地球外生命(読み)チキュウガイセイメイ(英語表記)extra‐terrestrial

デジタル大辞泉 「地球外生命」の意味・読み・例文・類語

ちきゅうがい‐せいめい〔チキウグワイ‐〕【地球外生命】

地球以外の惑星や宇宙空間など、地球の大気圏外に生存している生命体知的生命でないものも含む。また、宇宙飛行士や宇宙船内の実験用生物など地球に由来するものは含まない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地球外生命」の意味・わかりやすい解説

地球外生命
ちきゅうがいせいめい
extra‐terrestrial

地球以外の天体に存在すると考えられる生命体をいう。地球以外の他の天体に生命が存在するだろうか、さらには、その生命は知能をもった「宇宙人」であるだろうか。これはきわめて魅力ある問題である。今日のわれわれ地球文明の諸科学を動員すると「地球外にも生命は多数存在する」ということができる。ただしそれを観測・検出することは容易ではなく、さまざまな試みが実行されてはいるが、まだ成功していない。ここでは地球外生命の存在の問題、地球外生命の検出の問題、地球外生命を考えた歴史、の3点について考察する。

[横尾広光]

地球外生命が存在するための条件

生命は熱い恒星表面や暗黒の星間空間に存在するとは考えられない。地球のように恒星の周りを回る惑星の表面に存在する可能性がある。したがって惑星系をもつ恒星の存在がまず必要である。観測的にはバーナード星木星のような惑星が付随していることがわかっている。次に、主星から届く光と熱が強すぎず、かつ弱すぎない領域を可住圏とよぶが、その可住圏内に惑星が位置している必要がある。惑星には水素とヘリウムでできた木星型惑星と、岩石でできた地球型惑星の2種類があるが、生命が存在するとしたら地球型惑星であろう。水と空気の存在も必要である。木星型惑星の生命の研究もあるが、きわめて特異なものであり、ここでは省略する。主星となる恒星についても、光が強すぎて燃料を早く使い尽くす寿命の短い星は、生命が進化する時間がないので除外される。結局、太陽に似た平凡な恒星が生命の存在に適しているということになる。

 条件がそろった惑星があったとして、そこで生命が発生するだろうか。これに対する基本的な考え方は「地球上で生じたことは他の天体でも同様に生じた」ということである。「他の天体では生じない」と考えるほうが不自然である。生命起源論では明治時代には「パンスペルミア説」があった。これは、星から星へと胞子のような生命体が星間飛行して生命を植え付けていくという考えで、「生命は生命から生まれる」というテーゼに基づいた発想である。それに対置して、A・N・オパーリンとJ・B・S・ホールデンは生命の自然発生が地球の原始海洋で生じたことを主張し、今日、それが定説となっている(しかし修正された形でパンスペルミア説が今日復活している)。とにかく原始地球で簡単な分子から複雑な分子への化学進化が生じ、その結果生命が発生し、進化し、ついには知能生物が生まれ、それが文明をつくりだしたという過程が、銀河系内にある2000億個の恒星のどれかで生じている可能性はある。

 地球上の生命が宇宙進化の正統的な産物である状況証拠の一つに、宇宙元素組成と生命体元素組成が似ている点があげられる。揮発成分である水素とヘリウムを除くと、宇宙では炭素、窒素、酸素が多い。その個数比は対数で8.7対8.0対9.0である。人体では(炭素で規格化して)8.7対7.9対9.1となり、よく一致している。化学的性質からみるとケイ素が炭素のかわりをできるので、いわゆるケイ素生物を考える人もいるが、量の点からみてケイ素生物が存在する確率は低い。

 生命はあまりにも巧妙にできているため諸原子がそのような配列をとりうる確率を計算し、地球だけが奇跡的に生命をもちえたのであって、他の星ではありえないとする悲観論の人もいる。しかし、生命を組み立てる材料となる諸原子はすべてが同列に置かれたままで結合していくのでない。かならず階層性をもってグループをつくり、結合していくのである。したがって、たとえば二進法で複雑な問題を解こうとする場合、イエス・ノーを繰り返していくだけで数百万の選択肢のなかから必要とする一つを選び出すように、きわめて高い確率で生命の組み立ても行われたに違いない。

[横尾広光]

地球外生命の検出

太陽系内で生命を求めるとしても、月は水・空気ともなく、水星・金星は高温すぎる。残るのは火星と、木星・土星の衛星系である。火星には水も空気もある。1975年に生命探査装置を積んだ二機のバイキング号が打ち上げられ、火星表面に着陸して微生物の存在を調べた。結果は否定的であった。もちろん、着陸地点の選択がつたなかったり、生命探査装置の機能が十全でなかったかもしれないから断言できないが、まず絶望的であろう。

 地球上に落下した隕石(いんせき)を分析すると、生命に関連した有機物が含まれていることは従来から知られていた。とくに1969年9月28日オーストラリアのマーチソンに落下した隕石は、発達した分析設備によって徹底的に調べられた。その結果、グリシンのようなアミノ酸をはじめ、生命に関連した物質が多数含まれていた。隕石は太陽系誕生の時期の名残(なごり)を残しており、これは地球以外でも生命が誕生するということの有力な証拠である。と同時に、地球をつくった原料物質の中にすでに生命を生み出すような物質が含まれていたことを物語っている。

 電波天文学で原始星近辺の星間分子を調べてみると、複雑な有機分子が多数みつかる。これは生命の発生にとってきわめて有利な材料であり、化学進化の可能性を示している。

 太陽系外の生命の存在を観測する作業はすでに多く実行されている。それは生命を直接探すというのではなく、生命が進化して知能生物が生まれ、その知能生物がつくりあげた「地球外文明」を探すという方法で行われている。これは生命より文明のほうが発見しやすいという考えによる。つまり、地球外文明は地球文明と同様に電波技術をもち、他の星に仲間を求めて呼びかけの電波を送信するであろうから、その電波を探し出すことで生命の存在が明らかになる。これがオズマ計画以来の地球外文明(生命)探査の主流の行き方である。地球から何光年も離れた星にそのような文明が存在するかどうかを推定するには、この銀河系内に文明が、いま現在、何個あるかを計算して行う。そのために次のような方程式が用意されている。

 銀河系の星の全数S、星の寿命T、星が惑星系をもつ確率fp、生命に適当な環境下にある惑星数ne、生命発生の確率fl、生命進化で知能生物が生まれる確率fi、知能生物が技術文明をつくる確率fc、文明の継続時間Lとして、文明の数Nは
  N=Sfpnefiflfc・(L/T)
となる。S~1011個、T~1010年、fp~1,ne~1,fl~1である。fi×fc~10-3とする。Lは何年であろうか。Lは主星の寿命より短いとしかいえない。そこで100の文明のうちの一つぐらいが安定な社会をつくるのに成功するとして、平均値でL~107年と考えると、そのときN~108個となる。いずれにせよ、文明継続時間Lがもっとも不定性の大きい因子である。ところで、この楽観的なLの数値(~107)の場合、高度文明間の平均距離は~数百光年となる。数百光年という値は地球人類の現在の電波技術の水準ですでに十分克服できる距離である。電波交信の観測によって「地球外文明」という怪物が実証科学の対象として研究できる可能性を開いていることになる。

 電波以外にも生物学的星間通信手段がある。生物、とくにウイルスのDNA配列の中にメッセージを組み込んでパンスペルミア的に宇宙にばらまく方法である。適当な条件下の惑星に到着したウイルスは自己増殖を繰り返し、惑星全面に広がる。DNAに組み込まれたメッセージはその惑星に長く存在し続け、いつか解読されるのを待ち続ける。これは電波によるメッセージが一瞬の間に通過するのと対照的であるとともに、DNA転写のときに誤りが発生するのを避ける巧妙な方法もあることから、雑音に対しては強いといえる。

[横尾広光]

地球外文明思想の歴史

未確認飛行物体UFOの人気をみるまでもなく、宇宙人は昔から地球人の深い関心の的であった。そして宇宙人が存在するかどうかという問題と関連して世界複数論と世界単一論とが古くから対立してきた。しかし、地球外生命、地球外文明がまだ発見されていないのだから、どうしても空想と思弁の入り込んだ議論になる。地球外文明思想は空想と科学の境界の薄明地帯にのみ存在しうるものかもしれない。

 古代ギリシアの天文観測装置は角度を測る器械であった。そしてアリストテレス的プトレマイオス的天動説が主流を占め、世界単一論が幅をきかせた。そのため世界複数論はルキアノスの著作のように空想の領域に逃げ込んでいた。ヨーロッパ中世には天動説の世界単一論を受け継いで、宇宙人の登場する場はなかった。

 ルネサンス時代に望遠鏡が発明されると、天体の多くが「世界」をなしていることがわかって世界複数論が復活し、宇宙人の空想が登場した。たとえばケプラーは月のクレーターが月人都市の城壁であるとする「夢」を書いている。宇宙人の存在は広く信じられた。地動説が一般社会に浸透したのは、フォントネルが宇宙人の空想を自由自在に活用した『世界の多数性に関する対話』を出版してからのことである。しかし望遠鏡の発達によって他の天体には水も空気もないことがわかってきた。フィーエルはこうした材料を使って「科学的」に世界単一論を主張し、論争を巻き起こした。望遠鏡による眼視観測の時代の最後には「火星人論争」が起こった。火星表面全面に細い筋(すじ)模様の網目が張り巡らされているという報告がなされ、これは火星の高度文明が乏しい水を活用するために大土木工事を行ってつくった運河であると主張された。この説は学界ではついに少数派のままに終わったが、火星人のイメージは一般社会に広く流布し、いまなおその影響を残している。この論争の立役者はP・ローウェルである。その後天文学の研究テーマの主流は天体物理学に移り、宇宙人の存在は話題にならなくなった。

 事情を変えたのは電波天文学の発達である。電波技術を使えば遠くの異星人との交信が可能であることに気づいたドレークたちは、1960年にオズマ計画とよばれる事業を実行した。検出には成功しなかったが、このオズマ計画を前例として多くの試みがなされ、現在では国際天文連盟の分科会の一つとして推進される分野にまで成長し、学界での市民権を得るに至っている。

[横尾広光]

『サリバン著、上田彦二訳『われわれは孤独ではない』(1967・早川書房)』『シュクロフスキー著、金光不二夫訳『宇宙人!応答せよ』(1968・東京図書)』『ポナンペルマ、カメロン編、大島泰郎訳『地球外文明をさぐる』(1976・講談社)』『セーガン編、金子務・佐竹誠也訳『異星人との知的交信』(1976・河出書房新社)』『大島泰郎著『宇宙生物学』(1977・光文社)』『清水幹夫編『現代天文学講座4 惑星探査と生命』(1979・恒星社厚生閣)』『ルード、トイフェル著、出口修至訳『さびしい宇宙人』(1983・地人書館)』

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