縮尺の制約の許す範囲内で,できるかぎり詳細に地表の形象を明らかにすることを原則とした地図で,一般に縮尺2500分の1から10万分の1くらいのものを地形図と呼んでいる。地形図には地形,水系,交通施設,おもな建造物および集落,植生,基準点など地表の形態や地表に分布する事物が,縮尺に応じて縮小表現されており,さらに地名や境界などが記入されている。
地図は大別して一般図と主題図に分けられるが,地形図は一般図の代表的なものであり,かつ最も基本的な地図で,各種の調査や計画に使われるだけでなく,多くの主題図などの基図としても広く活用されている。したがって世界各国とも国の測量地図作成機関が国家基準点に基づく測量により,統一された図式で体系的に地形図を整備している。日本では,陸軍参謀本部陸地測量部により,1892年から1924年の間に,全国を1259面で覆う5万分の1地形図が作成された。第2次大戦後は国土地理院がそれを引き継ぎ,維持修正を行ってきたが,現在では,空中写真測量による2万5000分の1地形図の整備が1984年に完了し,全国を4428面で覆う日本の新しい基本図となっている。これにより長く親しまれてきた従来の5万分の1地形図は,2万5000分の1地形図4面から作成される編集図となっている。
現在刊行されている2万5000分の1地形図はおおむね3色刷り,5万分の1の地形図は4色刷りであるが,両者の図式はほぼ共通である。図法(投影法)はいずれもユニバーサル横メルカトル図法を用いており,2万5000分の1地形図では経度差7′30″,緯度差5′をもって1図葉の範囲(約100km2前後)とし,5万分の1地形図では経度差15′,緯度差10′をもって1図葉の範囲(約400km2前後)としている。地形図に図示される対象は,原則として測量の時点で現存し,かつ5年以上存続する見込みのものであるが,建設中のものでも1年以内に完成する見込みのものは図示される。また地形図に図示する各種の対象物は,原則として真上から眺めた状態の正射影とし,これらが上下に重複する場合は,とくに記号を定めたもの(破線で示されるトンネル内の道路,地下の水路など)を除いて,下方にあるものは図示していない。また正射影で図示することが困難ないし不適切なもの(記念碑,三角点など)は別に記号を決めて図示される。そのまま縮小して表現すると細かく込み入りすぎてわかりにくくなる場合は,省略,誇張,総描(そうびよう)などの手法を用いて地形図を読みやすくしてある。省略とはあまり重要でないもの,込み入りすぎてわかりにくいものなどを省略して表現しないことであり,誇張とは縮尺に応じて縮小すると小さくなりすぎて読みにくいもの,また小さくても重要なもの(三角点,水準点など)を誇張して表現することである。また総描(総合描示generalization)とは屈曲の多い山路,小さな谷の入り組んだ複雑な地形,あるいは密集した市街地の建物など,そのまま縮小して描くとわかりにくくなるものを,全体の形をおおづかみにとらえてわかりやすく表現することである。また狭い区域に道路,鉄道,集落,堤防などが集中する場合には,それぞれを正しい位置に記入することができなくなってくる。このような場合,とくにやむをえぬ場合は最大1.2mmまで平面上の位置をずらして表現(転位という)できることになっている。
またこれらの地形図の地形表現には,2万5000分の1では10m,5万分の1では20mごとの茶褐色の等高線が用いられている。これらの等高線は写真測量によるもので,かつての平板測量による場合に比べると,全体としての精度はかなり高くなっているが,水準点や三角点などの基準点付近は別として,最大では等高線間隔の2分の1まで(10mごとの等高線であれば最大5mまで)の誤差がありうることも知っておいたほうがよいであろう。さらにまた水色で表現されている水系も,地図上で1~2cm以上のものや,川幅1.5m未満のものは省略されていることが多い。
以上の2万5000分の1,5万分の1地形図のほかに,国土地理院では国土基本図と呼んでいる2500分の1,5000分の1の大縮尺地形図の作成が1960年より進められ,1984年までに全国の平野部を中心に約9万km2(約1万3000面)の地形図が完成している。さらにまた83年からは,既に作成された2500分の1地形図を基図として縮小編集する1万分の1地形図の作成が,三大都市圏および地方中枢都市地域約2万km2について進められ,東京,横浜などの地域から刊行され始めている。これら大縮尺図においては地表に分布するものは,おおむねそのまま縮小して表示できるため,5万分の1および2万5000分の1地形図で用いている省略,総描,転位などの手法はほとんど見られない。とくに市民一般に広く親しまれることを狙いとしている1万分の1地形図は,5色刷りで,景観を詳細に表すために建物を3階以上と以下とに区別したり,商店街における建物や主要な道路,公園などを彩色により表現したりしている。また,従来表示されなかった図書館や公民館,幼稚園,銀行,デパート,ホテルなどを記号により示し,2m間隔(山地では4m)の詳しい等高線も図示されている。1万分の1地形図の図郭線はユニバーサル横メルカトル図法を用いて中央経線および赤道からそれぞれ3′45″,2′30″ごとに設定されており,1図に含まれる面積は約25km2,4面で2万5000分の1地形図1面と対応する。
執筆者:高崎 正義+滝沢 由美子
(1)地形図を〈見る〉または初歩的に〈読むmap reading〉段階。点,線,広がりや形,記号や文字,色彩の印象などを通じて,そこに描かれてあるものの水平的・垂直的・時間的な位置づけ,方位,距離などを読み取る。(2)地形図をさらに深く読解する手順として,地形図に作業や計測を加えるなどの〈分析mapanalysis〉の段階。例えばある高度の等高線をなぞる,段彩を施す,地性線を入れる,方位,長さ,面積,傾斜,起伏量,谷密度を測定する,地形断面図,接峰面図,水系図,土地利用図,地形模型などを作成する。(3)以上のほかに現地踏査,文献資料,地質図・土壌図などの他種の地図,空中写真などを併用し,あるいは隣接地に及ぶ土地条件図・地形分類図などを参考に推理・判断することなどにより,総合的・系統的に読図する。この段階が真の〈読図map interpretation〉で,地理学的研究の立場からは地理学的読図と呼ぶことができる。
一般的には地表面の凹凸,谷筋や尾根筋,地形の成因,乾湿,水部,植生,土地利用,建物その他の工作物,道路,軌道,さらに新旧の地形図の比較による地表の時間的変化・歴史,地名などが読み取れるが,地形図の縮尺によりその内容は異なる。たとえば地形に関しては,次のような対象が読図しやすい。縮尺20万分の1(等高線間隔100m)程度の小縮尺地図では山脈,成層火山。5万分の1(20m)程度の中縮尺地形図では丘陵,高位の台地・段丘面,準平原,高い断層崖。2万5000分の1(10m)程度の地形図では急傾斜をもつ扇状地,海岸段丘,砂丘,ケスタなどの地形,および大型の古墳。2500分の1(2m)程度の大縮尺地形図では低位の段丘面,谷中分水界,遷急点,河川争奪の地形。1000分の1(0.5~1m)程度の地形図では三角州上の微起伏,自然堤防,砂州,後背湿地,環礁,天井川,輪中,島畑,掘下げ田,古城跡などに見られる微地形。
地形図の読図は地理学・歴史学・考古学などをはじめとして,その他多くの部面で役立つ。しかし読図に当たっては,地形図の成立ちや約束,地形図の表現する限界などを知っていることがたいせつである。いずれにしても地形図の読図は地形図利用の一面であるが,それは現地調査や地域研究のための,種々の段階における予測として活用するのが本道であるとともに,読図そのものには限界があることをわきまえなくてはならない。空中写真との併用に際しては,両者の長所・短所を補完・活用することが必要である。
また,読図には地図帳や20万分の1地勢図などで位置を確かめながら進めると効果的である。また読図の主目的が地形でなくても,等高線の状態や変形地の記号にまで気を配るとよい。実際に,山や野原,町の中などを歩いている場合には,自分がいま立っている地点が地図上のどこにあたるかを知っていることが,地図利用の第一歩である。
2万5000分の1や5万分の1の地形図はかなり精度の高い地図であるが,縮尺上の制約があって,前記のような省略,誇張,総描があり,平面位置の転位があるので,まわりの目標物から全体の位置関係を見て地図上の位置を判断し,確認できた地点から自分がどの方向へ,どこを通って歩いているのかを常に地図と照合しながら進むことが肝要である。そして,そのような経験を多く積むことにより地形図を使いこなすことができるようになる。
執筆者:籠瀬 良明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
土地の高低や起伏、河川や湖沼、植生、土地の利用状況、交通路、都市その他の集落など、地表面上の自然・人工のすべてのものを均等に表現した地図を一般図というが、そのうち、ある程度以上の詳しさをもった地図を地形図という。国土地理院発行の縮尺2万5000分の1の地形図や5万分の1の地形図は、その代表的なものである。そこでは各種の対象物が、縮尺の関係から取捨選択、総描(形や分布の特徴を保持しながら統合や形状の単純化などを行うこと)、転位(位置を最小限ずらして描くこと)などが行われてはいるものの、かなり詳細に表されている。縮尺5000分の1や2500分の1などの大縮尺になると、ほとんどすべての対象物が縮尺化したままの形で描き表される。すなわち、地形図であるためには、数万分の1以上の縮尺が必要である。2万5000分の1や5万分の1の地形図は、国土の全域を統一された規格・精度で覆うもので基本図といわれ、各方面に広く利用されている。5000分の1以上の大縮尺の地形図は、おもに調査・計画用に、国土地理院の国土基本図をはじめとして地方公共団体などでも作成されている。
[五條英司]
『武井正明著『地形図の読み方』(1988・三省堂)』▽『五百沢智也著『2万5千分の1図による最新地形図入門』(1989・山と渓谷社)』▽『大森八四郎著『最新地形図の本――地図の基礎から利用まで』(1991・国際地学協会)』▽『日本地図センター編・刊『地形図の手引き』(1995)』▽『帝国書院編集部編『新編コンターワーク――地形図学習の基礎』(1998・帝国書院)』▽『地図資料編纂会編『正式二万分一地形図集成』全8巻(2001~2003・柏書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…高さの測定にはこのほかに,経緯儀を用いる三角水準測量trigonometric levelingや,気圧計を用いる気圧測高barometric levelingがある。(7)平板測量plane table survey 平板,アリダードを主要器具として現地において地形図等を作成するものである。大縮尺の図を作成する細部の測量に広く用いられる。…
※「地形図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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