている。すなわち衛星データの収集には国際システムが重要であることをランドサットは示した。

一方,データの利用は地表物質の認識,動的な変化のモニターなど多岐にわたるが,目的によりリモートセンシングデータの解析方法は異なる。例えば農業を目的とする場合,作物ごとのスペクトル特性の差に着目するのみでなく,生育のパターンを時系列的にとらえる必要がある。鉱物資源の探査のためには岩質,断層,変質帯の分布などが重要であるが,動的な変化は地質の性格上重要でない。このようにデータの処理,解析の方法はそれぞれの分野特有の問題と考えるべきで,リモートセンシングデータは他の資料とともに用いる一つの判断資料を提供する。また有効なリモートセンシングデータの種類も応用分野によって異なり,太陽光の反射を調べる可視・近赤外域は最も重要な汎用(はんよう)スペクトル帯域といえる。熱赤外域は地表面の放射温度を与えるので,陸域での火山・地温調査,あるいはより一般的な用途のほか,海水塊,海流の調査にも有効である。これらは自然発生的な電磁波を用いるので“受動的”リモートセンシングと呼ばれている。一方はるかに長波長のマイクロ波レーダーは“能動的”なリモートセンシングで,その映像は地形,地球表面の起伏をよく表現するので,この特徴を生かした応用がいろいろ考えられている。地球表面の起伏は重複画像による立体映像でも調べられるが,マイクロ波レーダーの散乱はこれと違った情報を与える。例えば,地表面の凹凸である地形による地質判読は重要な応用であり,また海面の波浪からのマイクロ波の散乱データは間接的に風速についての知識を与える。

以上大別して可視・近赤外,熱赤外,マイクロ波域の3帯域が主体であるが,その他特殊な目的には特殊なリモートセンシングも考えられる。例えば,ある種のレーザー光の蛍光反応から物質を識別するものや,マイクロ波の自然放射を調べる非レーダーリモートセンシングもある。一方,ひじょうに高周波数の電磁波であるγ線は放射性物質の探査に有効で,物理探査として以前より応用されている。反面はるかに長い波長域,例えば102km程度の波長では能動的な電磁探査法もある。これは地下残部102m程度以下の導電率分布を調べるもので,金属鉱床探査などに用いられている。また重力場,磁力場を衛星を用いて地球物理学的規模で宇宙から調べることも行われている。技術的に物理探査と呼ばれるものは本来地下を調べるためのものだが,可視域-マイクロ波のきわめて短い波長の電磁波を用いるリモートセンシングでは,基本的に“地表面”(“土地被覆”)を調べている。リモートセンシングにより地下の地質構造がわかるのは地表の顔から地下を推論する結果である。対象物の“上面”のみを見る通常のリモートセンシングは,ここに一つの技術的限界がある。しかし,このことのためにリモートセンシングは広域高能率の探査を可能にしているのであり,リモートセンシングを広域概査手段と考え,目的によく合った利用をすべきである。

今後リモートセンサーとしても優秀な半導体を利用した高度のものが用いられるであろうし,衛星搭載用の合成開口レーダーsynthetic aperture radar(SARと略記)も進歩するであろう。これらが高度の情報処理技術,宇宙技術と結びつき,先端的な技術体系をつくると考えられる。しかし,これらは基本的には地球の資源,環境あるいは自然そのものを調べるなどの目的追求のための“道具”である。最も重要なことは目的追求のしかたであり,そのために最も適したシステムを考えることである。国境を無視する地球規模での衛星リモートセンシングでは,その性格上国際的視野をもつことがひじょうにたいせつである。地球をこのように組織的に調べる方法は衛星リモートセンシングしかない。一方,リモートセンシング技術は地球を調べる目的以外にも多くの応用があり,非接触で対象物を調べる特徴を生かして広く活用されている。工業・医療リモートセンシングなどがそれであり,さらに一般的な非接触計測の多くはリモートセンシング的であるといえる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リモートセンシング」の意味・わかりやすい解説

リモート・センシング
りもーとせんしんぐ
remote sensing

遠隔探査のことで、遠隔計測、隔測などの日本語訳がある。すべての物質は、その温度状態に応じた波長の電磁波を光、赤外線、マイクロ波の形で放射している。一方、外部から電磁波の照射を受けると、その物質の種類や状態に応じた反射・散乱をする。この、物体から放射、反射される電磁波を利用して、その物体の種類や状態を調べることがリモート・センシングであるが、一般には人工衛星からの地球資源探査や地球環境などの情報取得の場合に使われている。なお欧米などでは地球観測衛星をリモート・センシング衛星といっている。

[渡辺和夫・土屋 清]

語源・沿革

リモート・センシングという術語が、現在使われているような意味で最初に使用されたのは、1962年アメリカのミシガン大学主催の「環境調査へのリモート・センシングの応用」というシンポジウムである。その後、1965年ごろからNASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)が人工衛星からのリモート・センシングによる地球資源探査、地球環境調査などの計画について大宣伝をしたので、アメリカ国内ではかなりポピュラーになったが、世界中で使われるようになったのは、1972年7月23日アメリカの打ち上げた地球観測衛星ランドサット(Landsat、打上げ時の名前はERTS(アーツ)=地球資源技術衛星、後に改名)1号から観測したデータが利用できるようになってからである。この衛星に搭載されていた可視域2、近赤外域2の合計四つの波長帯で観測する多重スペクトル放射計(MSS)による観測データは、当時としては画期的な79メートルの分解能で、詳細な地表面状況が識別でき、資源探査、農林業、環境モニタリングなどに有効なことがわかったために、世界中に大変な反響があった。さらに国連、宇宙先進国などでこのデータ利用に関する講習会が開催され、ここでこの衛星データの解析にリモート・センシングという術語が使われたので、たちまち世界中にこのことばが広まった。

 日本でも1970年(昭和45)科学技術庁にERTS計画に参加する準備として、資源技術衛星データ判読技術検討委員会が設立された。引き続き1973年には総理大臣任命の資源調査会から勧告28号「地球資源隔測の推進構想」が出され、このときに「リモート・センシング」の日本語訳として「隔測」という新語が採用された。ランドサットデータの利用が可能になってから、大学や研究機関などではリモート・センシングに関する研究が始められた。一方、リモート・センシング普及のために1975年には財団法人リモート・センシング技術センター、1981年には日本リモートセンシング学会が設立された。学会設立の際に学会の名称を漢字4文字以内で表現しようとのことで多くの術語の提案があったが、適当な術語が見当たらないという理由で、やむをえずリモート・センシングというカタカナ語の表現になった。

 1975年4月国連宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会で、フランス代表から「remote sensingという術語は不適当である。遠いという意味のある術語としては、telephone、telescopeなどのように、すべてteleがついている。télédétectionという術語が最適であるから、国連ではこの術語を採用すべきである」との提案があり、フランス代表から採択要請が執拗(しつよう)に繰り返されたが、採用には至らなかった。このためにフランスはESA(ヨーロッパ宇宙機関)の最重要メンバーになっているのにもかかわらず、ESAの最初の地球観測衛星には、ERS(European Remote-sensing Satellite=ヨーロッパ・リモート・センシング衛星)1号という名前がつけられた。フランス語では、télédétectionが採用され、中国語では「遙感(ようかん)」という名訳が採用されている。最近では、非接触による対象物の特性を調べることもリモート・センシングに含めてもよい、との意見もある。

[渡辺和夫・土屋 清]

観測方法

リモート・センシングに使われる電磁波は、可視域(400~700ナノメートル)から、近赤外域(700~1500ナノメートル)、中間~遠赤外域(0.0015~1ミリメートル)、マイクロ波域(1ミリメートル~80センチメートル)にわたる。しかし、その間には、水蒸気、炭酸ガス、酸素などの、大気を構成する成分により電磁波エネルギーが吸収される吸収帯と、ほとんど吸収されない波長帯が数多く存在するので、リモート・センシングの目的それぞれに適した波長帯が使われている。

 観測機器としては、電磁波の特定の波長(周波数)域の強さである輝度を観測する放射計が使われる。複数の波長域で観測するので、光の領域では多重スペクトル放射計、または分光放射計などの名称があり、マイクロ波帯では多周波マイクロ波放射計などの名称がある。名称としては放射計が正式であるが、センサーということばも使われており、観測する波長域により光学センサーoptical sensor、マイクロ波センサーmicrowave sensorという名称も広く使用されている。センサー自身から電磁波を出して対象物からの反射を測定するものを能動型センサーactive sensor、対象物による太陽光の反射または対象物がその温度に応じて出す放射エネルギーの観測をする機器を受動型センサーpassive sensorという場合もあり、観測対象物による名称もある。たとえば、大分類では能動型マイクロ波センサーのカテゴリーに入るものに、波浪や海上風の観測をする散乱計scatterometer、海面高度を計測する高度計altimeter、地形や海氷などの情報を高い分解能で取得する合成開口レーダーsynthetic aperture radarなどがある。光学センサーにも観測対象物の名称をつけたもの、波長域の名前からとったものなど多くの名称があり、名称だけからは何の観測をするのかわからないようなものもある。

 新センサーの一般的な傾向は、スペクトル分解能および空間分解能の高度化、観測可能域の拡大などである。これらは必然的にデータ量の飛躍的増大をもたらすので、衛星からのデータの送信能力、地上の処理センターでの処理能力などが問題になる。

[渡辺和夫・土屋 清]

データ処理

衛星に搭載されている観測用センサーで観測されたデータは、デジタル信号に変換して地上受信所に送信される。受信所で受信された信号にはいろいろなゆがみが含まれている。受信したままのデータは未補正資料として保管され、ゆがみは次のデータ処理の段階で補正される。さらに、一般に使われている地図の投影法にあわせた投影変換などが施される。処理を終えたデータは、一般の利用者がそれぞれの計算機で解析処理が行えるように、数値データとして磁気テープやCDなどに記録して配布される。画像を希望する利用者にはフィルム、印画紙などにプリントして配布される。地形のようなパターンとしてではなく、海面水温や水蒸気量のような物理量を求める場合には、計測しようとする電磁波エネルギーが大気中を通ってくる間に被る減衰の補正や、不必要な電磁エネルギーが大気分子や塵(じん)粒子などで反射・散乱されて混入してくる成分を除く補正などの、物理的補正処理が必要である。

[渡辺和夫・土屋 清]

リモート・センシングの利用

リモート・センシングの利用は、多方面に及ぶ。たとえば建設分野では、道路・鉄道・ダム・港湾などの建設、管理や地図作成などに使われ、国土情報としての土地利用図の作成に利用されている。農業・林業分野では、病虫害監視、作付把握、収穫予測などに広く使われ、世界規模での調査に有効とされている。また、鉱物・エネルギー資源分野では、地質構造から、資源の存在有望地域を世界規模で探査するために使われている。冬季積雪量をみることは水資源の管理を容易にし、人工衛星で観測する海面水温分布、数百キロメートルに及ぶ海域の渦、海の色などは、漁業面での重要な情報として、強く注目されている。また、地球的規模での森林の減少や砂漠の拡大などの調査にも広く使われ、とくに国土環境情報の不備な開発途上国で役だっている。

 リモート・センシング用人工衛星として有名なのは、前述のアメリカの地球観測衛星「ランドサット」シリーズで、1972年に1号が打ち上げられてから1998年までに7機打ち上げられ、世界中で直接受信が行われ、データの利用が行われている。次に有名なのがフランスの人工衛星「スポット(SPOT)」シリーズで、1986年に1号が打ち上げられてから2002年までに5機打ち上げられ、ランドサットと同様に世界中で直接受信が行われて利用されている。日本では1990年(平成2)最初のリモート・センシング用衛星「もも」1号(海洋観測衛星1号)以来、数機の衛星が打ち上げられている。

 最初のころは、地球観測衛星を所有していたのはアメリカ、フランス、日本、ESA、旧ソ連だけであったが、現在では各国の関心の高まりを反映してかなりの国、たとえばカナダ、インド、中国、ブラジル、アルゼンチン、イスラエル、ドイツ、アルジェリアなどの国もそれぞれの地球観測衛星を運用しており、さらにイギリス、ナイジェリア、トルコ、ウクライナ、タイ、台湾、マレーシア、韓国、イタリアなども独自の地球観測衛星の開発を進めている。またアメリカやフランスはそれぞれ高性能センサーを備えたランドサットおよびスポットの後継衛星を維持する予定である。

[渡辺和夫・土屋 清]

『和達清夫他編・著『リモートセンシング』(1976・朝倉書店)』『宇宙からの眼編集委員会編『宇宙からの眼』(1979・朝倉書店)』『日本リモートセンシング研究会編『リモートセンシング用語辞典』(1989・共立出版)』『土屋清編著『リモートセンシング概論』(1990・朝倉書店)』『村井俊治・宮脇昭・柴崎亮介編『リモートセンシングからみた地球環境の保全と開発』(1995・東京大学出版会)』『竹内延夫編『地球大気の分光リモートセンシング』(2001・学会出版センター)』『日本リモートセンシング研究会編『図解リモートセンシング』改訂2版(2004・日本測量協会)』『深尾昌一郎・浜津享助著『気象と大気のレーダーリモートセンシング』(2005・京都大学学術出版会)』『William Gareth Ress著、久世宏明・飯倉善和・竹内章司・吉森久訳『リモートセンシングの基礎』第2版(2005・森北出版)』

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知恵蔵 「リモートセンシング」の解説

リモートセンシング

航空機や人工衛星などを使って、離れた位置から地表や大気を観測すること、もしくはそれらの遠隔操作による計測の手法や技術。気象観測などの公益・防災目的、植生の分布の調査など研究目的のほか、土地利用や穀物生産量予測などの産業・民生分野でも広く利用され、衛星リモートセンシングのサービスを提供する企業も増えてきている。なお、ドローンを使った低高度の航空写真撮影(空撮)や、音波を使ったソナーや魚群探知機、宇宙探査機の運用なども広い意味ではリモートセンシングの一種といえる。
リモートセンシングの利用が進んだのは、1914年に始まる第一次世界大戦のころからである。当時、兵器として航空機が戦線に投入されるとともに、偵察用途で空撮技術が大きく発展した。空撮は軍事目的や地図作成の補助などが主な用途だったが、赤外線やマイクロ波など観測技術の進歩や人工衛星の発展などにより、気象観測や防災、資源調査や海洋調査など利用目的や観測範囲が飛躍的に広がっている。72年には米国で世界初の非軍事衛星(後のランドサット)の運用が始まり、近年では軍事衛星に迫るような解像度を持つ商用衛星や低コストの小型衛星を連携運用する技術も普及してきた。これらの地球観測衛星により、様々な観点で広い範囲を対象に長期間継続して観測することが可能になった。衛星に搭載した測定器(センサー)で、電波・赤外線・可視光などにより地球を調べることをその目的としていることから、リモートセンシング衛星とも呼ばれる。対象物の状態を調べるには、対象物から届く光や電磁波を検出したり、測定器が照射したマイクロ波を対象物が反射する様子を受信したりして、データを収集・解析する。これらによって、オゾン層や火山活動といった地球規模の自然環境の監視や、地表面の詳細な植生を知り土地利用状況や砂漠化、農作物の状態などを調べることができる。また、地表や海面の温度を測ってヒートアイランド現象の調査や、黒潮の蛇行やエルニーニョ現象、漁場の予測などに活用される。あるいは、地形を調べるときに複数の観測位置をとることで立体測定し、精度の高い地形図を作成したり土地の隆起や沈降を計測して変動量を解析したりといったことが可能になる。その他、雲の状態などから天気予報や台風の状況を調べたり、水面の反射から水域の水量や洪水の被害状況などを即時に把握することもできる。内閣府などは、衛星リモートセンシングの市場が急速に拡大中であるとし、衛星打ち上げ手段をもたない新興国で大きな伸びがあることなどから、ビジネス創出や海外展開促進を目指すとしている。

(金谷俊秀 ライター/2020年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

百科事典マイペディア 「リモートセンシング」の意味・わかりやすい解説

リモートセンシング

物体から反射または放射される電磁波を利用し,遠隔位置からそれらの物体の種類や状態などを識別する技術。すべての物体は,その物体特有の反射特性をもち,環境や条件が違えば同じ物体でも反射特性が違ってくる。したがって,反射特性がわかれば,その物体が何であるか,どのような状態にあるかを知ることができる。具体的には人工衛星や航空機で,種々の電磁波を使って地表のマルチスペクトル写真を撮影し,その写真を解析して物体を識別している。たとえば,健康な植物の緑は赤外域で非常に強い反射を示し,病害虫や公害におかされると赤外域の反射は低下し赤バンドの反射が強くなる。したがって,赤外域の写真と赤バンドの写真を撮影して調べると植物の活力度が判別できる。 リモートセンシングを目的とした人工衛星を地球探査衛星,資源探査衛星などと呼んでおり,米国のNASA(ナサ)が1972年から打上げを行っているランドサット,フランスのSPOTのシリーズが代表的。日本でも1992年に〈ふよう〉の打上げに成功している。またリモートセンシングを利用して遺跡などを発見しようとする宇宙考古学も行われはじめた。
→関連項目画像処理空中写真コンピューターグラフィックス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リモートセンシング」の意味・わかりやすい解説

リモート・センシング
remote sensing

隔測ともいう。可視光線外の波長域の放射線または地表や水中からの反射波を探知して,面的広がりのある情報を得る方法。たとえば,水面の温度分布を熱線を感知する方法で調べる熱線写真,レーダに用いる波長の電磁波によって得られるレーダ写真,赤外線を赤く発色させる偽赤外カラー写真,赤外カラー写真,音響測深による水底からの反射音波を映像化したもの,波長帯ごとにフィルタなどで分離し,それらを特別の感光剤で映像化した写真の組としてマルチスペクトル写真,衛星船のテレビカメラによる映像をデジタル化して,地上の受信機で受けてから写真に仕上げる月や火星の空中写真などがある。応用分野は広く,農業,植生,地形,地質,土地利用,海洋,気象,考古学,医学などの分野にわたっており,地球資源の有効利用や環境保全などのために,重要な役割を果している。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

化学辞典 第2版 「リモートセンシング」の解説

リモートセンシング
リモートセンシング
remote sensing

離れたところから,直接触れずに,物質の大きさや性質またはそれが置かれた状況を読みとる技術.たとえば,地球観測衛星に搭載されたセンサーを使って,地球の植生分布,火山活動,海面の温度などの情報を得るのに使われる.この場合,地表から反射や散乱された太陽光を見る光学センサー(受動型センサー)や,5.3 GHz のマイクロ波のレーダーを発射し,地表からの反射や散乱をみるマイクロ波センサー(能動型センサー)が使われている.また,火山活動を常時モニターするために,火山ガスの濃度,温度,pHなどのセンサーによるリモートセンシングなどがある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のリモートセンシングの言及

【海洋開発】より

…これらの措置と企業による海底石油・ガス開発技術の進歩とにより,アメリカの科学技術は大きく進み世界のリーダーとしての実力をそなえるようになった。特に注目すべき点は,多くの海洋調査船をもつほか,ダイビングや潜水船,無人機などによる海中活動技術,水中超音波技術とその応用機器,低照度水中写真技術,宇宙技術との組合せによるリモートセンシング技術などの分野である。
[その他の先進国の動き]
 フランスはJ.Y.クストーによる潜水技術,海中居住実験,潜水船などの分野において先駆的開発技術をもっているが,1967年国立海洋開発センター(CNEXO,Centre National pour l’Exploitation des Océans)を設立し,広く海洋科学技術の開発に努め,アメリカとの協同調査を行い,東太平洋において多くの熱水鉱床の発見に大きく寄与した。…

【写真】より

…写真感光材料工業の生産量から見ると,近年の先進国では一般撮影用フィルムよりも業務用およびX線用感光材料が多く製造され,生産金額では一般撮影用と業務用とが1:1に近くなっている。写真の用途の中で一般撮影に近いものとして航空写真,写真測量あるいは宇宙写真があるが,高度の宇宙空間から地表の写真を撮影する技術はリモートセンシングと呼ばれ,地球資源探査,気象観測,海洋や地表の汚染調査等に利用され,国際間の協力の下に業務が進められている。宇宙空間からの観測の場合,写真撮影とテレビジョン技術ならびに通信技術が総合されて画像が得られるので,電気信号を地上で受信して最終的に写真像を作る場合もある。…

※「リモートセンシング」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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