国土計画(読み)こくどけいかく(英語表記)national planning

精選版 日本国語大辞典 「国土計画」の意味・読み・例文・類語

こくど‐けいかく ‥ケイクヮク【国土計画】

〘名〙 国民の生活や福祉向上のため、国土を総合的に利用開発する計画。一般には、国土総合開発計画とほぼ同義に用いられる。
※毎日新語辞典(1939)「国土計画 国土経営計画とも云ふ」

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デジタル大辞泉 「国土計画」の意味・読み・例文・類語

こくど‐けいかく〔‐ケイクワク〕【国土計画】

国土を総合的に利用・開発するために立てられる計画。資源の開発、産業・交通などの立地、人口の配分、国土の保全などが基本となる。

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改訂新版 世界大百科事典 「国土計画」の意味・わかりやすい解説

国土計画 (こくどけいかく)
national planning

一国の自然,経済,社会,文化などの諸条件を考慮して,健全で豊かな生活環境の確保と,国土全体の均衡ある発展を図るために,総合的に行われる計画をいう。この言葉は今日〈国土総合開発計画〉と同義に扱われることが多いが,これは後者に開発の抑制や保全が十分配慮されているかぎり,必ずしも不当ではない。国土計画はまた産業,交通,居住などの物的施設計画に限定して理解されやすいが,ソフト面をも含む総合的な計画と理解すべきである。さらにまた国土計画は,下位計画である地域計画都市計画と密接に関連し,相互に整合するものでなければならない。

しかし国土計画という言葉は,第2次大戦前の枢軸国側の国防国家建設と関連して生まれている。ナチス政権下のドイツは,1935年に帝国国土計画庁を設け,アウトバーン(高速自動車道)その他の軍用施設を中心に,国土の整備計画を進めた。ムッソリーニ政権下のイタリアも同種の計画を試みた。日本では40年近衛文麿内閣のもとで,重要国策の一つとして国土計画設定要綱が閣議決定されている。だがこの種の国土計画は間もなく枢軸国側の敗戦とともに消滅した。

 国土計画の源流は,むしろ同じ時期に始まる先進諸国の地域政策に求められる。1920年代末からの大恐慌は,国内不況地域に高率の失業をはじめ多くの社会的荒廃をもたらした。このためイギリスでは34年特定地域法を制定し,これら地域の産業の体質や構造の転換を図った。37年には有名な〈産業人口の分布に関する王立委員会(バーロー委員会)〉を設け,産業人口の適正配置とその方策を究明した(報告書は1940年議会に提出)。アメリカではニューディール政策の一環として,1933年NIRA(ニラ)(全国産業復興法)に基づき国土計画委員会を設けるとともに,代表的不況地域の一つテネシー川流域の総合開発のため,TVAを設立した。

 こうした戦前の地域政策は,国内の低開発地域や不況地域の振興による国土の均衡ある発展という国土計画の基本的思想の形成に強い影響を与えた。イギリスでは45年に工業配置法,60年に地方雇用法,72年に産業法などの立法を通じて,問題地域に成長産業の誘導を促す一方,イングランド南東部などの過密地域に対しては,開発の規制を行い,経済機会の全国的平準化に努力を傾けた。フランスでも1955年以後工業の地方分散政策を進め,第4次経済社会発展計画(1962-65)では,〈発展の極〉理論による地域政策を国土計画に結びつけようとした。イタリアでは伝統的な南部の後進性の克服,南北格差の解消を目ざして,1950年南部開発公庫を設立,とくに57年以降国家資本参加企業を中心に南部の工業化に努めた。ドイツ(西)でも65年の連邦空間整備法により,それまで自治体の手で進められてきた生活空間の整備が,国土の全体計画に結びつけられることになった。日本の国土総合開発法(1950公布)とこれに基づく62年の全国総合開発計画も,国土計画の理念に関しては,これら各国と共通の流れに沿っている。

 しかし国内の低開発地域や問題地域の振興を軸に,国土の均衡ある発展を目指すという国土計画は,その後の経済・社会の動向に応じて,課題や政策に転換や修正が加えられた。産業のサービス経済化やグローバル化は,工業の地方分散による国土の均衡化効果を減殺するとともに,サービス産業や中枢機能の集積による大都市,とくに首都の肥大化を,より緊急の課題とした。一方,経済の成熟化に伴う価値観の変化は,国土計画上の関心を,これまで以上に,開発より保全に,活力よりも快適に振り向けることになった。こうした推移は1980年代以降の各国の地域政策の沈静化や後退にもうかがえるが,日本の1969年の新全総,77年の三全総,87年の四全総,そして98年の〈21世紀の国土のグランドデザイン〉まで,4次にわたる全国総合開発計画の改訂に,より明確に看取できる。

国土計画にはこのほかにもいくつかの重要な問題がある。まず第1に国土計画の目ざす健全で豊かな生活環境実現の前提である一国経済の成長と,国土全域の均衡ある発展とは必ずしも両立するとは限らない。いわゆる成長のための効率性の追求と,均衡と平等のための公平性の対立,選択の問題である。このことは効率性と公平性の二つの基準の間を揺れ動く先進諸国の計画の動揺によく現れている。

 第2に国土計画と地域計画や都市計画との整合の問題である。中央集権的傾向の強い国では,いわば上から下への整合が行われるのに対して,分権的傾向の強い国では,下からの積上げを通じて,全国計画が最後に決定されるという形をとる。日本やフランスは前者に属し,イギリス,アメリカ,ドイツなどは後者に属するといえよう。後者において,日本の国土総合開発計画のごとき形態での全国計画をしばしば欠いているのは,このためである。しかし近年日本でも上からの全国総合開発計画の策定には,批判が少なくない。上記の〈21世紀の国土のグランドデザイン〉が,〈参加と連携〉による国土づくりを提唱し,この領域でも積極的な地方分権の推進を強調しているのは,この点への反省といえよう。

 第3は国土計画の総合性の問題である。現実には経済,社会,文化等の各分野が,行政上の縦割分掌によって細分されるために,計画の立案や実施において整合を欠いたり,対立・競合を引き起こす場合が少なくない。とくにハード,ソフト両面の均衡と連携には十分な配慮が必要である。
国土総合開発
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百科事典マイペディア 「国土計画」の意味・わかりやすい解説

国土計画【こくどけいかく】

今日の国土総合開発に当たるもの。ナチス・ドイツで行なわれ,日本では1940年に国土計画設定要綱が閣議決定されたが,食糧や軍需資材の自給,防空,人口分散など軍事的・物動計画的色彩が強く,地域に即した計画ではなかった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国土計画」の意味・わかりやすい解説

国土計画
こくどけいかく

国土総合開発」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の国土計画の言及

【地域計画】より

…地域の開発,利用,保全などのための計画。対象とする地域の広狭により,国土計画,地方計画,広域都市計画,都市計画などの名称でよばれるが,これらのうち地方計画(地方ブロックないし県ぐらいの大きさの地域の計画)と同義に地域計画という言葉を用いることも多い。 地域計画は,地域社会の生産,環境などの基盤をなす公共・公益施設を整備し,合理的な土地利用を誘導し,またそのために必要な規制を図るなど,人間活動の物的面の環境条件の創出,改善をその中心的な課題とする。…

【不動産業】より

…東急不動産の前身),箱根土地(1920設立。現,国土計画)などの電鉄系各社による都市郊外での土地開発と住宅供給が盛んになった。昭和になってからはオフィス街のビル経営も本格的になり,1937年に三菱地所が,41年に三井不動産が設立され,財閥の不動産部門が独立しはじめた。…

※「国土計画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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