地球上の生命の起源においては,最初に環境の成分から簡単な有機分子が合成され,そのあるものは重合化して,生命現象の萌芽であるような構成と機能の基礎となると考えられる。この経過の全体を化学進化と呼ぶ。
有機分子の中心骨格は炭素であるが,合成反応の炭素源としては,それ自体もっとも簡単な有機分子といえるメタンCH4が考えられ,これは反応性に富むので好都合であった。しかし近年,炭素は酸化型(CO2,CO,C2O3)であったとの見方も出てきて,これらを出発点として反応経過を想定する必要も説かれる。他の出発点成分としては窒素ガスやアンモニア,アンモニウム(以上窒素源),水,リン酸,また硫黄化合物として硫化水素や硫酸・亜硫酸などが考えられる。ただし気体酸素O2は原始大気には存在しなかったので,生成した有機分子中のOはもっぱら水に由来した。
最初に生成した有機分子はアルデヒド(ホルムアルデヒドHCHO,アセトアルデヒドCH3CHO),青酸HCNなど簡単かつ反応性の高いもので,また生成に必要なエネルギー源としては地熱(火山),放電(雷),衝撃波(隕石),紫外線,放射線などが考えられる。これら最初の有機物からは,アミノ酸,ヌクレオチド,単糖なども派生し,アミノ酸とヌクレオチドはそれぞれ重合して,タンパク質と核酸に類するものも生じたであろう。これらの反応が実際に生じうることは,シミュレーション実験により確かめられている。ただし各研究者が用いている異なる反応混合物やエネルギー源(加熱,放電その他)のうち,どれが実際の経過を反映するのか,または各種の場合が並行して生じたのかは,判別が容易でない。
生命の進化の最初の段階としての化学進化という考えは,20世紀初頭に現れはじめ,A.I.オパーリン(1924,1936)やJ.B.S.ホールデーン(1929)により確立された。最初のシミュレーション実験はミラーS.L.Miller(1953)によるもので,彼は始原状態における大気の組成を推定し,それに相当するメタン,水素,アンモニア,水蒸気の混合ガスを入れたフラスコ内で火花放電をさせ,簡単なアミノ酸をつくりだすことに成功した。
生命現象の基本である酵素的代謝と遺伝的複製とは,それぞれタンパク質と核酸を中心として発展し,統合されてきた。この段階は生化学進化と呼ぶことができる。原始細胞が成立してのちの進化は,生物進化の発端といえる。すなわち地球上での生命の進化は,化学進化→生化学進化→生物進化の3段階に区分けして考えられるが,前2者を広義の化学進化として,生物進化の序奏とみることもできる。化学進化の見方は,シミュレーション実験に加えて,他天体での元素・化合物のデータ,宇宙空間に希薄ながら各種有機分子(星間分子)が見いだされてきたこと,地球物理学の進歩などに支えられて,実証的な発展を今後も続けるであろうが,歴史的な一過性という進化に特有の問題もつきまとい,理論的な深化と再検討がつねに必要とされる。
執筆者:長野 敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
原始大気から生命の出発点となる物質が発生するまでの一連の化学反応.生命の起源を議論するときに使われる用語.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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